当時俺、某地方国立大生、アパート一人暮らし童貞。
同じアパートに住む母子家庭の娘信子、中学二年、デブブス根暗。
朝会っても挨拶一つしない、無愛想な信子だった。
でも俺も人のことは言えない、女子に相手にされない不男。
ろくに挨拶も交わさない間なのに、あるきっかけで俺と信子の中は近寄った。
夏、信子は学校のジャージ姿で、アパート敷地内の草むしりをしていた。
短パンTシャツから剥き出る、むっちりした腕と足を晒して。
アパート管理会社から頼まれでもしたのか、それとも母親から言われたのか、汗びっしょりでブラを透かせながら頑張っていた。
ちょっと買い物に出た俺、信子はまだ草むしりをしていた。
『ご苦労様』
俺の声に振り向き、ちょっとだけ笑った信子。
『誰かに頼まれた?』
俺の言葉に、作業をしながら、暇だから自分でやってると答えた。
ほとんど初会話だった。
俺は買い物の中から一本の飲み物を差し出す。
『ありがとうございます』
信子は少しだけ笑顔で受け取った。
『少し休んだら?』
俺の言葉に従うように、信子は草むしりの手を止めた。
夏休みだし、誰か友達とかと遊びに行けばいいのに、それを信子に言うと、信子の笑顔は消えた。
『友達なんかいませんから』
黒縁のメガネの奥の目が沈んだ。
学校でいじめられてるっぽいな、そう直感した俺。
俺も学校で、ほとんど相手にされてないことを言う。
え~?っと驚いたような顔をした信子。
そして、俺的に思い出したくない、中学の頃の話をした。
いじめられたくない一心で、好きでもないクラスのリーダー格のやつの言いなりになっていた。
パシリさせられたり、宿題やらされたり、金の要求はなかったけど、いじめのターゲットになっていたやつを一緒に無視したり。
俺、なんでこんなやつとツルんでるんだ、そう思いながら過ごした中学時代だった。
結果、高校でも俺はやな奴扱いされることが多く、人と話すことが減った。
そんな話を信子は、食い入るように聞いていた。
信子はやはり学校でいじめられていた。
デブ菌が移るから近寄るなとか言われるらしい。
学校に行きたくない、でもそれを言うと、お母さんに心配と負担がかかるから言えないと言った。
信子のお母さんは、機械部品工場で三交代勤務していた。
その会話がきっかけで、信子と俺の距離が縮まった。
学校でつらいことがあると、お母さんが夜勤のとき、俺の部屋にきて話をしたりするように。