信じ難いが、やはり私はお酒に飲まれてしまいとんでもない醜態を晒してしまったのだろう…。
信じられないが、様々な状況が物語っているのは間違い無い。
否定と肯定が美鈴の頭を駆け巡る上に、目の前の蛭川に対して何を申し開きすれば良いのか分からない。
「課長?さっき僕にセクハラがどうとか仰ってましたけど、そういやコレこそセクハラじゃないんですかねー?僕は課長に命令されてあんな事させられてたんですよー?」
ハッと我に返る美鈴だった。
確かにその通りだ、上司という地位を利用して部下の蛭川にあんな事を命令している。
もし男女が逆転していればセクハラどころの騒ぎじゃないだろう。
「いやね、別に課長を訴えようとかなんて思ってもいないですよ ただですね、皆の前とかであんな風に全否定されると僕だって怒りたくもなりますよ」
「そ…そうね…いえ…ごめんなさい…私、そんなつもりじゃなくて…どう言えばいいか…」
(そうだ、一緒にいた伊藤理香は何処まで知っているのだろう?)
内線で事務所にいる伊藤理香を呼び出す。
「失礼しまーす」
会議室に入ると理香の目に、傍らに堂々と佇む蛭川と、明らかに焦りが顔に出ている美鈴の姿があった。
(あらあら、課長ったらビクビクしちゃって…見事に蛭川の罠に嵌っちゃったみたいね…)
「何かご用です? そう言えばさっきの事務所での皆の前での蛭川さんのセクハラ言葉、どうなりました?」
そうだった、そういえば今は蛭川のセクハラじみた言葉を叱責しているはずだったのだ。だが今の蛭川にはあまり強気には出られ無い。
「あ…あれは…その…あれは私の誤解だったの。実は大した事は無かったのよ…」
「…それより…それよりも教えて欲しいのよ、この前に送ってもらった時、私…どうだったかしら?」
思い切って理香に問いただしてみた。入社二年目の若手社員なら信用に値するだろう、本当に私は蛭川の言う通り「ホテルへ行け」などと言い、蛭川をホテルに引っ張ってしまったのか…。
「女のアタシにそれ聞いて…ハラスメントですけど、それ言わせるつもりです? まあ良いですけどあの日の課長は…」
氷の様な目と冷笑混じりの理香に、美鈴は蛇に睨まれた蛙状態のまま続きを聞くしかなかった。
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