めくるめく官能世界に程遠く まゆみの決意「ふたりの鯉(恋)の滝登り」
まゆみは高校を卒業後、会社事務員として働き、数ある恋愛相手は全て社内の未婚、既婚
の年上男性だった。
会社を渡り歩くことになったのも、それら社内恋愛が招いた結果で、進んで転職を希望し
た訳ではなかった。
まゆみにとり、会社は、生きる糧を得ると同時に、仕事上で評価されていると映る男性と
の出会いの場でもあった。
離婚した初婚の相手も、元居た会社での社内恋愛の年上男性、離婚は、たまたま相手が酒
癖の悪い不倫に走るDV男であったからに過ぎず、そうでなければ、まゆみは頼りがいのあ
る年上男性と平和に暮らせていたに相違なかった。
離婚を考え、精神的に不安定な時期の丁度その頃、まゆみの前にりょうが忽然と現れた。
好意を抱くのにさして時間は掛からず、それはりょうがまゆみに一目惚れするよりも早か
った。
まゆみの恋愛歴中、最も若く、自分よりひと回りも年下の青年、それがりょうだった。
何故、年上男性から年下の青年に目を移したのだろう、何故、社会人でなく学生だったの
だろう。
まゆみが、望みと違うものしか得られないのが人生と、半ば捨て鉢になったからだろうか。
表もあれば裏もある社会にどっぷり浸かった男性よりも、たとえ頼りがいがなくても、純
粋に生きようとする一学生に憧れを抱いたためだろうか。
けれど、この時点では、まゆみはまだ「自己」に目覚めてはおらず、自ら「鯉(恋)の滝登り」
をするなど思いもよらなかった。
りょうと付き合い始めてから、まゆみは、りょうの生き方の基が、母親の女性の自己への
執念と、父親の男性の自己への執念にあることを見出した。
特に母親の「家族・家庭は女の城、たとえ夫であろうと、自分が築き上げた女の城壁を壊
すような真似は決して許さない」という執念がりょうの中にも色濃く脈脈と流れているこ
とを知り、まゆみは結婚を控え、りょうの譲れぬ、究極の自己中への執念と、まゆみ自身
の譲れぬ、しなやかな強さを持つ自己への執念で「ふたりの鯉(恋)の滝登り」をすると、
心の中で決意している。
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