木戸の隙間から、はしゃいでいるふたりの表情を覗き見ていました。
課長おじさんが、胸を寄せたり上げたりするふりをしながらおちゃらけています。
やめて、
(どきどきどき)
恥ずかしいよ・・・
狂おしいほどの被虐感に、自尊心を掻きむしられていました。
おデブが満面の笑みでニヤついています。
(よかったね)
(いいもの見られて)
本当は言ってやりたいぐらいでした。
あなたたち、
(わかってるの?)
私、本当はこんなに心臓ばくばくなんだよ?
それなのに・・・
(そんなにニヤニヤしないで)
(私、泣きそう)
とにかくふたりとも楽しそうでした。
やがて・・・
課長おやじが、しゃべりながらこちらを指さしはじめています。
(なに?)
(何て言ってる?)
どうして指さしているんだろうと思いました。
彼らの会話をなんとか聞き取ろうと、懸命に耳を澄ませます。
そして、
(あ・・・)
はっとしました。
(うそ?)
(こっちに来る気?)
ふたりそろってお湯からあがって・・・
そのまま、
(え、え・・・)
まっすぐこちらに向かって歩いて来ています。
(ひゃっ)
眩暈がしそうでした。
慌てて石垣のような部分を折り返します。
ただでさえ『どきどき』していた心拍数が、さらに急加速していました。
(うそ・・うそ・・)
手に持ったままだったバスタオルを岩の上に投げ置きました。
急いで、
「ざぶっ」
湯だまりに飛び込みます。
もうじゅうぶんでした。
じゅうぶんなのに・・・
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
数秒と待たず・・・
石垣の裏で、
「ガカっ」
木戸の開く音がしていました。
「いいんですか?」
「こんなに堂々と女湯に」
「だいじょうですよ」
「どうせ、さっきの子しかいませんって」
石垣部分をまわりこんで、おやじたちが入ってきます。
(ああ・・・)
まさかの第2ラウンドでした。
実際、私自身としてもまったく予期していなかった展開です。
それでも、
「Voc槌s tamb槌m vieram?」
とっさに演技をしていた『私』でした。
あなたたちもこちらに来たの?という感じで、お上品な笑顔を振りまいてみせます。
(あああ)
(だめかも)
正直、不安がありました。
さっきの状況と同じと言えば、同じなのですが・・・
こちらの女湯スペースは、男湯と比べて圧倒的に狭いのです。
「ハーイ」
「いっしょに入ろうね」
お〇んちんをブランブランさせたはだかのおじさん2人が、
「ざぶっ・・・じゃぼっ・・・」
あたりまえのように湯だまりに入ってきました。
(あ、あ・・・あ・・・)
男湯と女湯が分かれているとは思っていない、私の演じる『この女』です。
その前提を、いまさら覆すわけにはいきません。
微笑みをキープしたまま、
「voc槌 tem certeza?」
横につめるしかありませんでした。
男湯スペースのちゃんとした岩風呂とは違って、こっちはただの小さな湯だまりです。
お互い脚を伸ばせばぶつかり合うような近さでした。
しかも、お湯は透明・・・
それなのに、全裸で3人混浴状態です。
(あ、あ・・・)
(だめだ、泣きそう)
昨日の温泉郷でのことが思い起こされます。
『狭い』という意味では・・・
2軒目の混浴棟の、やぐらの柱に囲まれた露天風呂でも同じような状況はありました。
でも、あのときとはまったく違います。
昨日のは、ちゃんとした混浴のいわば健全(?)などきどき・・・
このふたりは、
(ひいん、近いよ)
ただのすけべなエロおやじです。
「しっかし、かわいい顔してるなあ」
あっという間に限界でした。
いくらなんでも、この『近さ』は尋常ではありません。
狭すぎでした。
課長おやじのお〇んちんが巨大にそそり立っているのが、お湯の中に見えます。
(ほんと嫌だあ)
(もうだめ帰る)
「カワイコちゃん」
「もっとおっぱい見せてよ」
セクハラ発言の集中砲火でした。
ふてりとも何を言ってもこっちには意味が通じないと思って・・・
愛想のいいにこにこ顔で、
「俺はま〇こが見たいなあ」
目の前にいる私に、面白がるように卑猥な言葉をかけてきます。
