奈々の心の声
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「な、なんで…なんでなんでなんで…」
「なんで会社の同期の庄司君がこっちに来るの…」
「本当に待って、待って…」
「本当にこっちに来ないでお願い…」
「な、なんで…」
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あろうことか、目の前に立っていたご主人様と茉凛は人の波に押されるように
奈々の正面から少しずれた。
奈々の願いも虚しく、庄司が息を切らしながら目の前に立った…
庄司の右横はトイレの壁で人はいない…
左側の車いすスペースがある側に、ご主人様と茉凛が立っていた。
茉凛はワイヤレスイヤホンでスマホ画面をずっと見ており、
ご主人様は新聞を折りたたみながら読み、カモフラージュをした。
新聞は周りからの視界を遮る意味もあった。
奈々は連結ドアとトイレの壁、
目の前を庄司とご主人様と茉凛の3人に囲まれる配置になった。
逃げ場のない状況に追い込まれる…
当然、これはご主人様が仕掛けたことだった。
ご主人様は、辱め専用スマホを使って奈々に変態オナニーを披露させていたが
一番最初に披露させたのが、この仲の良い会社の同期の庄司だった。
実はあの後から、興奮が忘れられないのか、
毎日のように辱め用スマホに庄司から着信が入っていた。
あまりのしつこさに、ご主人様は着信拒否にしていたくらいだ。
昨日もおじさんとの一件後に着信が入っており、それを見たご主人様はこのお仕置きが頭に浮かんだ。
そして庄司宛に電車の時間と車両と場所を指定して、
「ぜひ来てください」とだけメッセージを入れていたのだ。
庄司は興奮した様子で奈々の前に立ち、そわそわし、辺りをキョロキョロ見渡していた。
明らかに挙動不審だった。
そして目の前にいる奈々の頭上に顔をそっと近づけ
庄司
「も、もしかして…」
「あ、あなたがビデオ通話の方ですか?」
小さい声で問いかけ反応を見る。
奈々はドキっとして固まる…
庄司
「違いますか?」
奈々の心の声
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「そ、そうだ私、変装してるんだ…」
「私って気づいていない?」
「この間のテレビ電話した時とまた違う変装だし…」
「でも庄司君にビデオ通話とか直接言われると…やめて…忘れてぇ…」
「えっ、えっ、待って…待って…えっ!?…まっ、まさか…」
「ターゲットの男性って…」
「庄司くん…?」
「そんな…」
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奈々はあまりの緊張から上手く呼吸ができなかった…
でも、茉凛の手がける変装が完璧であるから、庄司の口から「奈々」という単語が
出てこないことがせめてもの救いだった…
せっかちの庄司は、あのメールがいたずらでないか結論を早く出したくて、
指定された場所に立つ奈々に向かって再び問いかける…
庄司
「あ、あなたがメールをくれた方ですか??」
先ほどよりも近くに頭を寄せ興奮を押し殺すように小声で囁いた。
奈々はどうすれば良いか分からず、ただ固まっていた…
奈々の心の中では、この期に及んで、ターゲットが庄司でないことを心のどこかで必死で祈っていた…
必死にターゲットでない理由を探すが、探せば探すほど
ご主人様からのお仕置きメールの疑問点が庄司であれば解決されてしまう…
痴女になりきり、痴漢プレイをする相手は仲の良い同期の庄司であることを認めざるを得ない。
だとすると、次に停車する駅から職場の最寄り駅まで所要時間は約30分しかなかった…
でも奈々は何をどうすればよいか分からず、ただ時間だけが過ぎていく…
電車は奈々の気持ちなんて関係なく進行し、次の停車駅に到着してしまった。
さらに車内に人が雪崩れ込んでくる…
その人の波に押され、庄司の体が奈々の体に迫ってくる…
庄司は、目の前にいる女性を押しつぶさないよう
奈々の頭の上に左手を伸ばし連結ドアに手をついてガードする形になった。
まるで体格の良い庄司が奈々を守ってくれているようだった。
いくら変装をして奈々だということに気づいていないにしても、
今の自分の服装で庄司とこの距離にいることに、さらに緊張が走る…
必死に息を殺し、身を潜めるようにして気配を消していた。
今にも心臓が外に飛び出してしまいそうなほど、その鼓動が全身に響ていた…
