シミちゃんって言うのは、名字がシミズだから。
よくよく考えたら危ういあだ名なんだけど、その頃の女子の肌着の定番がシミーズだったので、男子がシミーズ、シミーズってからかうから、女子はみんなシミちゃんって呼んでた。
からかうっていっても、いじめっていうんじゃなくて、ちゃんとみんなと仲良くしてたし、たぶん普通の子だったと思う。
容姿や運動神経とか成績とか、小学生の女子がモテる要素はそんなとこかと思うけど、シミズはそういったのからはちょっと外れて、どれも順位は真ん中ぐらい。
たぶんシミズを女の子として好きになった男子は、失礼ながら、これまでいなかったんじゃないかな。
夏休みが開けて、二学期のはじめに席替えがあった。
席はくじ引きなんだけど、結構色気付いてる連中は、どの子の隣がいいとか何とか言って、騒いでた。
でも、僕はその頃は女子の隣は何となく嫌だった。
小学校4年生の僕は、まだまだ「お子ちゃま」でしかなかったんだ。
みんながランドセルを持って、新しい席に大移動。
で、僕の隣がシミズだった。
僕は、前の席に決まった仲のいい男子とおしゃべりをしようと、そいつが席に来るのを待ち構えていたんだけど、横からシミズが話しかけてきた。
「カワムラくん、お隣、初めてやね」
「そうかなぁ」
三年の時も同じクラスだったけど、隣は初めてかもしれない。
でも、いちいち覚えてなかった。
一瞬目があって、シミズはちょっと首をかしげるようにして、にっこりと笑った。
「シミちゃんって呼んでね」
ただクラスの女子が笑っただけ。
それで、落ちた。
恋かどうかわからないけど、目の前の子が、突然、僕の世界の中心になった。
「シミ……ちゃん?」
じっと見つめ合うタイミングだと思うのに、シミちゃんは、他の女子に声をかけられて、あっけなくそっちを向いてしまった。
シミちゃんはいきなり僕のハートを鷲掴みにしといて、いつもと変わらない学校生活をエンジョイしてた。
僕はもう、シミちゃんが気になって気になって、「おはよう」から「バイバイ」まで、ずっと見続けていた。
僕の危うい視線など気付くこともなく、シミちゃんは運動会の練習で、運動場をブルマ姿の元気な脚で跳び跳ねていた。
クラスの女子にこんな「女の子」を感じたのは初めてかもしれない。
おちんちんがむずむずする感覚があったけど、おちんちんにおしっこをする以外の機能があるなんて、知るよしもなかった。
シミちゃんは、僕に笑いかけてくれるけど、もちろん他の子にも笑いかける。
僕は、シミちゃんの笑顔を独り占めしたくなっていた。
ある日、昼休みに何人かでカクレンボをやっていたときだった。
僕は、鬼でもないのにシミちゃんの動きを追っかけていて、シミちゃんが隠れた植え込みの影に、後から回り込んだ。
シミちゃんは、一瞬、見つかったのかと驚いた顔をしたが、すぐにニコッと笑って手招きしてくれた。
「カワムラくん、こっちこっち」
僕は、シミちゃんの隣にくっついてしゃがみ込んだ。
回りは結構人がいたけど、どうみてもカクレンボ中なので、くっついてても誰もなんとも思わない。
ドキドキしながら、シミちゃんを観察した。
何がどう良いのかわからないけど、シミちゃんの笑顔が輝いて見えた。
しばらくじっとしていたので、肩にシミちゃんの体温を感じてきて、なぜかおちんちんがむずむずする。
シミちゃんが、腰を浮かせて、植え込みの上から顔を出して校庭のようすを覗こうとした。
シミちゃんは膝に手を突いて中腰になって頭を植え込みから出している。
見つかるとヤバイよ、と思いながら横をみると、おしりをつきだす格好のシミちゃんのスカートからパンツがはみ出していた。
僕は、思わず身を低くして、シミちゃんのお尻を下から覗き込んでいた。
緩めのダボッとした感じの白いパンツ。
5年生ぐらいになったら、みんな意識してブルマなんかを上から穿くんだろうけど、僕らは微妙な4年生。
そのままのパンツが一枚だけで、丸っこいお尻の柔らかさが伝わってきそうだ。
僕は、たぶん不自然なぐらい体を捻ってたと思う。
シミちゃんのお尻が真上にあるような感じがした。
屋外の明るい自然の光のなかで、揺れてる白いパンツ。
その、脚の合わせ目付近。
見たことはないけど、女の子の大事なところが隠されてる部分に、僕の目が行かないわけがない。
少し影になった奥の方は、薄黄色のシミが、濡れているのか乾いているのか、滲んだように淡く広がっていた。
鼻を近づけたら、おしっこの臭いがするかもしれない。
僕は、そのシミに触れてみたくなって、そっと手を伸ばした。