「君のおま〇こ見せてごらん」
「つるつるま〇こ」
「What?」
「剃り残しがないかチェックしてあげるからさ」
「あはははは」
「What you say?」
下ネタでからかわれているこの子が、あまりにも不憫でした。
(かわいそう)
(なんの罪もないのに)
でも、一方では・・・
それでもお上品な表情を演じ続けている自分にどきどきがとまりません。
わからないふりをして、
「What?」
可愛らしく首をひねってみせていました。
(イヤあん)
(もう泣きそう)
「ふうーぅ」
のぼせてきたかのように深い息をつきます。
脚を伸ばすと、
「ふうーう」
足先が課長おやじの足にぶつかってしまいました。
「sorry」
「カワイすぎてたまんねえな」
「もう1回、ま〇こ見せてくれよ」
相手の目を見て、
「I don't know・・・what you・・・saying」
わけがわからないという困惑の表情を浮かべながら、はにかんでみせます。
そのうえで・・・
「Voce quer ver meu?」
すっかりのぼせたふりをしました。
ひとたびお湯から出ようものなら、それこそ隠れ場などありません。
(やめてやめて)
「ふーう」
「ざば」
お湯の中から立ち上がって、そのまま湯だまりのふちに腰かけました。
渓流を背にして、
「ふうーうぅ」
山の木々のざわめきを見上げます。
腰かけた私のすぐ後ろにコンクリートの護岸がある位置関係でした。
お湯につかっているおじさんふたりと、もろに正対してしまっています。
(ひいいん)
リラックスした感じで、揃えたひざをゆるめます。
からだの後ろに両手をつきました。
見上げるように青空に顔を向けて、まぶしそうに目を細めます。
(ほら、まる見えだよ?)
(この子の割れ目)
おじさんたちが、ぴたっと黙っていました。
心の中で、
(イヤあああ)
本当の私が泣きべそをかいています。
「・・・・・・」
「・・・・」
くつろいだ素振りで、
「eu vou te mostrar」
のんびりと温泉気分にひたっているこの女・・・
「・・・・・・」
おじさんたちはじーっと無言のまま固まっています。
(やめてやめて)
(もう許して)
自分の演技力だけが頼りでした。
太ももを半開きにしたまま、
(ひいいん)
渓流の音に聞き入るように静かに目を閉じます。
「・・・・・・」
「・・・・」
(あああああ)
(もうどうにでもなれ)
ゆっくりと時間が流れていました。
誰も言葉を発しません。
太ももをゆるめたまま、こうして目を閉じて風にあたっていると・・・
(気持ちいい)
清流のせせらぎと・・・
遠くには、
(あれは鳥の声?)
でも、風にそよぐ木々のざわめきに掻き消されています。
山の匂いがしました。
川の匂いもします。
何もまとっていない肌に渓谷の空気が心地よくて・・・
なのに、
まぶたを開けると、
(イヤあん)
おやじたちが真正面から私の股間を凝視しています。
(いやんいやん)
あたかも景色に見とれているかのような顔で、
「Eu n槌o sou estrangeiro」
独り言つ彼女・・・
手持ち無沙汰に、湯中に落とした足先を2,3度左右に動かします。
髪を留めていた小さなバレッタを取りました。
横に置いて、また両手を後ろにつきます。
「eu sou japon槌s」
再び目を閉じました。
渓谷の風に身を委ねて、のぼせたからだを冷ますこの子・・・
あくまでも自然体を装っています。
今度はさっきよりも太ももが開いてしまっていました。
羞恥の気持ちに押しつぶされて、そのまま思考が停止しそうになります。
あまりにも非日常的なシチュエーションに、脳がとろけそうな快感を覚えていました。
(見ないでえ)
目を閉じたまま森の声に耳を傾けます。
自然の息吹が、
(気持ちいい)
私の心を包み込んでくれている気がしました。
水の音、植物の音、空気の音・・・
空を見上げるようにまぶたを閉じている私の顔を、太陽がまばゆく照らしてくれています。
(ああ、私・・・)
(恥ずかしすぎる・・・)
沈黙を破ったのはふたりのほうでした。
課長おやじが、
「キレイな○○○だなぁ」
隣のデブに話しかけています。
