落し物
私は40歳を前に、会社のリストラにあい失業した。
幸いなこと、知り合いの議員の伝手を得て、短期でしたが臨時職員で某公立高校の事務員…早く言うと用務員の仕事に就くことが出来た。
それほどレベルの高い学校ではなかったので、生徒の風紀は褒められたものではなかった。
男子トイレを掃除すると、必ず吸殻が大量に出てくるし、体育館の用具倉庫でティッシュにくるまれた使用済みの避妊具を発見したこともあった。
誰もが夢見た、青春ドラマのような“学園”は私の見た学校生活にはなかった。とにかく、毎日、毎日を送ることに追われていた。
さて、問題の出来事は2月のある日のこと。
午後の授業、五時限目のこと、理科の教材を教員準備室に運び込んだあと、ふと3Fの専門教室近くの女子トイレからタバコの匂いがするのに気がついた。
教員にはもちろんトイレでタバコを吸うような人はいない。
ドアに近づくとなにか唸るような異音に気がついた。さらに「あっ…」小さな悲鳴のような唸るような女性の声が聞こえたので、思わず声をかけた。
「誰かいますか?」
今、この近くの専門教室を使っているクラスはないはず。
女子トイレなので中に入るのは憚かられ、ドアだけを開けて中を確認した。
奥の個室の扉が閉じられ、誰かがいるのは明らかだ。
「用務員の高田です。先生には言わないから出てきなさい…」
優しく諭すと、ドアを開けて少女は出てきた。
地味な風貌に、授業をサボる様な昔の不良とは程遠い姿の少女にちょっと驚いた。
確か美術部に所属している2年生の娘だと記憶していた。
「クラスと名前は?」
「2年A組の佐藤あいらです。」
うつむいたまま答えました。
「授業はどうしたの?」
「気分が悪かったので…こっちのほうがトイレが綺麗なので…」
「でも、タバコ吸っていたよね?匂いがしていたよ。」
「ごめんなさい。」
「とにかく、タバコは出しなさい、先生には言わないから。」
あいらはうつむいたまま、無言で手にしていたポーチからメンソールのタバコを取り出し、僕に手渡そうとした。
その時、ポーチの中から黄色いタオル地のハンカチが床に滑り落ちた。
タオル地のからは想像のつかないプラスティックと金属音が人のいない廊下に響いた。
「あ!」
あいらが慌ててそれを拾い上げようとする。
しかし、先に拾い上げたのは私だった。
「これは!?」
長円球状のプラスティックからコードが伸び、リモコンにつながっている。それはピンク色をしたローターだった。
ローターにはピンク色のコンドームが被せられていた。
さっき聞いたのあのうなるような異音はこのローターの音だったのだ、
あいらはあの個室の中で授業中にオナニーにふけっていいたのだ。
つづく