それが濡れているのか乾いているのか確かめたくなったのだ。
でも、5センチ手前でためらったまま、シミちゃんのお股に手をかざすみたいな格好で止まっていた。
隣にお尻を見つけてから、実際には数秒しか経ってないと思う。
(ダメ、やっぱり触れない)
さすがにその激情を何とか抑制できたそのとき。
「シミズ見っけ!」
鬼の叫ぶ声が聞こえた。
慌てて隠れようとして、シミちゃんがバランスを崩して、尻餅をついた。
僕は、いつの間にか地面に伏せるようにして、上を向いていたらしい。
そうでもしなければ、中腰の女の子のパンツを真下から仰ぎ見ることなんかできるはずがなかった。
そのせいで、僕の顔はシミちゃんのお尻をまともに受け止めることができたんだった。
「きゃっ! ごめん」
シミちゃんは天使のような声で僕に謝ってたけど、それは僕まで一緒に鬼に見つかってしまったからかもしれない。
僕は、シアワセ者だ。
シミちゃんのシミ。
淡いおしっこの香りで、少し湿った感じは汗かもしれない。
もう「一生顔は洗わない」と心に誓った。
その一件以来、シミちゃんの存在は僕の中で大きくなりすぎて、やや溢れぎみになっていた。
つまり、学校以外でも一緒にいたくなってきたのだ。
僕は、とうとう通学路にある児童公園で、通りかかったシミちゃんに声をかけた。
「シミちゃん」
「あれ、カワムラくん、どうしたん?」
シミちゃんが驚いて立ち止まった。
僕は人目が気になって、手招きして、公園の中に誘った。
奥まった所にある滑り台の横で向かい合って、目の前にいる女の子に、僕は夢中で告白していた。
ムードなんて考える余裕はなかった。
「シミちゃん、僕と付き合って!」
「えっ? いいけど、どこ行くん?」
シミちゃんはちょっとぼんやりした子だった。
「いや、付き合うって、そう言うことじゃなくて、シミちゃんのこと好きやねん。彼女になってや」
「はにゃ?」
シミちゃんが、何て言おうとしたのかよくわからないけど、そんな風にしか聞こえなかった。
「いい?」
「え、でも、なんで? わたし?」
「だって、シミちゃん可愛いから」
シミちゃんのほっぺたが赤くなって、はにかんだように口元が笑った。
それで、
「うん」とだけ、頷いた。
「ありがとう!」
僕は、その返事が信じられないぐらい嬉しかった。
「そしたら、わたしら、コイビト?」
うつむき加減の目がちょっといたずらっぽく見えた。
「そうやなぁ」
「どうしたらええん?」
「うーん、どうしよ」
付き合うと言っても、小学4年生ではどういう状態がコイビト同士になるのかわからない。
「ほな、チューする?」
「えーっ!? カワムラくんエッチやぁ」
さすがにいきなりは不味かったか、シミちゃんが突き放すように両手を前に出して、一歩下がった。
「ちゃうよ、コイビトやったらチューするかなって……」
「チューは大人になってからやん!」
「ほな、抱っこは」
「うーん、いいかなぁ……」
シミちゃんがモジモジと体を揺らす。
僕は、通りから陰になっているのを確かめてから、シミちゃんの背中に手を回した。
ものすごい近距離にシミちゃんのほっぺたがあった。
シミちゃんは赤くなって、気を付けの姿勢のままだ。
はじめて抱いたシミちゃんは太ってないのに柔らかくって、丸かった。
「シミちゃんも抱っこしてみて」
「うん」
そろそろとシミちゃんの手が背中に回ってきた。
お互い、電信柱に抱きついてるみたいな抱擁だ。
でも、僕のおちんちんのむずむずは最高潮だった。
生まれてはじめて女の子に向けて尖っているのかもしれない。
なんか恥ずかしいけど、尖った先をシミちゃんに押し付けていた。
「なんか、スゴいドキドキするぅ。わたしもカワムラくんのこと好きやったんかなぁ」
「そうや、コイビトになるくらいなんやから」
しっかり抱き合いすぎて、お互いの顎が相手の肩に乗っている。
まるで相撲のようだ。
「なあ」
シミちゃんが肩の上で小さく言った。
「ちょっとだけやったら、いいよ。チュー」
僕は、体を離してシミちゃんを見た。
真っ赤になって恥ずかしそうに笑っている唇はいっそう赤かった。
僕は、唇を尖らせながらシミちゃんに顔を寄せた。
はじめてのチュー。
雀がエサをついばむみたいな、チュンチュンキスだったが、最高の気分になった。
シミちゃんの唇は、乾いてカサカサしてたけど、スッゴく柔らかかった。
僕は、夢中だったけど、シミちゃんは「あ、誰かきた」と言って、スッと体を離し、素知らぬ顔で「また明日」ってバイバイをした。