「いやー・・・こんなに目の前で」
「すげえ、いい眺め」
私は目を閉じたままでいました。
両手を後ろについたまま、湯中にひざ下を投げ出しています。
「この子、お〇んこ、〇〇〇〇〇・・・」
「あ、ほんとですね」
(ひいいん)
おやじたちが私の『あそこの形』を話題にしていました。
狭い湯だまりで、
「〇〇んでるよな、5ミリぐらい?」
課長おやじなんて、わずか1メートルぐらいの近さなのに・・・
声に出してこの子のヌード品評会です。
「やっぱ、乳首が〇〇〇〇・・・」
「乳輪が小さいのが逆にエロいんだよな」
(死ぬ・・・死にたい・・・)
「こんなにばっちり拝ませてもらって・・・」
「なんか、この子の彼氏に申し訳ないなあ」
胸の奥が、きゅっとしました。
本当の私は、
(彼氏どころか)
ろくに男友達さえいないのに・・・
つむっていたまぶたを開きます。
「いやいや、こんなカワイコちゃんを」
「ひとりにさせとくやつのほうが悪いよ」
(あああん、ばか)
(なんでも勝手に決めつけないでよ)
一気に自虐的な気持ちになりました。
いやんいやん、
(じろじろ見ないで)
私、独り身なのにかわいそう・・・
(彼氏なんていないのに)
(かわいそうだよう)
目を開けていますから、私からも相手の顔が見えています。
おデブが鼻の穴をふくらませていました。
その目は、まっすぐ私の股間をみつめたままでいます。
(ばか、ばか、見ないで)
(見ないでよう)
「ちっくしょー、いい女だな」
「しかもお〇んこまる見えだぜ」
さりげなく目線を向けてあげました。
言葉はわからないけど(というふりで)、
「What?」
楽しそうに談笑している(ふうに見える)彼らに・・・
にこっと微笑みかけてあげます。
(ほらほら、この子)
(こんなに朗らかな笑顔だよ)
「Voc槌 gosta tanto da minha nudez?」
(ほら、こんなに)
(おめめぱっちり)
いい女って言って・・・もっと言って・・・
だって私、
(言ってることぜんぶわかるよ)
日本人だもん・・・
われながら、演技は完璧でした。
幸せそうな微笑みで、
「ふーうぅ」
のんびりと野天のお風呂を満喫してみせています。
「美人だよなあ」
「うちのかみさんと大違いだよ」
自虐の極みでした。
もっと喜ばせてやれよ・・・
(おまえなんか)
どうせ悲しんでくれる彼氏なんかいないだろ?
(もっと見せてやんなよ)
(おまえのま〇こ)
ふたりを喜ばせてあげたいという一心でした。
(あなたたちの会社に)
(私よりキレイな子、いる?)
そろそろ上がろうかなという顔で、腰かけていた湯だまりのふちから立ち上がりかけます。
後ろの渓谷美を振り向きざま・・・
偶然、
「カッシャ」
足もとにあったバレッタを爪先で蹴ってしまっていました。
「Opa(きゃっ)」
嘘です。
最初から計算ずくでした。
そのままコンクリートの端から、護岸の下に『ぽとん』と落ちてしまうバレッタ・・・
あたりまえのように、
「Eu deixei cair」
ひょいとその場にひざまずく『この女』です。
(やめてやめて)
(恥ずかしいよ)
無造作に四つん這いになっていました。
コンクリート部分のへりを両手でつかんで、護岸の下に目をやります。
後ろにお尻を突き出したまま・・・
心の中で、
(ひゃああああ)
恥ずかしさに悲鳴をあげていました。
課長おやじの、
「ぉぉ・・・」
呆けたような声に心を辱められます。
「どうしたの」
「落としちゃったの?」
私の真後ろには、おじさんたち・・・
親切ぶって、
「みつからない?」
さらに間近まで詰め寄ってきます。
(ひいいん)
(エロおやじ)
「おま〇・・・・」
「すげ・・・・・」
(いやあん)
(見ないで)
「・・・・・」
(ひいいいい)
バレッタは、すぐ真下のところに落ちていました。
なかなかみつけられないふりをして、
「I can't find it」
この子の無毛の股間を後ろから覗き込ませてあげます。
懸命に探しているかのように、私ひとりがつぶやいていました。
「Eu n槌o tenho namorado」
「Voc槌 est槌 feliz em ver meus genitais?」
