轟は雪菜を連れて1階に下りるとスタッフルームの扉を開けた。
轟と一緒に歩く雪菜は捕まったように思われ、その格好から迷惑行為をしていたとヒソヒソ声が聞こえる。
中に入ると手前に休憩室や更衣室があり、一番奥に警備室があった。
店内とは違い薄暗い通路を歩く。
カツッ カツッ カツッ カツッ
雪菜のピンヒールの音が通路に響き渡る。
「適当に座って」
雪菜はドア近くの事務椅子に座った。
「轟さん。ここで警備されてたんですね」
「ん?あぁ」
轟は西野の知人で西野の経営するジムにも通っていて部屋にも遊びに来る仲だ。
勿論雪菜の身体も使っている。
「ところでいつも深夜1時から2時くらいに来てなかった?」
「えっ?」
「何回か見てたんだよ」
「そうだったんですか?声かけてくださいよ。恥ずかしい」
「恥ずかしいって...そんな格好でよく言うよ。何、コスプレ?」
「違いますよ。制服です」
「制服?」
「はい」
「そんな制服あるのか?何の制服?」
「営業の...」
「営業?学校辞めたのか?」
「バイトですよ。バイト」
「バイトで営業?何の営業なんだ?」
「車の販売よ。○○自動車知ってる?」
「あぁ。国道沿いの?」
「そう。そこでバイトしてるの」
「へぇー。そんな格好で?どう?売れてんの?」
「うん。今日初めて契約取れたの」
「そうなのか。おめでとう」
「ありがとう」
「そっかぁ。営業帰りか...遊ぶなら深夜にしとけ。まだこの時間は一般客も多いからな」
「えっ?買い物に寄っただけよ...そしたら...」
「なんだ買い物か...何を?」
「アンケート用紙をまとめるファイル...バインダーみたいなのを...棚の下にあったんだけど...」
「それで2階にいたのか...いつも3階でしてたもんな」
「...」
「どれかな?」
轟はモニターを見せた。
「えっ。凄い...」
「文房具みたいなのは窃盗が多いから死角がないんだよ。雪菜ちゃんはここでヤッてたろ?」
ズームすると商品も分かる。
「あっ。このピンクの...」
「なら買ってきてやるよ」
「大丈夫よ。自分で買えるわよ」
「騒ぎがあったばかりだからなぁ。時間開けてくれないと...」
「これ録画されてるの?」
「あぁ。ヤッてるとこ見る?」
轟は操作すると雪菜の映像が3方向から映し出された。
「ケツ出して歩いてりゃ、近寄ってくるよな」
「...」
『えっ?思った以上にエロい格好だわ』
「奴ら雪菜ちゃんを通り越してここの通路で待機してたんだぞ。そこに奴らの前にケツ出したらヤリたくなるよなぁ」
『嫌がってるように見えるわね』
「どこから着いてきてたの分かる?」
「雪菜ちゃんの入店から見てみるか?」
映像は出入口を映し出された。
「おっ。こっからだな...ん?階段上がってるときには張り付いてるぞ...どこから来たんだ?」
巻き戻し操作する。
「あぁ。奴らレジに並んでたんだよ。雪菜ちゃん見つけて列から離れたな」
再び階段の映像を映し出す。
「一応隠すくらいしたらどうだ?もう丸見えじゃないか。アハハ」
「本当に凄いのね...悪いことできないわ」
「まぁ映像見て時間潰してよ」
「えっ?」
「探してるみたいだから...また襲われちゃうよ」
「えっ?」
「ほらっ」
轟はスマホを雪菜に見せた。
『痴漢情報裏サイト?臨海公園のやつ?』
「雪菜ちゃんこのサイトの公園のとこで募集してたでしょ?ディスカウントストア駅前3階がこの店の掲示板だよ」
「知ってたの?」
「雪菜ちゃんが書き込んだのかな?それで痴漢たちが集まっているように思ったんだけど...あたり?」
「うん」
「写真も載せられてるし...バスタオル女って雪菜ちゃんだよね。アハハ。誰がつけたんだよ」
「アハハ...本当に...ねっ」
「ほらどんどん書き込んでくるよ...出ない方が良いぞ。まだ一般客も多い」
「うん...」
「とりあえず巡回して睨み効かせてくるから」
「ありがとう」
轟は警備室を出ていった。
『どうしようかな?正直襲われるの気持ち良かったんだけど...22時か...お礼の電話も遅いわよね』
雪菜はアンケート用紙を取り出すと購入時期の欄を確認した。
『購入時期近そうな人もいないなぁ』
30枚ほどのアンケートに『ち』と書かれた6枚のアンケートを見つけた。
雪菜に痴漢した客のアンケートだ。忘れないように『ち』と雪菜が書いておいた。
『どうせ買わない客だし...』
「もしもし夜分遅く申し訳ありません。○○自動車の雪菜ですが」
「やぁ雪菜ちゃん。どうしたの?」
「本日はご来店いただき誠にありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそありがとう。えっ?こんな時間まで仕事してるの?」
