「…ハァ……真美、お兄ちゃんが擦るからそのまま先をくわえてて…」
「フ…ム……ッ」
お兄ちゃんに言われ、歯を当てないように小さな口にほんの先だけをくわえ込むと、お兄ちゃんは自分の手で硬いそれを上下に激しく擦り始めた。
「…くっ……真美っ……つっ──」
アタシの名前を呼びながらお兄ちゃんはうめき声をあげた。その瞬間アタシの頭を押さえ込む。そして何とも言えない味覚が口の中に広がった。
小さな口の中に大量の液体を流し込みながらお兄ちゃんは最後の一滴まで絞り出すように果てた後もゆっくりシゴク…
そして、ソレを口から引き抜かれた瞬間アタシは堪らずその液体を畳の上に吐き出していた。
「ごめんっ真美、苦しかったか?」
お兄ちゃんはアタシの吐いた液体とベタベタになった口の回りをキレイに拭いてくれた。
そしてキレイに洗面所で顔と口をすすぎ、抱っこして布団に連れてかえる。
「ごめんな…真美……すごい気持ちよかった。ありがとう…」
お兄ちゃんはそういいながらアタシを布団の中でそっと強く抱きしめた──
◇
「ただいま!あら、……まあまぁ。やけに静かだと思ったら二人で仲良ぅ昼寝しとる!」
「真美ちゃんは晃一になついてるからねぇ…もう少し寝かしてやったらえぇよ。明日はもう帰るから、今日はいっぱい遊び過ぎたんでしょ」
お母さんやおばさんの会話を遠くで聞きながらお兄ちゃんとアタシはぐっすりと眠った──
そして…翌年。お兄ちゃんは中学の二年に上がり、勉強が忙しいからとおばさんだけが帰郷して次の夏からお兄ちゃんは田舎に帰って来ることはなかった…。
あれから七年ぶり──
久しぶりに会ったお兄ちゃんはアタシの知らないお兄ちゃんになっていた…
ただ、はにかんだ笑顔だけはあの時のまま──
お兄ちゃん…
アタシの大好きな優しい人
~幼い記憶~
◇《蒼い果実》
「晃一、お前も少しなら飲めるだろ?」
「あ、はぃ頂きます」
親戚が集まった居間で宴会なみの夕食が始まりお兄ちゃんは、おじさん達に絡まれている。アタシはその様子を離れた方から見ていた…
あの時よりも全然、伸びた身長に同級生の男子よりもガッチリとした肩幅。全てが大人の男の人になってしまったお兄ちゃんは、すごく遠い存在に思えて…
アタシは話かけることができなかった……
「真美ちゃんも晃一と話ておいで、昔は一目散に晃一に抱きついて離れなかったのに…やっぱり、お姉ちゃんになったんだね」
隣にいたおばさんがそう、話かけてきた。
「だって…なんか久しぶり過ぎて……」
昔のことを言われて何だか恥ずかしい。もう、あの頃とは違う…
何も知らなかったあの頃の幼いアタシとは──
アタシはあの時シタ事がとてもいけないことだと知ってしまった……
そして…あの日以来、久しぶりに顔を合わせるのに、なんて言っていいか解らないよ……
お兄ちゃんは多分忘れてる。
あの日、一緒に遊んだことを──
だから、平気なんだろうな……
真美はうつ向きながらご飯を黙々と食べ出した。
◇
そして、おじさん達に肩を組まれながら話しをしている晃一は時折盗み見るように真美を見つめていた──
「真美…」
「…!?…お兄ちゃん」
お風呂上がりに縁側で休んでるとお兄ちゃんが話かけてきた。
「隣、座ってもいい?嫌じゃない?」
すこし驚き無言で頷くアタシにお兄ちゃんはホッとした表情を見せる。そしてお兄ちゃんはゆっくりと話始めた。
