レンタカーを運転していました。
慎重にハンドルを握りながら、山間の道を進んでいきます。
某キャンプ場の前を通過しました。
目的地が近づいてきています。
(さすがに疲れた)
久々の来訪でした。
目指しているのは、知る人ぞ知る渓谷沿いの野天温泉です。
かつてはこちらの隣県に私の実家がありました。
帰省してきたときにはときどき足を延ばしていた、思い出の多い場所です。
(遠すぎ。。。)
今日は、いま私が住んでいる〇〇から日帰りの強行軍でした。
出発してから、もう6時間ぐらい運転してきて・・・
とっくにお昼時を過ぎています。
(懐かしいな)
私も、もう若くはありません。
両親もなくして、天涯孤独な身になってしまいました。
生活していかなければなりませんから会社勤めを続けてはいますが・・・
ただそれだけという無味な日々を送っています。
(昔はいろんなことをしたっけ)
思い出めぐりに近い心境でした。
振休を取得していたものの、行くところもなく・・・
なんとなく久しぶりに来てみたくなったという感じです。
(昔みたいにどきどきすること)
(あるかなあ)
帰りのことも考えれば、滞在できるのはせいぜい2時間がいいところでした。
平日ということもあって車は多くありません。
あいにくの曇天でした。
外は、ものすごく蒸し暑そうです。
途中で未舗装路を経由した後、道沿いにいくつか旅館が見えてきました。
そのうちのひとつに車をとめます。
大昔、1度だけ宿泊したことのある宿でした。
(おなかすいた)
そのお食事処に入って、おそばをいただきました。
以前と変わらない美味しさに、懐かしさでいっぱいになります。
思わずお店の女性に話しかけたくなりました。
私、昔ここに1泊させてもらいましたよ・・・って。
でも、
(言ってどうなる)
そのように心の中で思うだけで実際に口を開くことはありません。
お会計をしてお食事処を出ました。
(あーー)
ついてない・・・
霧雨になっていました。
車に乗り込みます。
エンジンをかけてスタートしました。
数百メートル走ると、道沿いに駐車場が現れます。
いちばん奥にとめました。
長い長いドライブの末に、やっと到着です。
(お天気やばそう)
ほんの数分でかなり空が暗くなっていました。
車の中で、スニーカーからスポーツサンダルにはきかえます。
行こうとしているのは、森の歩道をけっこう進んだ先にある野天風呂でした。
貴重品等はすべてダッシュボードの中にしまいます。
折り畳み傘とトートバッグだけ持ちました。
車から降ります。
(うっわ、暑っつーい)
もわっとした蒸し暑さでした。
持ち歩くことによる万一の紛失に備えて、車のキーをある場所に隠します。
他にとまっている車はありませんでした。
傘を開いて、森の歩道へと入っていきます。
『ぽつっ・・・ぽつっ・・・』
歩きはじめて、まだ1~2分・・・
みるみるうちに大粒の雨が落ちてきます。
森林の土蒸すようなにおいが一気に濃くなったような気がしました。
(よりによってなんだよ)
(タイミング悪い)
たぶん、局地的な通り雨です。
朝の天気予報を観たときには、こっちはずっと曇りのはずでした。
(とにかく行くだけは行こう)
考える間もなく、いきなり本降りになってしまいます。
雷が聞こえました。
ざーざー降りの中、足もとの悪い細道を進んで行きます。
ところどころぬかるんで、サンダルが泥んこになっていました。
(あーあ)
傘をさしてはいますが、ワンピースの下半分はびしょ濡れです。
朽ちかけた表示板がようやく見えてきました。
『〇〇湯』の指すほうに降りていきます。
(完全に本降りになっちゃった)
急こう配の階段道でした。
崖に沿うような感じで下っていくと、途中から野天の岩風呂が見渡せるようになります。
そこが男湯スペースでした。
誰もおらず、完全に無人です。
久しぶりに来たのに、感慨はありませんでした。
なにしろ雨が強すぎます。
「ざーーーー」
いちばん下まで行って男湯スペースに降り立ちました。
この男湯スペースの真ん中を突っ切るかたちで女湯スペースに向かいます。
