翌月曜日の出社…
課の社員達が次々と出社してくる中、誰も彼もが会合での美鈴の様子を心配して声をかけてくる。
しばらくして伊藤理香も部屋に入ってくる姿を目にした。
他の社員との会話を止めて即、理香の席に向かう美鈴だった。
「…あっ、伊藤さんお早う…先日はご迷惑かけてごめんなさい…今後は気を付けるわ、本当にありがとう」
「あ〜、全然いいですよー」
いつものように何処かドライな理香だ。職場の仲良しグループにも属さない、かと言って一匹狼的な感じでもないいつものクールな理香だ。
「あと…私…全然覚えてないんだけど、私、大丈夫だったかしら?」
「えぇっ?大丈夫かって? ってかこんな所じゃ言えませんよー ま〜大丈夫だったと思いますよ〜?」
「そ…そうね…ありがとう…」
更に始業間際になって事務所に入って来る蛭川の姿があった。
「蛭川さん、お早う…。先日は助かったわ。感謝するわ、ありがとうございます」
「あ〜朝比奈課長、お早うございます〜っ、この前はどういたしまして、お安い御用ですよ〜、課長の頼みならご満足いただくまで身体でお応えしますからね〜」
美鈴は蛭川の含みのあるようなセリフに眉をひそめてしまった。
始業前の周囲の雑談も蛭川のセリフに一瞬止まったかのようであった。
たまに出る蛭川のセクハラじみたトークか…と周囲もやれやれといった感じだ。
しかし、課長の美鈴の場合、立場上は叱責をしなければならない。
これで何度目かのように別室に呼び出しての叱責だ。
美鈴としては、皆の前では叱りつけない温情のつもりだ。
会議室にて、
「蛭川さん…さっきの私への言葉…いい加減にしてもらえないかしら!? 何が、私が満足するまで身体で応えるなんて、今更誰も誤解なんてしないだろうけど、セクハラ同然の言葉はいい加減控えてもらえないかしら? 勿論私だからって訳じゃなく誰に対してもよ…今までは私で処分を止めてたけど、これ以上は上への報告を考えてるのよ?どうなの?」
「え〜っ? 課長、…課長がお願いしたから僕は課長の言う通りしたんですよ〜、何か心外だなぁ!」
トボケた口調で言い返す蛭川だった。
予定通り、計画通り、今このタイミングであの日あの時の姿を美鈴に突き付けるのだ、殆どは嘘とハッタリだが…。
「…私が蛭川さんにお願い…?あんな事? 一体なんの事なの?」
「課長が酔って寝ぼけて、僕と伊藤とで課長の家にタクシーで送ってたんですよー」
(それは朝、皆も同じような事を言ってたわ…それは間違い無い…)
「だけど課長が途中で、『何処か休憩する所へ連れてけ!』って言い始めたんですよー」
「そんな休憩する場所ってどうしようってなったら課長が『一番近いホテルに行け!』ってタクシーの中で騒ぎ始めちゃって、運転手さんにも迷惑かけたんすよねー」
(私が…?酔って人に迷惑を…? 全然思い出せない…そういえばさっきの伊藤理香の態度…皆のいる事務所だから私に気を配ってはぐらかしたのでは…?)
「で、運転手さんが見かねて『5.6分の所にラブホ街があるよ』って言ったら課長、『そこへ行け!』って指示出して、ラブホに着いたら勝手に降りて僕の手を引っ張ってラブホの中に連れてっちゃったんですよー」
「一緒にいた伊藤さんに聞いても良いし、何ならタクシーの運転手さん探して確認してもいいですよ?」
タクシーまでは探せるはずは無い事は分かっている、しかし先程の含みのある態度の伊藤理香からは勿論確認するつもりだ、ただその前に…
「…ね、ねえ…その…それで私は…どうだったの…?」
「えーっ?まさか課長、僕にお願いしたの覚えて無いって言うんですかぁ?」
どれも蛭川のハッタリだが、今の美鈴には先程の皆の言葉や伊藤理香の態度も含めて辻褄が合っているようにも思える。
何よりもあの日、店から自宅で目が覚めるまで何も思い出せない。
「まさかそう言われるとは思ってもなかったけど、課長って既婚者でしょ?念の為、記録しといたんですよ、ほらコレ」
今から見せられる更なる事実に絶句する美鈴だった。
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