頭の中を空っぽにして、そこにいるふたりのことを意識の外に追い出しました。遠くの山々を眺めながら、(ああ、なんていい景色・・・)のんびりとお湯の気持ちよさを堪能しているふりをします。(ああ、無理・・・)5分ほどそうやっていたでしょうか。やはり、以前のような感覚の私には戻ることができません。(やっぱり無理)熱さにのぼせていました。ひとたびお湯から出ようものなら、どこにも隠れ場所などありません。(この人たちに見られるなんて)(私、恥ずかしくて耐えられない)泣きそうになりました。でも、もうのぼせて限界です。(きゃあああ)心の中で悲鳴をあげていました。お湯の中から、「ざばっ」いちど立ち上がって、そのまま湯だまりのふちに腰かけます。(イヤあ、見ないで)演技するしかありませんでした。必死に自然体を装おうとしている私がいます。(見ないでえ)覗かせてやりました。おっぱいまる出しのまま・・・何も知らずにくつろいでいる『この女』の幸せそうな姿を。この人たちにとってこの子は、(いかにも楚々とした、しとやか美人・・・)男に見られているとも知らずに、ひとりっきりの時間を満喫しています。(さっきまで面と向かって)(ずっとしゃべっていた相手なのに)屈辱感でいっぱいでした。渓流の景色に目をやっているふりをする私・・・湯だまりのふちに腰かけたまま、(すぐそこにいるのに)彼らの前で乳首を隠すこともできません。(私は悪くない)(悪いのは、覗く人たちのほう)懸命にそう思い込もうとしても、(やっぱり、恥ずかしい)とてもじゃないですが、もう耐えられませんでした。(なんで私が)(こんな人たちのために)再び『じゃぼん』と、お湯の中にからだを沈めます。(ひいいい)まともにすだれのほうを向くことができませんでした。おじさんたちには背をむけるかたちでお湯につかっています。そして、(もう無理・・・もう無理・・・)はっきりと思い知らされていました。(私はもう・・・)(昔みたいにはなれない)それを完全に悟ってしまった今、(助けて、誰かたすけて・・・)私に、もうこの場にいられるだけの気丈さはありません。(恥ずかしいよ)(もうイヤだ)ふたりに顔を見られないようにしながら、涙ぐんでいました。限界を感じて、自尊心が悲鳴をあげてしまっています。(だれか助けて)(わたし、何も着てないよう)そして、ひたすらにおのれの愚かさを噛みしめていました。悪いのは、おじさんたちじゃない・・・この状況を演出してしまったのは、ほかでもない私自身なのですから。
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のぼせたら、おじさんたちに背をむける側で湯だまりのふちに腰かけて・・・ふたりが去ってくれるのを待ちながら、またお湯につかる・・・ただただ、その繰り返しで時間を稼いでいました。地べたの割れ目から短い雑草が1本だけ伸びていて、小さい花を咲かせています。その白い花の健気さを目にして、また涙ぐみそうになりました。(私って)(なんて弱いんだ。。。)さっきからもう20分近くそのすだれの裏に張り付いているのです。おじさんたちだって、とっくにくたびれているはずでした。(戻ってください)(お願い、もう男湯に戻って)それなのに・・・一向に、その場から離れてくれる気配のないふたり・・・(帰ってくれるわけがない)(多少は見られてもしかたない)半ば、諦めの境地でした。だったらもう・・・のぼせ切ってしまう前に、はやく・・・帰ろう・・・「ざばっ」立ち上がっていました。湯だまりから出て、すっぽんぽんのままトートバッグを置いた岩に歩み寄ります。(なるべく手早くからだを拭いて)(そうしたら、さっさと服を着て)そう思ったのに、そう思ったのに・・・(イヤああ)おじさんたちに大サービスしている、もうひとりの自分がいました。その場で『すっ』と棒立ちになってみせています。全身から湯気を立たせたまま、「う、ぅーん」両方の腕を真上に突き上げながら、大きく伸びをしていました。肩をぶるぶる震わせて・・・からだから、『ふうっ』と力を抜きます。真っ裸のまま、あらためて景色に見とれているふりをしました。ふたりの前でのんびり立ちつくして・・・この『お堅い』女の、股の割れ目がおじさんたちに見えてしまっています。(やめてやめて)(はやく服を着てよぉ)スポーツタオルで軽くからだを拭いてから、ボディクリームを手に取りました。パンツもはかずに、(やめてってばぁ)大胆にも全身にクリームを塗っていく私・・・人一倍警戒心の強い『この女』の、無防備な姿をふたりに眺めさせてあげます。(ねえねえ、おじさんたち)(にやにやしてるの?)あくまでも自然体を装いました。右の足を上げて、ほどよい高さの岩上に置きます。その無造作な格好のまま、ふくらはぎにクリームを伸ばしていきました。何も知らないこの女は、(もうイヤぁ)まさか男性に覗かれているなんて夢にも思っていません。そして・・・(ああ、だめだ・・・)自分自身を客観的な視点から観ているような、不思議な感覚に陥っていきました。自分で演じている『この女』に対して、どんどん意地悪な気持ちになっていく私がいます。トートの中からスマホを取り出しました。カメラを起動して、(いやん、いやん)すだれの真正面に行く私・・・真っ直ぐふたりに向き合うように、ガニ股でしゃがみこみます。もはや、頭の中は真っ白でした。どこかへ意識が遠のいていくかのように、すーっと『無』
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