傘をすぼめながら女湯への木戸を抜けました。
石垣のようになっているところをまわりこむと、そこが狭くて小さな女湯です。
やはりこちらも無人でした。
(ひーー)
(ずぶぬれ)
せっかく来たのですから、入っていかないという考えはありません。
雨に濡れた岩の上にトートを置きました。
開いたままの傘をかぶせるように置きます。
サンダルを脱ぎ捨てました。
急いでワンピースを脱いで、傘の下に置きます。
下着もとって全裸になりました。
(ひゃーー)
木の桶を拾ってお湯をすくいます。
かけ湯をしました。
泥んこになっていた足もとは特にきれいに流します。
そしてお湯に入りました。
(あーー、気持ちいい。。。)
湯船というようなものではなく、ただの湯だまりがあるだけという感じの女湯です。
それでも、
(ふーー)
肩をすぼめて雨の中を歩いてきた全身に、お湯のぬくもりが染みました。
温泉好きの私には、これだけで満足です。
「ざざーーー」
「バーーーン」
また雷が鳴っていました。
さらに雨脚が強まって、とんでもない土砂降りです。
もはや郷愁にひたるとか、そんな感じではありませんでした。
お湯から出した首より上・・・
頭のてっぺんから滝に打たれているような気分です。
「ざー、ざーざざーーーっ」
「ざざーーっ」
景色もへったくれもありません。
まったくの無人どころか・・・もはや離隔の感すらありました。
気温自体は高いので風邪を引くことはありません。
空気の『もわっ』とした重さが、山や土のにおいを増幅させている感じでした。
「ざーーー」
「ざーざーざーーー」
どれぐらいの時間、そんなふうにしていたでしょうか。
湯だまりのふちに腰掛けたり、またお湯に入ったりを繰り返しながら・・・
けっこうのぼせてきました。
雨に打たれていることが、逆に心地よくなってきます。
「ふーー」
お湯の中から立ち上がりました。
この野天風呂は渓流沿いの河原に面しています。
女湯スペースの端は、コンクリートの護岸のようになっていました。
そのコンクリートの平面に・・・
全裸のまま仰向けになります。
「ざー、ざーざざーーーっ」
「ざーざーざーーー」
目を開けていられないぐらいでした。
全身を雨に打たれて・・・
火照ったからだに爽快です。
(あああ、私だけの世界・・・)
唐突に、お散歩してみたくなりました。
どうせ誰もいないのです。
石垣をまわりこんで、木戸から男湯スペースに出ました。
男湯の大きな岩風呂に飛び込みます。
(あーー、最高。。。)
すぐに上がりました。
素っ裸のまま階段道を上がっていきます。
開放感でいっぱいでした。
いちばん上まで登りきって、朽ちかけた表示板のところまで来ています。
「ざざざざー、ざーー」
誰もいない森の小道・・・
叩きつけるような豪雨の中、一糸まとわぬ姿で立っていました。
素足に大地を感じます。
ぬかるんだ水たまりがありました。
その水たまりの真ん中で、べちゃっとお尻をつけて座ります。
(ああん)
そのまま仰向けに寝ました。
泥水の地面に『大』の字になって、全身の力を抜きます。
「ざーーー」
あまりの気持ちよさに、意識がふわーっとなりそうでした。
誰もいない森の中で、雨の音だけが激しく響いています。
「ざーー、ざざーー」
からだを起こして正座しました。
小道ばたの雑草を力まかせに引っこ抜きます。
その部分の土ごと、
「ばらばらっ」
根っこまで抜けました。
崩れたやわらかい土のかたまりを手に取って・・・
自分の胸に押しつけます。
(あああん。。。)
なすりつけると、ぼろぼろ崩れて太ももに落ちました。
もういちど手に取って・・・
お尻になすりつけます。
(あ、ああー)
仰向け寝と、うつ伏せ寝を繰り返しました。
わずか1cmしか深さのない水たまりに寝転んで、からだの土を落とします。
髪まで泥水にまみれてぐじゃぐじゃでした。
はしたなく、素っ裸で地面に這いつくばっている『私』・・・
およそまともな大人の姿ではありません。
そんな自分が快感でした。
(あああ・・・)
両手に土のかたまりを持って、ぬかるみの上で仰向けになります。
