めくるめく官能世界に程遠く バッグの置き忘れにご注意
帰宅のバスに乗り、バッグの置き忘れに気付き、2つ目のバス停で降り、元のバス停へ
一目散に駆け出した。
息を切らして戻ったけれども、ない、バッグがない、どこにもない、絶望的にない。
もしかしたらと思い、駅前交番へ行こうとする先に、バッグを抱えた女子生徒が歩いて
いた。
「あのう、失礼ですけれど、それ」
「あー、やっぱり、お兄さんのですよね」
いつも一つ手前のバス停で乗降する女子生徒。
「助かったあー、どうもありがとう」
名刺を差し出した。
「理系なんですね、難しそう」
「そんなことないですよ」
電話が鳴った。
実験失敗、再実験するからすぐ戻るようにとのこと、最近、こんなのばっかり。
「大学に戻らないと、本当にありがとうございました」
「いいえ、がんばってください」
「うん、じゃ、また」
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「お兄さん」声を掛けられた。
うきうきしている様子。
「やあ、先日はどうもありがとう」
お礼にお茶を誘い、駅前のカフェでパフェ。
私立の女子高生だった。
「いいの?誘っておいて何だけど、帰宅途中なのに、学校やご両親に叱られない」
「大丈夫です、ちょっと悩みごとを聞いてもらえせんか」
「女の子の悩み事ねえ、この僕が?聞いてもいいけど、大して役に立たないと思いますよ」
成績が下がった、好きな彼に振られた、男の子の気持ちがわからない、知られたくない
ので友達には話せない、と、まあ、こんな具合、女子高生が選りに選って、人生相談に
何でこのヘンタイを選ぶかねえ、この世は狂っていると思った。
自分の中学高校時代を話てあげるのが精一杯だった。
繋いだ手がびっしょ濡れて、スルリと手が抜けて上手く繋げなかったこと、ガチガチ、
歯の音がするキスをしたことなど、ほとんどプラトニック・ラブの話ばかり。
「あはは、お兄さんの話、おもしろすぎ」、女子高生は笑い転げた。
笑うのはいいけど、貴女、相談したかったんではないのかい。
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後日、母親から電話、家庭教師の依頼。
塾を勧めたけれど、娘さんの希望と経済的余裕がないので週1、成績が芳しくない教科
の補習をして欲しいとのことだった。
どの程度の学力か分からないと話にならないので、様子を見ることに応じた。
「家庭教師のお話?」
「うん、忘れたバッグを見つけてくれた女子高生の親御さんから」
「へえ、そう、その子、よほどあなたがお気に召したみたいですね」
「さあね、どこがいいんだか、わけわかんないよ」
「熟女から少女まで幅がお広くて、まあ、およろしいこと」
「えっ、どうしたの」
「いいえ、なにも、お友達から、あなたが女の方と仲良くお歩きになっていた、と聞か
されたことがあったものですから、思い出しただけ」
「女性と仲良く?・・・・それは多分、母の末の妹のことですよ、アパートを引っ越す
前の話だと思う」
「えっ、叔母さまなの、なあーんだ、心配してそんしちゃった」
「ふふ、女房の妬くほど亭主もてもせず、ってね」
「あなたは別よ、でも、女性に優しい人って、やっぱり危ない男性が多いんですもの、
あなたは別よ、あなたはねえ」
「はは、なんでそこで何度も強調するかなあ」
「うふ」
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