その時だった。
ご主人様
「ゴホンッ、ゴホンッ」
庄司の隣にいるご主人様がわざとらしい咳払いをした…
奈々の心の声
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「ど、どうしよう…」
「ご主人様が痺れを切らしている…」
「ご主人様と茉凛ちゃんで判断するからって…」
「なんで茉凛ちゃんまで…」
「で、でもどうしよう、さっきの駅で急行電車に変わったから、会社がある駅までは約30分…」
「その間に停車する駅は1回…」
「どうしよう…」
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奈々は焦っていた…
お仕置きを実行しなければいけないのに、
なかなか勇気が出ない…。
庄司を男としてみたことなど一度もなかった。
いい人であるのは知っているし、信頼している同期であることはもちろんだが、
恋愛対象としてみたことは一度もないし、ましてや性の対象としてなど1ミクロンも考えたこともなかった…
その時、茉凛から辱めスマホにLINEが入った。
茉凛のLINE
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「奈々さん、大丈夫ですか?」
「お仕置きは無理しないでくださいね。」
「奈々さんがご主人様から見捨てられたら、私がご主人様にいっぱい可愛がってもらいます」
「だから奈々さんに痴女や痴漢プレイは無理だと思うので、決して無理しないでください。フフッ」
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茉凛は、奈々が行動に移せない様子を見て追い打ちをかける。
そして、この満員電車のどさくさに、ご主人様と茉凛が密着する光景が目に入る…
奈々の心の中
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「茉凛ちゃん、なんでそんな意地悪なこと言うの…」
「2人共すごい密着してる…」
「茉凛ちゃんにもしほさんにもご主人様は取られたくない…」
「もともとは私のご主人様のなの!!」
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奈々は、ご主人様と茉凛から煽られ、追い詰められていた。
でもこうなった以上、もう逃れることもできない…
ご主人様の性格も茉凛以上に分かっている…
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「できないことは無理してやらなくていいですよ。」
「でも私の愛奴としては失格ですね。」
「私を満足させてくれる女性を探すだけです…」
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奈々の頭の中で、ご主人様が言うであろう言葉がグルグルと回っていた。
この時の奈々にとって、ご主人様が自分の全てと錯覚するぐらい依存していた。
親や周囲の期待を背負いピアニストになる為に努力してきた奈々は名門の音大に入りに
自分が井の中の蛙であったことを思い知らされ、人生で初めて挫折を味わい、
それ以来、心にぽっかり穴が空いていた…
自分への自信がなくなって、ピアノとは全く関係ない工場の事務という仕事を選んだ。
正直、なんでも良かったし、どうでも良かった…
奈々はご主人様と出会って、その空虚だった心が満たされた。
どんな自分でも、ありのままの自分で居て良いんだって…
ご主人様の根本は事あることに、よく褒めてくれて、奈々に自信を持たせてくれる。
そして聞き上手…
奈々の性癖も奈々以上に理解してくれて、すべてを愛してくれる。
ご主人様と一緒にいると、心も体もすごく満たされる
だからもっとご主人様の傍に居たい…
いずれ、奈々だけを見てくれるようにご主人様好みの女性になるって心に決めたのだ。
庄司
「あなたがこの間のビデオ通話の方ですか?」
再び庄司が諦めがつかないのか小声で聞いてくる。
奈々は覚悟を決めたものの何から始めればよいのか分からなかった…
これまでの人生で、自から相手を責めるプレイなど、してきたことがなかった。
痴女プレイがどういうものなのか全然分からない…
ただ、何もできないまま時間だけが過ぎていく。
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