両ひざを立てながら目を閉じました。
鼻からゆっくり空気を吸い込みます。
いちど骨盤をニュートラルにしてから、両脚を空中に浮かせました。
ひざの角度を『く』の字に曲げています。
くちをすぼめるようにして少しずつ息を吐きました。
ピラティスの要領で、ゆっくり脚の上げ下ろしを繰り返します。
(あああ、こんな)
(はしたない)
ひざをまっすぐに伸ばしました。
今度はからだ全体を『L』字にするイメージで、両足を高々と垂直に突き上げます。
鼻で息を吸い込みました。
そのまま左右に大開脚して股を開きます。
(いやんいやん、恥ずかしい)
誰かの手(実際には自分の手です)が、私の胸に土のかたまりをなすりつけていました。
無造作におっぱいを押しつぶしています。
足幅を閉じていきながら、
(あ、あ、あ・・・)
もとのニュートラル姿勢に戻りました。
「ざーー、ざざざーーー」
みんなが私を見ています(実際には誰もいません)。
四つん這いになりました。
鼻から息を吸いながら、右腕をまっすぐ前に伸ばします。
同時に、左脚をまっすぐ後方に浮かせました。
地面に平行になるようにぴんとさせようとしますが・・・
太ももが震えて、
(あ、あ・・・)
バランスを保つことができません。
「ざー、ざざーーーー」
ぬかるみにうずくまっていました。
泥水をすくって、
(ごめんなさい、ごめんなさい)
みんなによく見えるように、『この女』のお尻を撫でまわします。
(あああああ)
「ざーーーー」
「ざざーーー」
雑草の茂みの中に、萎れたツユクサの青い花が見えます。
可憐な小花が今にも落ちそうでした。
雨はなお、弱くなる気配をみせません。
また雷の音が聞こえました。
こんなに離れた所に来てしまっていることに、不安が押し寄せてきます。
「ざーー、ざざーー」
階段道へ戻りました。
足をすべらせないように気をつけながら、はだしでぺたんぺたん下りていきます。
風景全体が見たことのない暗い色を帯びていて・・・
その禍々しさは、それこそ人の来訪を拒絶しているかのようでした。
ある意味、これも絶景です。
「ざーーー」
いちばん下までおりてきました。
男湯スペースの手桶を拾って、岩風呂のお湯をすくいます。
何度も何度も頭から浴びました。
全身の泥を落とします。
(ふー)
そのまま男湯の岩風呂に入りました。
強張ったからだが一気に弛緩していきます。
(気持ちいい。。。)
大雨の景色を眺めていました。
川の水量はさほど変わらないものの、色彩の暗さが沈鬱的です。
社会から隔絶されたまま、自分ひとりこの地に打ち捨てられてしまっているかのような気分でした。
(あー、やっぱり温泉が好き)
(でも、もう帰らなきゃ)
来てよかった。
非日常感に心を揺さぶられて、幸せな気持ちです。
お湯からあがりました。
木戸を抜けて女湯スペースに戻ります。
「ざーーーー」
傘をさしながら服を着るのは無理でした。
大雨の下、ずぶ濡れになりながら湿った下着を身につけます。
不快なこと極まりありませんが、着ないわけにはいきませんでした。
でも、
(だいじょうぶ)
車の中には予備の着替えも持ってきてあります。
ワンピースを着ました。
(またいつか)
(来れたらいいな)
帰り支度をすませた私は、傘をさして階段道を上がっていきます。
登りきって小道を行くと、
(あー、さっきの水たまり)
まだ地面にはだしの足あとが残っている場所がありました。
先ほどの自分の姿を想像して、ものすごく気恥ずかしくなります。
(どきどきどき)
そこからは、心が『無』でした。
木の根につまずいて転んだりしないように、足もとに気をつけながら歩いていきます。
森の歩道の出口が見えてきました。
その先に、私のレンタカーがとまっています。
なにか無性に、無性に・・・気持ちが・・・
「ざーーーー」
足がとまっていました。
その場にトートを置いて傘をかぶせます。
(ああ・・・)
あっという間に頭からずぶ濡れになっていました。
肌にぴったりまとわりつくワンピースをその場で脱ぎます。
「ざーー、ざざーー」
ブラを外して胸を露わにしました。