「真美が俺を避けてるような気がしてさ……なんか、ずっとよそよそしいから…」
お兄ちゃんは縁側に腰掛けて前を向いていた──
月明かりの中で見えたお兄ちゃんの骨格のいい顎のラインが男の人って感じがしてなんだかドキドキする…
「真美はもう、中1か……早いな…あの日から七年も経ったんだな──」
「──!」
お兄ちゃんの言葉にアタシは目を見開き顔をあげた。
お兄ちゃんは無言のままアタシを見つめ返した。
「──ほんとは……今回、帰るのもすごく悩んでさ…勉強が忙しいってのも嘘だったから…。あんなことしちゃって……時間が経てば経つほど、自分に嫌悪感が沸いて……真美が気づかなきゃいいって願ったりもしたよ、あの時したことが何かわからなきゃいいのにって……」
◇
そう言ってお兄ちゃんは少し顔を歪めた──
「…でも、無理な話しなんだよな……今日、真美に会うのが一番怖かったんだ…。嫌われてたらどうしようって──自分が何されたか解ったら絶対に俺を嫌うって思ってさ…ごめんな」
お兄ちゃんはそういいながらアタシの頭を撫でた。
“ごめんな”……あの日もお兄ちゃんはこの言葉を沢山言った。
「真美は、彼氏は出来たのか?」
ゆっくり首を横に振るアタシにお兄ちゃんは微笑む。
「お兄ちゃんは?」
アタシはこの時、始めて言葉を交した……
「うん、いるよ…同じ大学のサークルで知り合ってさ」
アタシはこの言葉に胸がズキン‥と痛んだ──
「そう、なんだ…いいな…真美も彼氏欲しい…ヘヘ」
なんとなく足をブラブラしながら泣きそうな顔を軽い笑いで誤魔化したアタシはこの時気づかなかったんだ──
アタシを見つめるお兄ちゃんの瞳が熱を持ち揺らいだなんて…
アタシは気づかなかった……
「お兄ちゃんはいつまでいるの?」
アタシは話題を変えた。
「久しぶりに来たから一週間はいるよ」
「そう、じゃあちょっとはゆっくり出来るね!明日勉強でも教えてっ!!」
笑顔で返すアタシにお兄ちゃんは一瞬の戸惑いを見せた気がした…
◇
「いいよ、明日から勉強みっちり見てやるから、湯冷めしないうちに、今日はゆっくり休めよ!」
再び頭をクシャクシャ撫でるお兄ちゃんにアタシは仕返ししながら、おやすみの挨拶を返して部屋に戻った。
アタシの背中を辛そうな表情で見つめるお兄ちゃんに気づかず、アタシは何となくさっきのじゃれ合いで昔に戻った気がして…
すごく嬉しかったんだ…
「……っ…真美っ……くっ……はあっ…──きだっ…真美っ…───ッ」
遅がけの時間、風呂場からは荒い息使いと切ない声が微かにこだまする。
あの時と何にも変わらないその場所で晃一は鮮明に思い出す。
自分を慕ってなついていた幼い女の子に罪なことをした──
自分でも止められなかった……
親戚がみんな出払って二人きり──
チャンスだと思った。
「……くそっ…俺の愛は歪んでるッ──」
成長した真美に触れたい気持ちを必死で抑え、晃一はやりきれない想いを自分で慰めるしかなかった──
◇
昼前の居間に蝉の声が届いていた。
「真美、違うよ。ココは間違ってる」
次の日から約束通りお兄ちゃんは勉強を教えてくれた。
「あ、ごめんちょっと待って…」
さっきからひっきりなしに鳴り出すお兄ちゃんの携帯。その度に勉強は中断されていた。
相手はたぶん彼女…
だと思うけど、嫌でも電話内容が聞こえてくる…。
なんだか揉めてる感じだった。
ケンカでもしてるのかな?それで一週間もこっちにいるとか?
