俺は車から降りた。
少し前から降りだした雨が、さらに激しさを増していた。
俺の住んでいたところから、ここまで3時間かかった。
山あいの街だ。
市街地には大型ショッピングモールなどもあるが、そこから外れたら、人もあまり住んでないような山が広がっている。
けっこう田舎だ。
ここは街の中心部と山間部の間に位置する住宅街になる。
古いが思って居たより随分瀟洒な家だった。
門柱に表札があった。『水野』ここだ、間違いない。専業主婦らしいから、たぶんいるだろう。
呼び鈴を押すと、女が出てきた。
「あの…どちら様ですか?」
女は不審そうな顔をした。俺を忘れたのか。
俺はあえて何も言わない。もう45か、老けたな…と思っていた。
女は、しばらく俺の顔を見て…
「圭ちゃん…なの…?」
俺の母親、泰子は目を丸くした。
俺はリビングに通されて、泰子はお茶を運んできた。
「元気そうで良かったわ。その…立派になったわね」
俺は苦笑いして
「立派だって?はっきり言えよ、デブだって」
「そんなこと…」
「俺がなんで来たかわかる?」
泰子は、ソワソワして
「あ…あの事なら、ごめんなさい。後ですごく後悔したのよ。圭ちゃんも連れて行けばよかったって…お母さん、あの時は、どうかしてたの」
「どうかしてた?15年間ずっと、どうかしてたのか?俺を助けに来ることもできたはずだ。今さら遅いよ」
「…ごめんなさい…」
「で、何もかも捨ててスッキリして、あんたはこうして再婚してるわけだ。さぞかし幸せだろうな」
「ごめんなさい…」
俺は苦笑いして
「さっきから、ごめんなさいしか言わないし。あんたが出ていってから、親父は飲んでない時でも俺を殴るようになったよ。もう死んだけど」
「えっ?…ご…ごめんなさい…本当にごめんなさい…お母さん、何と言えばいいか…」
オロオロしてる。ぶざまだ。見ていて楽しい。
「新しい家族には話したのか?」
「夫の暴力から逃げてきたって…」
「俺のことは?」
泰子は顔をそらした。俺は
「話してないんだ。俺はいないことになってるんだな?」
「ごめんなさい…」
俺はお茶を一口飲んで
「頼みがあるんだけど」
「お母さんにできることなら…」
「今、娘いるんだよね?何歳?」
「えっ?…11歳よ。五年生…」
ちょっと待て。11歳?小学生?
話しが違う。そんなの女じゃない、ほとんど幼児だ。あの興信所のオヤジ、テキトーな調査しやがって。
どうする?セックスできる相手じゃない。俺はロリコンじゃないぞ。
動揺する俺に泰子は
「娘が、どうかしたの?」
でも女が欲しいだけじゃない。泰子の大切な娘を犯して汚けがす。それで俺を捨てたことを後悔させる。それも目的のひとつだ。
仕方ない。もう後には引けない。こうなったら小学生でもヤッてやるさ。
しかし色々考えていた計画は、通用しない。
俺はとっさの思いつきで
「小学生か。もうすぐ夏休みだよね。じゃあ…その子の家庭教師したいな。俺の家に呼んでさ」
「家庭教師?急に何言い出すの?それに家は遠いでしょ?」
「引っ越したんだ。ここから30分位だよ。通えるし、泊まりでもいいよ」
泰子の表情が固くなった。
「無理よ…だって女の子だし…」
俺は笑いながら
「変なこと考えてない?まだ小学生だろ?俺を信用できないの?家庭教師だよ。ちゃんと教えるから大丈夫だよ」
小学生レベルの勉強なら、俺にもできそうだ。接近するための口実としては、悪くないだろう。
泰子は迷っている様子だが、きっぱり断るわけでもない。
俺は軽い調子で
「新しい家族は、どんな感じ?そうだ、写真見たいな」
母親は立ち上がり、リビングから出ていった。
アルバムを持って来た。
旦那は、痩せていて背が高い、ちょっと気弱そうな雰囲気だ。
娘は、かなり可愛い。確かに幼い子供だが。
俺はアルバムを返しながら
「いい感じじゃないか。あんたも幸せだろうな。ちょっとトイレ貸してよ」
「そこを出て左側よ…」
俺は席を立った。
リビングに戻った俺は
「別に金よこせとか言わないよ。タダで教えてやるから。そんなに迷うことでもないだろ」
「ちょっと…考えさせて」
「そうだね、よく考えて。母さんのかわいい実の息子・・・・の頼みだからね」
俺は車を走らせ、自宅に向かった。
この計画のために買った、中古の家だ。山の上にある。
平屋の1LDK。8畳程のリビングダイニングと、6畳の和室。あとはトイレと浴室と洗面室。それだけだ。300万ほどで手に入った。これで充分だ。
何より気に入ったのは、半径2キロほどの圏内に、人が住んでいないことだ。
家に帰ると、パソコンを開いた。ネットにアクセスする。
声が聞こえてきた。
『…私のとっておきグルメ!先月、渋谷にオープンした…』
テレビの音声だ。うまくいった。
さっき水野家のリビングに、盗聴器を仕掛けておいた。母親がアルバムを取りに行ってる間に。
さらにトイレに行くフリをして、全ての部屋にも仕掛けた。夫婦の寝室にも、娘の部屋にも。
監視カメラの方が良かったが、見つかりやすいリスクを考えると盗聴器の方が無難だろう。
とりあえず情報収集は大切だ。
俺はそれから、興信所に電話した。
電話に出た男は、にこやかに
「南雲さん、調査はお役に立ちましたか?」
「いや、間違ってたぞ。娘は高校生じゃなくて小学生だったじゃないか」
「そうでした?それは失礼しました」
「失礼しました?それだけか?」
「南雲さんのご依頼は、お母様の消息でしたよね?娘さんのことは、あくまでそれに付け足した情報です。それほど重要とも思えませんが」
「重要かどうか、お前が決めることじゃない。また依頼するかもしれないから、そのときはちゃんと頼むぞ」
「かしこまりました」
まあいいさ、小学生でガマンしてやるよ。けっこう可愛らしい子だしな。
問題は幼児相手に俺のチンポが立つか、ちゃんと穴に入るか、それだけだ。