長男の司は、私と長女の香が対立していても、決してどちらかのことを悪く言うことはありません。私が帰宅した時に、
香が家にいると、ついつい私は、香に対して、「あなたのためなの!」と、母親という立場で、自分の思いを一方的に伝えていました。香は、そんな感情的になる私を見透かしたように、冷めた鋭い眼で私を睨み、無言で家を出ます。今の私には、香がどこへ行ったのか、全くわかりません。司に聞いてみても、
「そっとしておいた方がいいよ、母さん。今は姉さんに何を言っても、聞いてもらえないよ。冷却期間をおいたら、いつか姉さんも素直に心を開いてくれるよ。大丈夫、母さんが心配するほど、姉さんは悪くないよ。今も昔と変わらず、僕のことは気にかけてくれてるから。」
と、私をなだめるように話し、コーヒーをいれてくれたり、肩をマッサージしてくれます。そんな司の優しさに、私は何度も癒やされました。それは、男性としてではなく、息子として精神的にも立派に成長してくれている、という母親としてです。勉強の成績も、我が子ながら本当によくでき、クラブでも周りから慕われる、自慢の息子です。母親としての喜びをかみしめながら、私は夫の仏壇に手を合わせ、司の成長を報告します。
そんな毎日を過ごすなか、崩壊への足音が、少しずつ私たちの家族に忍び寄っているなんてことは、私だけは全く気づいていませんでした。
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