「ご挨拶にと...本当に夜分遅く申し訳ありません」
「頑張ってるんだね。あっ。そうだ見積もり出してくれないか?」
「見積もりですか?」
「そうそう。見積もり」
「えっとー...車種などは...?」
「展示車だよー」
「アニバーサリーモデルですか?」
「そうそうアニバーサリーモデル」
「承知しました。ご説明不十分だったかと思いますが何かオプションなどございますか?」
「そうだなー。フロアマット...くらいかな」
「フロアマットですね。承知しました。では作成いたしますので明日ご来店いただけますでしょうか?」
「明日?明日は無理だなー」
「そうですか...いつ頃お見えになりますでしょうか?」
「ちょっと忙しくてねー...あっ届けてくんねー?」
「ご自宅にですか?」
「そうそう。仕事帰りにでも」
「承知しました」
「本当?」
「上司と伺いますのでご都合の良いお時間は」
「あっ。届けるだけで良いから...本当に仕事帰りで良いから」
「ですが単独訪問は禁止されてまして...」
「そんなの内緒にしておけば大丈夫だよ。1台買うんだぞ」
「では仕事帰りに...」
「あぁ。仕事帰りにね...ところで仕事帰りということは私服?」
「いえ。仕事なので制服ですが...」
「あっ。制服ね。そうかそうか制服か...制服ってショールームで着てた?」
「はい」
「じゃあ待ってるね。何時くらいになるかな?」
「お約束できませんが21時頃になるかと」
「21時頃ね...うん分かった」
「出る前にお電話差し上げますね」
「そうだね。電話ちょうだい」
「矢野様ご住所の確認ですが、このアンケートのご住所でお間違えないでしょうか?」
「うん。間違いないよ」
「承知しました」
「その挨拶の電話って俺が最後?全員にかけてるの?」
「全員ではないですが、本日は時間的に矢野様で最後でしょうか」
「そうなんだラッキー」
「では明日お伺いいたしますので」
「ちょっと待って。今どこにいるの?」
「えっ?」
「会社?」
「いえ...自宅ですが...」
「自宅からか。さっき駅前のディスカウントストア寄った?」
「えっ?」
「ねぇ寄ったでしょ?駐車場で雪菜ちゃん見たんだけど俺は帰るとこだったから声かけなかったんだよ。あれ雪菜ちゃんだよね」
「...ファイルを購入しに寄りましたけど...」
「やっぱり雪菜ちゃんだったか。制服姿ですぐに気付いたよ」
「そうなのですね。気付かなくて申し訳ありません」
「いや良いんだ。急いでたし...」
「またお見かけの際は是非お声がけいただければ」
「うん。声かけるね」
「では」
「あっ。いま自宅ってことはあの近辺に住んでるの?」
「えっ...そこは言えないのですが...」
「そうだよね言えないよね。でも近くだよね」
「アハハ」
「近くだな。一人暮らし?」
「秘密です」
「秘密か...彼氏はいるの?」
「いませんよ」
「いないの?そこは教えてくれるんだね」
『なんか疲れる』
「そうですね...」
「今どんな格好なの?」
「えっ?」
「制服?それとも部屋着とか?」
「部屋着です」
「どんな?」
「どんなって...普通の...」
「下着は?」
「えっ?」
「昼間下着着けてなかったから今もそうでしょ?」
「そろそろお時間が...」
「あーごめんごめん。じゃぁ明日待ってるね」
ガチャリ
一方的に電話を切られた。
「営業の電話?」
「轟さん。いつから」
「オナってるかと思ってコッソリ帰ってきたら電話してるから。アハハ」
「ヤダッ なんかしつこい人で色々聞いてくるのよ」
「そりゃーそんな格好だし、男なら当然だよ」
「そうなの?」
雪菜は時計を見た。
「えっ。23時半?1時間30分も電話してたの?」
矢野は電話を切るとディーラーで一緒に痴漢した友達にグループメールを送った。
痴漢したことで仲良くなり連絡先を交換したのだ。
挨拶と一緒に痴漢情報裏サイトのURLを貼って、ディスカウントストア駅前3階の掲示板をを教えた。
するとすぐに5人からメールが入った。
「雪菜まわされてる」
「雪菜だ」
「マジか。スゲーなこのサイト」
矢野は返信しなかった。勿論雪菜が明日訪問するのも教えていない。
『教えるべきか...どうしよう』
「だいぶ客も減ってきたけどな」
「もう大丈夫かな?」
『大丈夫って何が大丈夫なの?』
「もう諦めたかもな...掲示板も更新されてないし...0時に巡回あるからそれまで待つか?それとももう帰るか?」
「巡回するの?明日も忙しいみたいだからファイル買って帰るわ」
雪菜は遊ぼうと思ったが矢野に期待して帰ることした。
『明日が楽しみだわ』
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