2024/05/06 10:48:20
(mGYjGHWd)
時間との勝負でした。
そのまま、すぐ横にある地下道への階段を急いで下りていきます。
(私、もう)
(あんなの耐えられない)
胸の動悸がおさまりませんでした。
屈辱感に苛まれて涙がにじんできています。
大恥をかいて慌てて立ち去ろうとしてた私のことを・・・
(あんなに露骨に)
(にやにや見てた)
ばか・・・ばか・・・
おじさんのいじわる・・・
階段を下りていく私の前後には誰もいませんでした。
レインコートの背中に手をまわして、服の上からブラのホックを外します。
後ろのホックで留めているだけの肩ひもがないタイプでした。
カットソーのおなかに手を突っ込んで、
『するっ』
ブラを抜き取ってしまいます。
早く、
(どきどきどき)
急いで・・・
地下通路に降り立っていました。
誰もいません。
ここはまだ、地上に出るためのビルの地下にあたる場所でした。
地下道から分かれて来た先のところになるので、この時間帯ならまだそれほど人通りが多くないことを私は知っています。
そういったことも前回の経験からすべて計算ずくでした。
カフェの中から外にだと、いざというときに逃げ場がないけど・・・
外から中にだったら、とっさに逃げられる・・・
だから、
(この前はパンツだけだったけど)
(今日はもっとドキドキできる)
急いで歩いていきながら、
(どきどきどき)
外したブラをリュックに突っ込みます。
リュックは背負って、両手がフリーになるようにしました。
(早く・・・早く・・・)
あの人が帰ってしまったらおしまいですから、とにかく急がなきゃと気持ちが焦ります。
この地下通路に面したカフェの地階の窓が見えてきました。
窓際の席に座っている人のことをメガネさんに違いないと確信しながら、
(よしっ、まだいる)
足早に近づいていきます。
耳を澄ませました。
だいじょうぶ・・・通路に響いているのは私の足音だけです。
いまなら誰もいませんでした。
(どきどきどき)
胸の鼓動が加速します。
座っているのは、やはりメガネさんでした。
さっきと同じ状態のまま、まだあの席にいます。
耳がかーっと熱くなりました。
カフェのガラス窓を外側からノックします。
「コンコン」
おじさんが顔をこっちに向けました。
さっきの私だとわかって一瞬ニヤっとしていますが、
(どきどきどき)
同時に不審そうな目を向けてきてもいます。
どう思われようが今さら知ったことではありませんでした。
どうせ赤の他人です。
(どきどきどき)
ガラス1枚隔てたこちら側で、にこっと微笑んでみせました。
そして、
『しーっ』
口の前で人差し指を立ててみせます。
???な様子で、ぽかんとしているメガネさん・・・
その相手の眼前で、カットソーのおなかを捲り上げました。
(ひゃああああ)
おっぱいを露わにしたまま、
(ひいいいー)
死ぬほど屈辱感にかられます。
奥歯を噛みしめて羞恥に耐えている表情は、もはや演技ではありませんでした。
(見ないでえ)
唇を真一文字に引き結びながら、相手の目をみつめて・・・
被虐の興奮に悶えます。
たくし上げたカットソーを両手で掴んだまま、
(ひいー、嫌あーー)
目頭が熱くなりました。
(あああ、もうだめ)
ニヤついたおやじが、我が物顔で私の胸を見上げています。
何も悪いことしてないのに、
(なんで私が)
いつもまじめにしてるのに・・・
おっぱいが、おっぱいが、貧相でみっともない私のおっぱいが・・・
(いやんいやん)
(こんなおやじなんかの前で)
気配を感じました。
ぱっとカットソーを下ろして、ガラス窓から少し離れたところに立ちます。
かすかに足音が聞こえてきていました。
レインコートのボタンを2つ3つ留めて、前を閉じます。
背負っていたミニリュックをおろして手持ちにしました。
スマホを取り出して地図を見ているふりをします。
(どきどきどき)
そうやってやりすごそうとしていました。
男の人が現れて・・・
ぼけーっとイヤホンで音楽かなにかを聴きながら、私の横を通りすぎていきます。
その一瞬一瞬がすべて緊張感と隣り合わせでした。
リスクの大きさに怖くなりながらも、
(早くいなくなれ・・・早く・・・)
1秒が10秒に感じるほどの興奮を覚えています。
再びレインコートのボタンをそっと外しながら彼の姿が完全に消える瞬間を待ちました。
まだ動くことはできません。
(どきどきどき)
そんな私の様子を、窓の向こうのメガネさんがじっと見ていました。
余裕の表情でにやにやしながら、
『おいでおいで』
そんな感じに手招きをしています。
早くもういちど見せに来いよ、おまえのおっぱい見てやるよとでも言わんばかりでした。
(偉そうに)
内心、ちょっとイラッとします。
イヤホン男性はだいぶん離れていきましたが、その背中はまだ見えていました。
こっちはリスクと隣り合わせなのに、
(自分だけにやにやしてんなよ)
本当はこんなおやじの前で恥なんてかきたくないのです。
でも、非日常すぎるこの興奮の衝動に抗えない私・・・
(どきどきどき)
イヤホン男性が角の階段に消えていきました。
すさまじい葛藤に襲われます。
だいじょうぶ、
(今なら)
誰もいない・・・
(どきどきどき)
今ならたとえパンツを下ろしたって・・・
それを目にするのは、
(このおやじだけ)
誰にもバレることはない・・・
でも、
(馬鹿にしないで)
(あんたのためなんかにやってない)
次の瞬間には踵を返すように歩きだしていました。
歩きながらレインコートの前を閉じます。
いちども振り向きませんでした。
地下道を駅方向に向かいます。
なんだか、無性にみじめな気持ちでした。
(何やってんだ、私)
(こんなに危ない橋ばっかり渡って)
強烈な自己嫌悪に陥ります。
あのおやじ、
(上から目線で見下しやがって)
なんで私が・・・あんたなんかのために・・・
(何様だよ)
(偉そうに)
駅に着いて改札に入りました。
落ち込んでも意味がないのに、なんだか気持ちが消沈していきます。
トイレに直行しました。
個室に入って、
「ガチャっ」
鍵をかけます。