パンツも脱いでしまいます。
全裸になって、
(どきどきどき)
サンダルだけをはきました。
荷物と傘をその場に置き去りにして、最後の数十メートル・・・
雨に打たれながら、真っ裸で森の小道を歩いていきます。
そのまま駐車場に出ていきました。
「ざーーーー」
無人の道路と駐車場・・・
(どきどきどき)
車のキーを取って、ドアを開けます。
予備の服が入ったビニールの巾着袋を取り出しました。
たしかボストンバッグの中に・・・
(入れっぱなしにしてたのがある)
100均のレインポンチョを引っ張り出します。
乾いたタオルといっしょに、それもビニール巾着の中に突っ込みました。
濡れないように、袋の口をしっかり閉じます。
再びロックをかけて、キーを隠しました。
(どきどきどき)
ビニールの巾着を持って・・・
はだかのまま駐車場から道路に出ます。
この瞬間がいちばん緊張しました。
叩きつけるような土砂降りの道路を、旅館のある方向へと歩いていきます。
(あああ、死ぬ・・・)
(みつかったら死ぬ・・・)
100メートルぐらいでしょうか。
すぐのカーブを曲がったところに消防器具(なのかな?)・・・
よくわかりませんが、何かの設備っぽい建物小屋がぽつんとあることを知っていました。
全裸で道路を歩いているスリルに、
(ばくばくばく)
私の心臓は爆発寸前です。
(あああ、あ・・・)
いつ車が、そして人が現れてもおかしくありませんでした。
われながら、常軌を逸した行動です。
なぜこんなリスクを冒しているのか自分でもわかりませんでした。
風とともに、
「ざ、ざーーーっ」
土砂降りの雨が私のからだを打ちつけています。
サンダルも脱いで手に持ちました。
(気持ちいい・・・)
(あああ・・・)
雨に打たれながら、一糸まとわぬ姿で道を歩いている自分が気持ちよくてなりません。
股間から恥ずかしいおつゆがあふれ出していました。
幸い、通りかかる車もなく建物小屋の軒先まで来ています。
「ざーー、ざーーーー」
道路わきの小さな建造物でした。
その軒下を借りて、乾いたタオルでからだを拭きます。
雨はしのげますが道路からまる見えなことに変わりはありませんでした。
遠くから、
「ヴーー」
車の音が聞こえてきます。
(ひっ)
死角になる側にまわってしゃがみました。
身を縮こませます。
(ばくばくばくばく)
道路の水を撥ねながら、
「シャーー」
1台の車が横を通過していきました。
いまこの瞬間、バックミラーには私の姿が写っているはずです。
気づかれたら一巻の終わりでした。
(ばくばくばくばく)
・・・そのまま、カーブに消えていきます。
(ばくばくばくばく)
(ばくばくばくばく)
やばい・・・やばすぎる・・・
何をやってんだ、私は・・・・
必死に気持ちを落ち着かせながら、急いで服をすべて着ました。
レインポンチョをまといます。
(ばくばくばく)
なんだか、とてつもなくみじめな気分になっていました。
自分が何をやっているのかよくわからなくて涙が出そうになります。
「ざーーー、ざーーー」
歩いて駐車場に戻りました。
森の小道に置き去りにしていた荷物も回収して、車に乗りこみます。
時計を見ました。
思ったより遅い時間になってしまっています。
(したい)
我慢できませんでした。
このままでは頭がどうにかなってしまいそうです。
(我慢できない)
(したい)
車を出しました。
すぐに減速してさっきの建物小屋のわきに横付けします。
ドアを開けっぱなしにしたまま、車から飛び出しました。
軒先に立って、ショートチノとパンツを下ろします。
股間に手を突っ込みました。
「ああ、あああ・・・」
どんなに大声で喘いだところで、自分以外の誰の耳にも届くことはありません。
崩れるようにひざまずきながら・・・
「ああ、ああーっ」
ひとり果てるまで指を動かし続ける『私』でした。
(PS)
トリップは変えました。
最後まで長文にお付き合いいただいてありがとうございました。
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