どれぐらいその場にいたでしょうか。何のあてもなく、ぽつんと沢のほとりで佇んでいました。もうどうにもなりません。悔しいけれど、帰るしかありませんでした。トートバッグを肩にかけて、三脚を持ちます。あまりの徒労感に、がっくりと疲れ切っていました。河原から、森の細道のほうへと足を向けます。・・・と、まさにそのときでした。(うそ・・・)帰ろうとした私と、ちょうど入れ替わるように・・・男の人がひとり現れたのです。なんというタイミングの悪さでしょう。(しまった)(あと5分待っておけば)小さく会釈されました。躊躇っているうちに、そのまますれ違ってしまいます。(あ、あ・・・)何もできませんでした。思わず振り返って、その人を観察してしまいます。大学生ぐらいの若い男の子でした。見た目だけの印象なら、かなり真面目そうな雰囲気です。と思っているうちに・・・あっという間でした。川の流れの前まで行った彼が、『何もないな』という感じでもう引き返してきています。(あ・・・)(あ、あっ・・・)私は、固まったようにその場から動けずにいました。カメラの三脚を持ったまま立ちつくしている私に、男の子が怪訝そうな目を向けてきます。気後れしてしまって震えそうでした。でも、勇気を振り絞って・・・「あの、すみません」ついに声をかけてしまいます。一瞬『えっ?』という顔をされました。でも、「なんですか?」足をとめてくれます。その戸惑い声を耳にして、私は少し安心していました。思ったよりも、おとなしそうな印象の子です。「あの、えっと・・・」「ごめんなさい、突然」次の言葉がなかなか浮かんでこなくて、私のほうもどぎまぎです。(いま持っているのは)(とりあえず、このカメラ・・・)「すみません、おひとりですか?」頷いた彼に向って、なんとか言葉を繋いでいました。「あの、もしお時間があったら」「写真を撮るの、手伝ってもらえませんか?」「あ、いいですよ」いわゆる『ちょっと1枚シャッター押してください』のお願いをされたと勘違したようです。わりとあっさり、簡単にOKしてもらえました。計画していたのとは、ぜんぜん違う流れです。もう、あらかじめ考えてきていたそのイメージ通りに持っていくことは不可能でした。でもせっかく掴みかけたチャンス・・・このまま帰るなんてまっぴらです。「本当に、お時間だいじょうぶですか?」「すみません」「ありがとうございます」直感がありました。私には、わかるのです。このやり取りだけで、もうすでに相手の心を『ぐっ』と自分に引き寄せたということが。「ええと、あの」「じゃあ・・・」指さしながら、「あのあたりでいいですか?」川べりのほうへと、ふたりで歩いていきます。「私、毎年1回、誕生日が近くなると」
...省略されました。