アタシは中断させられたペンシルを止め電話の声に聞耳をたてる。
「……わかった。…帰ってから話すからっ──」
突き放したような口調を最後にお兄ちゃんは電話を切っていた。
お兄ちゃんは苦笑いを向ける。
「ごめんな、度々中断させて…」
「いいよ…。彼女サンとケンカ?」
「ん…ちょっとね…。さっきの問題は解けた?」
お兄ちゃんは答えをはぐらかした。
まぁ、アタシに話たってしょうがないしな…
そんな事を考えていたら居間からお母さんの声がした。
「真美ー!的場クンが来てるよー」
「…?…的場?わかった。今行く」
的場クンは隣のクラスの男子。美化委員会の時に仲良くなった男の子だった。
アタシは玄関に行き的場クンに話かけた。
「何?」
「……あ、いや…今日の祭り、一緒にどうかなって思って…」
◇
今日は近くの神社の縁日祭の日だった。ささやかでは在るけど、河原沿いには結構な数の露店が並び花火も5千発くらいは打ち上げられる。
的場クンはそのお誘いに来てくれた。
「お祭り?いいよ、何時に行く?」
「ほんと?…じゃあ、六時に迎えに来るから!!」
的場クンは嬉しそうに言って、アタシの後ろの方に軽く会釈をすると自転車で帰って行った。
アタシは的場クンが会釈した方を振り返る。
「──…クラスメート?」
「ぅぅん…同じ委員会の
子だよ」
「そうか…委員会か……」
そう呟いたお兄ちゃんの表情は少し強張っていたようにアタシには見えた気がした…
勉強を早目に切り上げ、祭りに行くためにアタシはお母さんに浴衣を着せてもらう。
「あんまりあちこちに座って汚しちゃ駄目よ!!」
「わかってるって」
そして、玄関の方から迎えに来た的場クンの声がした。
お兄ちゃんは庭先で相変わらず携帯で何か話しをしている。時折、困ったように額に手をあてため息を吐いたり…一つ一つの動作もなんだか大人びて見えた。
「……じゃあ、お母さん行ってくるから!」
忙しそうなお兄ちゃんにはあえて何も言わずに玄関を出た。
◇
「──真美!?」
携帯を握ったままアタシに気づいたお兄ちゃんが後ろから呼びかける。
「なに?」
「……夜は田舎も最近物騒だから気をつけるんだぞ…」
「うん!お土産買ってくるよ!」
「…土産?じゃあ、イカ焼きがいいな。熱い内に帰って来いよ!……一緒に食おうな…」
お兄ちゃんはそう言って、一瞬アタシの頭を撫でようとして躊躇っていた。
お母さんが簡単にまとめたアップの髪を見て、お兄ちゃんはアタシの頬にペチペチ!と軽く触れる。
「行っておいで」
そう言ってアタシ達を見送ると再び携帯を耳にあてていた。
「──もぅ、いいだろ…お前から別れたいって言ったんだから…今さら拠りを戻す気はない!!何言っても無駄だから…」
晃一は一方的に電話を切っていた。
無駄だ今更──
もう、……遅い…
お前が俺に気づかせたっ…
『──あたしの事好きでもないくせにっ!!
そんなに前の女が諦められないならそっちにすれば!?』
ずっと押し殺してきた感情。
封印したまま前に進むことも出来ずに、がんじがらめの日々だった…
彼女を作る度にあの夏の日の事を重ねて抱く日々。
俺の体は真美以外に欲情しない──っ
◇
「さっきの人…親戚?」
「うん!従兄のお兄ちゃん。七年ぶりに帰ってきたんだよ」
的場クンに聞かれアタシは答える。花火も終わり、二人で露店を見ながらアタシは約束の焼きイカを買った。
外灯のあまりない薄暗いあぜ道を歩いていると、向かいの暗がりから懐中電灯の明かりがユラユラ揺れる。
「……真美?」
「お兄ちゃん?どうしたの?お祭りもう終わっちゃったよ…」
「遅いから…おばさんが迎えに行ってくれって──」
「お母さんが?」
──おかしいな?いつもそんなこと気にしないのに…
あたしはそんなことを思いながら途中まで送ってくれた的場クンに別れを告げて、お兄ちゃんの隣を歩いた。
「そだ!はぃ、イカ焼きちゃんと買ったよ」
「お、サンキュ。まだ熱いじゃん!」
「今、買ったばっかだもん!!」
お兄ちゃんは嬉しそうにイカ焼きの袋を手にし、微笑む。
「あったかいうちに食いたいな…なぁ、真美…久しぶりに、向こうの神社行って見るか?そこでイカ食おうか!」
「うん!」
「‥クスッ‥真美は俺が何言っても、うんっ!て言うな」
返事を返すアタシにお兄ちゃんは笑いながらそう言った。
※元投稿はこちら >>