四つん這いのあそこに目が釘付けになっているのか、おやじたちは無言です。
「・・・・・・」
「N槌o olhe」
「estou prestes a chorar」
「・・・・・・」
(あああ、私・・・)
(恥ずかしい)
心の奥底に潜むもうひとりの自分が、『私』に恥をかかせようとしていました。
まる見えになっているはずの肛門をきゅっとすぼめて、
(ああん。。。)
また力をゆるめます。
2度3度と繰り返すと、ついには・・・
「ははは、この子」
「ケツの穴もキレイだな」
(イヤあ)
(そんな感想いらない)
おやじたちは容赦ありません。
下卑た口調で、
「おーい、聞こえないの?」
課長おやじにからかいの声を投げかけられます。
「カワイコちゃん」
「お尻の穴が見えてるよ」
「ははははは」
(あああ、お嫁にいけない)
(死にたい)
屈辱的すぎて限界でした。
あまりの恥ずかしさに、頭の中が真っ白になりかけます。
「Muito embara槌oso」
「なにやってんだよ、顔近いって」
「バレるぞ、バレる」
(ひいい、変態)
(もう死ぬ・・・)
護岸自体は、1m半ぐらいしか高さがありません。
その気になれば、簡単に下の河原に降りて拾いにいくこともできました。
でも、どうせ安物のバレッタです。
そんなことより、もう恥ずかしすぎて泣きそうでした。
「・・・・・・・」
「・・・・・」
(嫌あ・・・見ないでえ)
みつけることを諦めたかのように、
「Not found anywhere」
首を横に振りながら、すっと立ち上がります。
「Eu sou muito t槌mido」
(ひいん、ひいいん)
何食わぬ顔で、そのまま自分の荷物のところに歩み寄りました。
乾いたスポーツタオルを取り出します。
(馬鹿・・・馬鹿・・・)
(死にたい)
心の中で泣きじゃくっていました。
もはや、一刻もはやくこの場から去りたいというその気持ちしかありません。
そんな私の心情も知らず、
「あれ、帰っちゃうのかな」
「ごはんごはん、S木さん早くごはんに誘わないと」
課長おやじが、
「あー、ランチ、いやディナー、ウイズアス?」
つたない英単語を投げかけてきます。
声のほうに顔を向けました。
「No thanx」
意地でも演技だけは続けて、はにかみながら断ります。
「A verdade 槌 que eu sou um japon槌s comum」
「estou envergonhado」
われながら大したものでした。
心の内とは裏腹に、表面上は見事なまでの自然体を装ってみせています。
「Que pessoa feliz(見たんでしょ?)」
「Voc槌 viu minha virilha?(私のあそこ)」
「え、なんてなんて?」
にこにこしながら、
(よかったね、おじさん)
スポーツタオルでからだを拭きました。
ぱっぱと服を身につけて、手早く荷物をまとめます。
長居は無用でした。
「あー、帰っちゃうよ」
「せめて記念写真ぐらい・・・」
満面の笑みで、
「Bye・・・Homens lascivos」
さらっと挨拶の言葉を残して、その場を後にします。
もうだめだ、泣きそう・・・
(どきどきどき)
心臓が苦しい・・・
ひとりで階段道を上がっていきながら、ひざががくがく震えていました。
崖に沿って、カーブするように登っていきます。
眼下の野天風呂が見えなくなりました。
(もうイヤ)
(死にたい)
男の前であんな格好・・・
羞恥の余韻に涙を浮かべながら、とぼとぼ車まで戻ります。
車内に入っても、しばし脱力したままエンジンすらかけることができませんでした。
涙が、
『ぶわーっ』
あふれ出てきます。
号泣していました。
(あんなことして)
(馬鹿・・馬鹿・・・)
ひとしきり泣きじゃくってからシートベルトをつけます。
エンジンをかけて、
(でも、よかった)
車を発進させました。
(あの人たち)
(あんなに喜んでくれてたから)
おデブなおじさんのいやらしい目を思い出します。
顔を上気させたまま、その日の宿に向けてハンドルを握る『私』でした。
あと少し続きます。
※元投稿はこちら >>