祝祭が終わり、村が静寂に包まれた夜のことだった。ルナは小屋の前で星空を眺めていた。密林の夜空は日本では見られないほどの星空だ。
「綺麗……」
彼女が呟いた時、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、白髪の長老が立っていた。
「ルナ様、少しよろしいかな」
ルナは驚いた。長老が片言ではなく、流暢な日本語で話しかけてきたからだ。
「えっ……日本語、話せるの?」
長老はニヤリと笑った。
「もちろんですよ。若い頃、日本人の研究者たちと交流がありましてね」
「じゃあ、じゃあ……最初から言葉が通じたの?」
ルナの声が震えた。
「ええ、まあ。あなたが辞書を読み上げた時、何と言ったか覚えていますか」
ルナは顔を赤らめた。
「たしか、タラクルムヴァサ……」
「それ、うちの言葉で『私は子種を求めている』という意味なんですよ」
長老は目を細めて笑った。
「挨拶のつもりだったのでしょうが、あいにくその日は神の花嫁を選ぶ儀式の日でして。あなたの宣言は、まさに渡りに船でした」
ルナは頭を抱えた。
「それを最初に言ってよ!私、ずっと勘違いで……」
「言えるわけないでしょう。あんなに楽しそうに腰を振っていたのに」
ルナの顔がさらに赤くなった。
「それは……仕方なかったのよ。あの香りのせいで……」
「はいはい、香りのせいですね」
長老は意地悪く笑った。
「それで、話があるんです。実はこの村、女性が極端に少ないんですよ。若い女性となると、あなた以外に数人しかいない」
「それで儀式なんてあったのね」
「ええ。だから提案があるのですが」
長老は真顔になった。
「よかったら、この村で暮らさないか?神の花嫁として、我々の仲間入りをしてくれないか」
ルナは呆気にとられた。
「えっ……」
「無理強いはしません。ただ、あなたはすでに村の全員と愛し合った。子供ができる可能性もある。そうなれば、あなたはもう私たちの家族です」
ルナは下腹部に手を当てた。数日間に注がれた大量の精液。確かに、もう腹の中には新しい命が芽生えているかもしれなかった。
「帰る選択肢もあるでしょう。しかし」
長老は空を指差した。
「日本に帰って、また探検家に戻りたいですか」
ルナは沈黙した。確かに、かつての生活は刺激的だった。しかし、この村で過ごした数日間の快楽は、何物にも代えがたいものだった。
「……わからないわ。でも」
彼女は小さく微笑んだ。
「もう少しだけ、ここにいてもいいかも」
長老は満足げに頷いた。
「そうですか。歓迎しますよ、新たな家族を」
ルナは空を見上げた。日本に残してきた生活、家族、友人。すべてを捨てることになる。でも、不思議と迷いはなかった。
「勘違いから始まった関係だけど……悪くないわね」
彼女は長老に向かって微笑んだ。
「よろしくお願いします、長老さん」
「こちらこそ、ルナ様」
密林の夜風が心地よく吹き抜けた。新たな生活の始まりを告げるように。
※元投稿はこちら >>