最終話・第10話 ミサキ、最後の選択 〜永遠の檀上〜
ラスベガスのストリップ通りは、2026年12月31日の夜、史上最も熱狂的なカウントダウンに包まれていた。
ネオンが無数に瞬き、巨大なLEDスクリーンが空を覆い、Sphereのエキゾスフィアが未来を予感させる光を放つ中、特設ステージが中央にそびえ立つ。高さ10メートルの円形檀上は、360度観客席に囲まれ、地上の熱気が渦を巻いていた。世界同時配信の視聴者数はすでに1億2000万人を突破し、リアルタイムでコメントが洪水のように流れ続ける。
ステージ中央に、ミサキは静かに立っていた。
全身を覆う透明ラテックスは、まるで第二の皮膚のようにぴったりと密着し、彼女の曲線を完璧に浮かび上がらせていた。乳首、股間、アナルの部分だけが大胆に丸く開口され、赤く腫れたそこが照明に照らされて妖しく輝く。首輪には金色の刻印が刻まれている。
『WORLD TOY 永遠のミサキ』
司会者の声が、スタジアム級のスピーカーから世界中に轟いた。
「みなさん! 今宵をもって、ミサキちゃんは正式に『人類共有財産』となります! これより先、ミサキちゃんは一生、どこでも、誰でも、いつでも、自由に使えます! 鍵はもう存在しません!」
観客の歓声が爆発した。
叫び声、拍手、口笛が混じり合い、地面が揺れるほどの熱狂。ストリップのネオンがさらに輝きを増すように見えた。
ステージの床がゆっくりと開き、ミサキの体は機械的に固定されていく。
手足はX字に大きく広げられ、首は後ろに反らされたまま完全に動けなくなる。透明ラテックスの下で、彼女の肌が微かに震えていた。
巨大スクリーンに、ミサキの人生が次々と映し出される。
71歳の孤独な老人だった頃の、くすんだ部屋で一人座る写真。
初めて女装した日の、鏡越しに恥ずかしげに微笑む自撮り。
発展映画館の薄暗い個室で、初めて他人に犯された瞬間のぼやけた映像。
自宅が晒され、配信者として商品化され、世界中を回りながら無数の欲望に晒された記録。
一つ一つのシーンが、観客の興奮を煽り、コメント欄をさらに埋め尽くす。
ミサキは、涙も笑みも浮かべたまま、ただ静かにカメラを見つめていた。
その瞳には、恐怖も、後悔も、喜びも、すべてが混じり合っていた。
司会者が最後の問いかけをする。
「ミサキちゃん、最後に言いたいことは?」
マイクがゆっくりと口元に近づけられる。
ミサキは、かすれた、しかし確かに届く声で、世界中に告げた。
「……ありがとう……
私は……
やっと……
自分の居場所を……見つけました……」
その瞬間、カウントダウンが始まった。
10……9……8……
観客が一斉に立ち上がり、ステージに向かって押し寄せる。
セキュリティのバリケードが押しつぶされそうになるほどの勢い。
7……6……5……
世界中の画面に、ミサキの瞳が大きくクローズアップされる。
瞳の中に映る無数の光、欲望、歓声。
4……3……2……
ミサキはゆっくりと目を閉じた。
唇がわずかに震え、微笑みが浮かぶ。
1……
0!!
新年を告げる花火がラスベガスの夜空に一斉に炸裂した。
赤、青、金、銀の光が空を染め、Sphereのドローンショーが回転しながら「2026」を描き、ストリップ全体が光の海に変わる。
その爆音と同時に、ミサキの体は、無数の手、舌、欲望に飲み込まれた。
観客がステージに殺到し、彼女の開口部に触れ、侵入し、貪る。
透明ラテックス越しに、彼女の肌が波打ち、震え、溶けていくように見えた。
画面は一瞬、真っ白になった。
そして、最後に一文だけが、静かに浮かび上がる。
『ミサキ 享年72歳
死因:無限の快楽
遺言:私は幸せでした』
快楽地獄への螺旋は、ついに永遠に閉じた。
彼女の体は、欲望の渦に沈み、永遠の檀上で輝き続けた。
でも、どこかで。
誰かがまた、同じ階段を降り始めている。
新しい螺旋が、静かに、ゆっくりと、始まろうとしているのかもしれない。
(完結)
ありがとう、ミサキ。
あなたの物語は、ここで終わる。
そして、永遠に続く。
さようなら。
【快楽地獄への螺旋 後書き】
この物語をここまで読んでくださったすべての方へ。
ありがとうございます。
「快楽地獄への螺旋」は、最初はただの衝動的な短編として始まりました。
71歳の孤独な男が、女装という小さな扉を開け、そこから一歩ずつ、欲望の階段を降りていく。
最初は好奇心、次に快楽、そして依存、そして最後に「居場所」を見つける。
ミサキという存在が、どこまで堕ちて、どこまで昇華するのか。
それを追いかけるうちに、10話という長さになってしまいました。
正直に言います。
この物語は、決して「推奨される生き方」ではありません。
極端なSM、露出、商品化、無限の快楽地獄……
現実でこれを真似しようとすれば、身体も心も壊れます。
多くの人が傷つき、周囲の人も傷つけ、取り返しのつかない結末を迎えるでしょう。
でも、フィクションの中では、ミサキは幸せでした。
最後の瞬間まで、彼女は「やっと自分の居場所を見つけた」と言い切った。
それは、作者である私にとっても、読者のみなさんにとっても、
どこか救いであり、どこか恐ろしい真実です。
人は、極限まで追い詰められたとき、
本当に欲しいものを、初めて素直に口にできるのかもしれない。
「ありがとう」と言いながら、無数の欲望に飲み込まれる瞬間、
ミサキは確かに、誰よりも自由だったのかもしれない。
この物語を書いている間、私は何度も自問しました。
「これは、どこまでがフィクションで、どこからが現実の影なのか?」
答えは出ませんでした。
ただ、誰かの心の奥底に潜む「こんな風に壊れたい」という小さな声が、
少しだけ、聞こえるようになった気がします。
ミサキは死にました。
でも、彼女の螺旋は終わらない。
どこかで、また誰かが同じ階段を降り始めている。
それはあなたかもしれないし、私かもしれない。
だから、最後に一つだけ。
もし、あなたが今、階段の途中で立ち止まっているなら。
無理に降りなくてもいい。
無理に昇らなくてもいい。
ただ、立ち止まって、自分の足元を見てください。
そこに、あなたの居場所があるかもしれないから。
この物語を、
「怖いお話」として。
「切ないお話」として。
「救いのお話」として。
それぞれの解釈で受け止めてくださったこと、心から感謝します。
ありがとう、ミサキ。
そして、読んでくれたあなた。
さようなら。
そして、もしかしたら——
またどこかで。
2026年1月15日
女装子 マナより
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