まだまだ、自分は女として不充分。
ミサキは、メイクの手解きとおしゃれを身につけさせようと街にでかけようと誘ってくれたのだ。
一通り、取り敢えずの間、困らない洋服類に下着、化粧品を買うと映画のワンシーンのような、買い物袋と箱でいっぱいになってしまっていた。
「ねえ?ゆうってば!ちょっと買いすぎたね」ミサキはうれしそうにベンチに腰かけて前に両足を蹴り出す仕草をして両手でハンバーガーを頬張ってみせた。
なるほど。
女の子の仕草というものは、やはり可愛くなくてはと日常的な行動もきをつけなくちゃ。
そう、感心していた時だった。
ミサキは、幼なじみだから口には出していう事もなかったが、とても色が白く全体的にしなやかさが滲みでるような。
それでいて、少しアンバランスな切れ長でややつり上がった瞳に線の整った鼻に健康的な少し大きめな口。
腰までの髪は、薄く栗色に染められていて、風に靡くと甘くとても薫る美人で、すれ違う男性を知らず知らずに釘付けにしていた。
「ねえ!そこの美人ふたり♪そんなにお買い物して、重いんじゃない?俺達、暇だから手伝ってあげるよ」
ミサキと歩くと、いっつもコレだ。
ミサキは気丈で、少林寺拳法を得意として、なまじ喧嘩も強かった。
それは以前、同じように一緒に街に繰り出した時。まったく同じような場面だった。
ミサキは表情も変えずに軽口を聞いてきた男に
「ご好意ありがとう。ですが、結構です」
そう短く答えた。
いつもの調子なら、ここで男も
「ねーねー、いいじゃんいいじゃん」と、はじまる訳だが。
「ま、そうだよね。いきなりだったもんね。ごめんごめん。ミサキちゃんだろ?キミ。昔から美人…」そう男が話してると、だんだんミサキの目付きがナイフみたいに尖り始めた。
「お、おいおい!拳法は勘弁してくれよ!オレだよオレっ!京二、沢村京二だよ!ったく…相変わらずこえーよな、ミサキ」そう言って屈託なく白い歯を見せて男は笑って魅せた。
だが、口では、勘弁しろと言っていたわりには恐がる様子もたじろぐふうでもなかった。
ミサキもいつの間にか、自分に向けるような目付きに戻っていて
「あっ!京二先輩!なっつかしーねー。だいぶ痩せた?分かんなかったよ。」とミサキはスックと立ち上がっていた。
「隣。座っていい?」
京二と名乗った男がズケズケとミサキの返答も待たずにミサキの隣に座って
「そう言えばさ。となりの子だれよ?すんげー美人だな…ミサキ、負けてんじゃね?」
そう言ってひとり笑うが、ミサキは傍らで
「ちぇっ」と吐いたが、それはミサキもたのしそうな感じだった。
「ね?京二先輩、この子美人でしょ?ゆうっていうんだぁ♪あたしの友達だよ?」
京二が自分をまじまじと覗きこむ。
「へぇ~。ミサキも相当な美人だけどよ。ゆうちゃんって言うんだぁ。ヨロシクね!おれ沢村京二」
そう言ってミサキの前を通り越して、長くて頑丈そうな右手を差し出してきた。
自分も右手で握手に応え 「ゆ、ゆうです。ヨロシクです…」
なんだか、自分が女として美人といわれるのも違和感があったのに、その上での握手は、ぎこちないものだった。
「あ、あれ?ゆうちゃんって、人見知りかな?強引すぎたか、ごめんごめん。おれさ、こうゆうのデリカシーなくってさあ。いやぁ、ホントごめんねー。わっはっはっ」
でも、この豪快な笑い声に随分と救われた。
ミサキが、此方を振り向き
「あのね、京二先輩はわたしの師匠なの。拳法のね。むちゃくちゃ強くて、あたしなんか一回も当てさせてもくれなかったんだぁ♪」
そう話すミサキの目は、ちょっとキラキラして、可愛かった。
道理でミサキの威嚇に怯むはずなかったのだ。
「さて、ほんじゃ、お邪魔みたいだから、いくわっ」京二がたつと
「えーっ 運んでくれるんじゃなかったんですかー? せ ん ぱ い♪」
そう言ったミサキはイタズラな目をして、自分に振り向いて、チロッと舌を出してみせた。
「マ、マジか。はっはっは。お邪魔じゃないなら、はこんじゃうぞー。」
こうして、自分達3人は、抱えきれない程の荷物を持って、自分の部屋に着いた。
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