46.詫びと、けじめ
店に居たダークスーツの男性は、ご主人さまの長男の孝一さんでした。
「孝一さん?」
孝一さんは、ただただ微笑むばかり。
「孝一さん。孝一さ~ん。」駆け寄り抱きついてしまいました。
後は、ただただ嗚咽と泣き声だけが喉をついて出てくるだけでした。
ひと泣きしたら、ママに充てがわれていた、悪趣味で安っぽいドレスがとても恥ずかしくなりました。
「無事かい?里美さん。お父さんの指示で迎えに来たよ。」
遅いよ、孝一さん。
「今回は色々と不手際が有って不運だったね。
さあ、東京に 帰ろう。」
孝一さんに抱え込まれるようにして、入ってきたばかりのドアから外に出ると、
店の外では、左手に包帯を巻いたホチキスが頭を項垂れて、私達が出てくるのを待っていました。
「あまり、こういうことはして欲しく無いんだが。」
孝一さんはこう言うと、小さなガラス瓶をポケットから出して、一瞬だけ中身を日に透かして私に見せましたが、眼鏡が無い私には、何だかはっきりとは判りませんでした。
「何ですか?」
「侘びだよ。」
この時の孝一さんの声は、太く低く、恐ろしげな感じがしました。
温泉街から駅に向かう車中から振り返ると、ホチキスの姿が小さくなるまでいつまでも、お辞儀して見送っているのが見えました。
途中、車が、紅葉の深い渓谷に掛る橋を通過した時、孝一さんは無造作に車窓を開けて、ガラス瓶を谷底に投げ棄てて居りました。
東京に戻る高速鉄道のキャビンで、孝一さんは改まった表情で内ポケットから書類を取り出し、私の眼鏡と一緒に渡しながら言いました。
「さて、今回の費用は僕からお父さんへの貸し付けにするが、君にも連帯保証してもらうよ。」
ご主人さまが署名済みの孝一さんへの借用書には、私がOLで返すには一生掛るほどの、少なくない金額が書き込まれていました。
既にご主人さまがサインしている以上、私には否応も無くサインをさせられ、拇印を押すことになりました。
「これは、けじめだよ。」
孝一さんの口調は優しく紳士的でしたが、目には冷酷な光を湛えていました。
「先にユウジは連れ戻しておいたのだが、里美の容態が悪いと聞いたので、回復を待って迎えに来たんだ。」
駅で待っていた車に私を乗せると、孝一さんはそのまま、
車は、ユウジの使っている、あのマンションに着きました。
マンションの前には、ユウジが待っていましたが、頭には片目を覆うほどぐるぐる巻きに包帯が巻かれていました。
部屋に入ると、リビングにはご主人さまが不機嫌そうに座っていました。
「ご主人さま。只今戻りました。」
「脱げ。」
ご主人さまは、有無を言わさず私に命じました。
熱と浮腫みこそは取れていますが、内視鏡での手術跡がまだ赤々と残り、満足に入浴出来ていなかった身体を晒すのは躊躇われてましたが、ご主人さまの命では仕方ありません。
私が全て脱ぎ終わると、次のご命令がありました。
「跪け。」
私の周りを歩きながら、身体を点検しているようです。
ユウジは恥知らずにも、一度も詫びる事も無く、全裸の私をスマホで撮影しています。
「お前もユウジも本当に困ったことをしてくれた。
孝一に手間まで掛けさせるとは、何という奴隷だ。」
ご主人さま。あ、あ、申し訳ございません。
ご主人さま。どうか、わたくしを罰してください。
こころの中でお詫びしても、うまく口に出して言葉に出来ませんでした。
「今回の不始末で、ユウジは片目の光を失う事になったが、
お前にも、けじめを付けてもらうことにするよ。」
そんなに大きな怪我と思っていなかった私は、申し訳ない気持ちでユウジを見ました。
しかし、包帯でユウジの表情は読み取れませんでした。
「何なりとお仕置きをお願いいたします、ご主人さま。」
「では、奴隷の刻印を刻ませてもらうとするかな。」
ご主人さまの命令で、私はこの部屋に寝泊りすることになり、ようやく実家に電話を入れ、心配する両親を説得することになりました。
そして私は、この日から数日掛りで、左目に眼帯をしたユウジによって、背中下方に鞠で遊ぶ児獅子を、左胸の乳房の上半分に赤く咲き誇る牡丹の花を、そして恥丘には、蓮の花を図案化した花と、クリトリス近くに「性奴隷」と「SLAVE」の隠し文字を加えた、複雑な唐草柄の刺青を施されたのです。
もちろん、回復するにつれ、欲情し関係を迫るユウジには、一切身体を許しませんでした。
色入れが完成した晩、浴室の大きな姿見の前で、完成した図柄を自分で確かめていると、不思議な感慨が浮かんできました。
綺麗。
でもとうとう、一生消せない大きな烙印を、身体に刻み込まれてしまいました。
もう私は、普通の人生には、後戻りできなくなってしまった。と、実感していました。
これは、私自身への奴隷の「けじめ」でもあるんだわ。
こう思ったとき、ふと、旦那様が以前私に話していた、イヤらしい妄想話とだけ思っていた事が、
実際に次々と私の身に降り掛かっていることに気付きました。
全ては、旦那様の目論見通りに行われ、私は調教されているのでは無いのかしら?
そんな考えが、私を支配して行きました。
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