しかし、ついに終わりが近づいた。由希に僕が「結婚を約束してほしい」と言い始めた
のがきっかけだ。そのたびに由希は正直に「初めて好きになった人といきなり結婚
まで考えていいのかな、と思ってしまう」「まだ20歳にもなっていない、社会人に
もなっていないのに結婚を決めるなんてむずかしいよ」と言った。
そのたびに「それもそうだ」で終わっていた。それでも僕はしばらくするとまた
同じ事を言ってしまうのだった。もしかすると別れなければならないかもという
気持ちがよぎることがあった。
それでも「好きだよ」という置き手紙が家にあったり(由希は時々短大とバイトの
合間に、仕事で不在の僕の部屋で時間を潰した)、昔のエロ本を見つけられて「もっと
きれいなのを見せてあげるからこんなの捨ててね」というメモを挟まれていたことが
あったりした。
由希が浴衣で家に来てくれて、そのまましてしまったことがある。最初は浴衣が乱
れたら後で困るからと言って、由希の裾をまくってパンツを脱がせて、それで立位で
やった。結局どんどん脱げて(脱がして)帯も解けて、浴衣に袖が通ってるだけの
カッコで、最後は口でやってもらった。エロビデオみたいな状況で盛り上がったの
だけど、帯がこんがらがっておかしくなった。家に帰る時、玄関からさっと部屋に入っ
て普段着に替えて「もう着替えちゃった」とごまかしたそうだ。
「どうしても泊まっていって」と僕がわがままを言った時、「お母さんに了解を取っ
てくる」と言って外の公衆電話に行って、戻ってくると「だめだって、戻って来いって」
と由希は言った。その時に僕はとても悲しそうな顔をしたそうだ。由希は「じゃあ帰る
ね、送らなくていいから」と言って玄関で靴を履くと、「うそ」と笑った。
「え?」「泊まっていいって」。僕は「このー」と言ってその場で強引にキスをして、靴を
履いたままの由希のスカートを下ろして、立ったまま後ろからつっこんだ、そのまま
四つん這いにして「もう犯したる」と言って後背位で延々と突きまくった。あえぎなが
ら「帰ると言ったときの顔がかわいかった」と由希が言うので、よけいに乱暴にやった。
由希は僕に「かわいい」と何度も言った。「すごいエッチ」とも言った。そういうことも
あったが。
30数年前、地方に住んでいる30歳に近づいている男が独身であるといろいろ起こっ
た。親族からの「まだ結婚しないのか」「展望のない恋愛をしているなら見切りを付けろ」
という古めかしい圧力。 そして僕自身の「モテ期」。
あちこちからアプローチがあった。当時は若い高校教師というのは、安定的で信用でき
、話が楽しい人というイメージがあり、「適齢期」の女性には声をかけやすい相手であっ
たからだろう。他の高校に勤めていた時の複数の卒業生からも会いたいという連絡があ
った。
卒業生の中には、由希がいなければそのアプローチに喜んで応じたであろういい子
もいた。かたや「これは深入りすると危険」と感じる妖艶な女性(卒業生ではない)も
近づいてきた。
女子ハンド部はますます強くなり、遠征に出たり県内外の高校を集めての練習会に
来てもらったりするようになって日曜日がほんとうになくなっていった。
由希もバイトやサークルで忙しくなった。会えない日々が長くなった。僕の家にいき
なり来る女子がいたり(据え膳的な「今日は帰りません」だったがちゃんと追い返した)
他の女性と長電話になってしまい、直後にやっと繋がった由希に「どうして電話が繋が
らないの」と苛立たれたりした。
つまらないことでけんかしたり、僕が教師面して由希を説教したりして数時間口が
きけなくなるような時があったりした。
その頃、由希は繰り返し好意を示してくるバイト先の「すごく優しい」男性社員に口説
かれていた。
最初は僕に「バイト中、私に何度も会いに来る人が居て、会社から怒られたの。なのにそ
の人それでも私のいる場所にまた来るの」と淡々と話していた。
油断していた僕は「面白いな」と言っていたが、その男のことが何度も出るので「もう
相手にしないでほしい」と言った。
しかし遅かったようで(あとでわかるのだが)由希はその男に気持ちを寄せ始め、「自
分はすごく悪い子だ」と自分を責めつつ由希は男に応じてしまった。僕が事態に気がつい
た時には「進展」してしまっていた。
「結婚を求められているのにそれに応じられない私は、もう別れなきゃいけないのか
なと思った。」そこに結婚とか言わない優しい男が現れたというのが、後の由希の説明。
白状すると、僕も先に挙げた妖艶な女性の誘い(1回だけしようよ)に1度乗ってしま
っていた。「深入りすべきでない相手だからこそ1回なら大丈夫」という言い訳が内心に
あった。ひどい言い訳でひどい裏切りだ。
こうして僕と由希の3年半の結びつきは解けてしまった。最終的には僕が振られた。
その後の僕の後悔や苦しみは並大抵ではなかった。心がガラスのように割れてしまっ
たと感じ続けた。その後、10年近く辛い状態を経て、最後はふつうに結婚した。
子どももすっかり大人になり、初老夫婦としては仲良くしているほうだと思う。定年
を越えても再雇用で忙しく教員仕事を続けている。ここに書いてきたことは妻にも誰
にも言っていないし、言うつもりもない。これからも妻と楽しく生きていく。
別れて数年後、ハンドのOG会に行ったら、結婚したという由希が来ていていたたま
れなかったことがある。それ以来相当長くOG会はパスし続けた。
その後、由希に街で不意に出会った。夫であろう人を横に、子どもを抱いていて幸せそ
うだった。やはりきれいだった。由希は僕には気がつかずに行ってしまった。