17.そんなに都合よく行く筈が無い
鬼友に教えられた店は、日本の東西に有名な観光スポットとして存在する、
異国情緒溢れる繁華街から、程近い場所にありました。
せっかくなので、毎日食べなれて飽きている本場とは違うご当地料理を、日本でたべることにして、
夕食を済ませた後で、店に向かう事にしました。
かなり豪華なレストランに入り、通された個室で料理を注文し終わると、直ぐに里美が言いました。
「ねえ、私にSMプレイをさせて、奴隷にしたいとか考えてるの?」
「何で?」
「鬼友さんに見せたさっきの絵、三角木馬と拘束具でしょ。」
「よく判ったね。かなりアレンジした3面図なのに。」
「判ります。・・・SMしたいの?ねぇ、もしかしてこれから行くのはSMクラブ?」
「違うよ。痛いことはしないと約束しただろ。」
「絶対違うよね。約束、破ったら別れるから。」
さっきまで被っていた猫を脱ぎ捨てた態度で、ああ、里美もまた、
私を女房として所有した気持ちが芽生えたのかなぁと思いました。
大人の男女関係が、私の妄想通り、そんなに都合よく行く筈が無いです。
ここは一つ、お酒の力を借りることにしました。
食事をしながら、里美に薄茶色の芳醇な香りを放つ異国の酒を、そこそこの量、飲ませ、
少し酔った状態にしてレストランを後にしました。
少々猥雑な看板がビルの壁面に並ぶ雑居ビルの階段を上がった場所に、
これまた、ショッキングピンクの怪しい明かりを放つ、小さな店の名の看板を出しています。
ドアを開けると、高校生が学園祭で作ったお化け屋敷のような暗幕のカーテンが入り口に掛けられていて、
そのカーテンを捲りあげて中に入ると、10ほどの背の高いスツゥールの並んだカウンターが目の前にありました。
「いらっしゃい。鬼友くんから連絡のあった夫婦だね。」
胸元が広く開いたシャツを着た、オネエの入ったマスターが、直ぐに声を掛けてくれました。
それにしても、濃い胸毛です。一瞬、店を間違えたのかと思いました。
「あら、奥さん、もう大分飲んでるの?」
「いえ、そんなに飲んでません。大丈夫で~す。はははは。」里美が赤ら顔で、カラカラと笑います。
「でも、まずこれ飲んで。」お冷の入ったコップを出されると、里美は一気に飲み干すと、
「ちょっとすいません、お手洗い行かせて。」(リバースする気だと思いました。)
「あ、そっちね。」(里美を見送るマスター、完全にオネエになってます。)
「ねぇ、これから、ほかのお客さんが来るけど、奥さん本当に大丈夫?、無理してない?」
「いえ、今日は見学だけなんで。初心者なので、お手柔らかにお願いします。」
「鬼友くんの紹介だから追い返さなかったけど、本当は、ウチは酔っ払いお断りですからね。」
「すみません。」
トイレから出てきた里美は、私たちに少し絡んだあと、奥のソファーセットに倒れこむように座り、あっという間に眠ってしまいました。
「いいわ。まだ時間が早いから、少しだけ寝かせておきなさい。」
「本当にすみません。」
「何、飲む?」
「じゃあ、ビールで。」
次の客が入ってくるまで、たっぷり1時間はありましたが、オネエのマスターが、学校の先輩と判り、思い出話をしていたので、あっという間の1時間でした。
里美は、これから起きることも知らず、幸せそうな寝顔をしておりました。
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