『どう?忙しい?』直美はいつもの屈託のない笑顔で話しかけてきた。
直美とは相談に乗ってもらったり、愚痴を言い合ったりする仲だ。
『ようやく休みが取れたところよ。』
『そっかー、お互いこの時期は大変よね。
あ、そうそう私さ、ネット上でやるゲームにはまっててさー、一緒にやらない?
知らない人とチャットとかもできるのよー。』
『私、あまりゲームってやらないし……。』
『そう?一回やってみればいいのに。
やるんだったら教えてね!紹介したらポイントがもらえるから!』
どうやら直美はそれが目的らしい。
そうした他愛もない話をしながら休憩時間はあっという間に終わり、2人は自分の店舗に戻って行った。
夕方、遅番に引き継ぎをして帰る準備をしているゆかりに、最もバイト歴の長い晴美がそっと近寄ってきた。
『店長、最近休み取ってますか?
ずっと出てますよね。私、明日シフト代わりますから休んで下さい。
倒れてもらったら困りますからね!』
確かにここ最近勤務が連続しており、英雄に随分迷惑をかけている。
休みたい気持ちがないと言ったら嘘になる。
『悪いからいいわよ。大丈夫よ。』
『ほら、またがんばっちゃう!少しは信用して下さい。』
『でも……』
『はい、決定!私明日出ますから。ショッピングでもして気晴らししてきてくださいね!』
『ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな。』
仲間のあたたかい申し出に胸がいっぱいになり、翔太の待つ家への足取りも軽かった。
学校での出来事を楽しそうに話す翔太と二人で夕食を取ることも最近では日常となってきた。
本来であれば英雄を含め三人で食卓を囲みたいが、
家族のためにがんばってくれている英雄にわがままを言うわけにはいかない。
『お父さん、まだかしらね。今日はなるべく早く帰るって、朝出掛けて行ったのにね。』
『しょうがないよ!仕事だもん!
それより明日は朝早くからサッカーの練習を学校でするからもう寝るね!』
『え?そんな事きいてないわよ。』
『だって、今言ったもん。』
『もう……』
そう言って翔太は早々に自分の部屋に行ってしまった。
一人取り残されたゆかりはふと直美の言っていたネットゲームを思い出した。
『どうせ英雄もまだ帰ってこないだろうし、ちょっとやってみようかしら?』
そう呟きながら、ゆかりは直美の話を思い出しながら、サイトを検索してみた。
『あら、おもしろそうね。そんなに難しくなさそうだし、それに、明日はお休みだし、
登録してみようかしら。』
登録に多少戸惑いながらも、何とかゲームを開始する事ができそうだ。
『へー、こんなサイトがあるのねー。直美も意外と現代っ子なのかしら。ふふふ。』
しばらくすると、チャットにメッセージが入ってきた。
『はじめまして。友達になりませんか?仲良くゲームしましょう』
といったメッセージが何通も届く。
『何これ?どんどん知らない人からメッセージが届くわ。
うーん、困っちゃうなー。』
頻繁に届くメッセージに嫌気がさしていた頃、一通のメッセージに目が止まった。
『はじめまして。◯◯市に住む既婚者の″りょう″と申します。
もしよければお話しながら、楽しく暇つぶししませんか?』
◯◯市はゆかりが住む町だ。
『あら、うちの市内の方?へー、近くの方とも友達になれちゃうのね。
ちょっとお返事してみようかしら。』
ネットには全く無知なゆかりは、出会い目的のメッセージとは気づかずに、
近隣の人と繋がる事にワクワクしながら、メッセージを返信した。
『はじめまして。私も◯◯市に住んでいます。家族が寝てしまい、暇を持て余していました。一緒に楽しみましょう』
『くくく、一人引っかかったぜ』
モニターの前でりょうはニヤリとしてゆかりの名前を確認した。
『ゆかりか…。人妻は旦那が話も聞いてくれず、夜もご無沙汰ってのが、多いからな…。
こいつもまずはじっくり話を聞いてやるか…ふっ。』
こうしてゆかりはズブズブとアリ地獄にはまっていく事になるのだった…。
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