血の気が一気に引き、変な汗がどっと噴き出している。
モニターに写った知った顔。それは彼女の母親だった。
バレたのか…?頭の中が真っ白になる。
居留守を使おうかと思ったが、彼女シャワーを使ってる音が聞こえているはずなので、中にいるのは気づいているはずだ。
彼女の存在を隠さねば…
ちょうどシャワーの音が止まった。
急いで浴室の前に行き、
「…乙葉ちゃん…お母さん…お母さんが来た…」そう小声で伝えた。
「えっ!?」彼女が驚いてそう叫ぶと同時に、
「声出さないで!なんとか誤魔化してみるから…」
そして脱衣室の電気を消した。
それから意を決して玄関に向かった。
ほんの数秒の時間だが、その間古ぼけた脳みそをフル回転させてあらゆる言い訳を考えていた。だが結局まとまらなかった。
ゆっくり玄関を開け、対峙した。
意外にもその顔は朗らかだった。
母親が口を開いた。
「お久しぶりです〜、近くに来たものですから。」「…はぁ…」
母親からの言葉は予想外で、構えていた俺は思わず無愛想に返事をしてしまった。
「乙葉が高校に合格したものですから。いろいろもらったりしてお世話になりましたから、ご挨拶に。」
そう、母親はたまたま近くを通ったらしく、思いつきで彼女の合格の報告をしに訪ねてきたのだった。
「そ、そうだったんですか、おめでとうございます。乙葉ちゃん頑張り屋さんだから。よかったですね。」
話を合わせながら、気持ちはその場にへたり込んでしまいたかった。
そういう状況なら一刻も母親に退場してもらい、浴室で待ってる彼女を部屋に戻したかった。だが、母親の話は続いていた。
自分達が行かせたい格好ではなかった、前よりも朝が早くて大変だ、等…
「こっちの方なので、いつも自転車で通っているんですよ。」
自転車…!そうだ、今日彼女は自転車で来た、と言っていた。
なら、停めてある自転車を見て、彼女がここにいるのがバレてしまうのかもしれない。
また俺は変な汗が噴き出して来た。
「すみません…、これから仕事でして…」
もう早くここからいなくなってほしかった。
母親は急に来たことを詫び、そそくさと帰ろうとした。俺は見送りの為に一緒に外に出た。
彼女の自転車を見られないように、気を背けようとするつもりだった。
だが、外に出て見渡すも彼女の自転車は見当たらない。
あれ…?自転車は…
不思議に思いながらも、彼女の母親を見送った。
母親の車が見えなくなると、俺はつい放心状態になり、しばらくその場に立ち尽くしていた。
我に帰り、急いで部屋に戻った。
暗い浴室の中で、いつの間にかバスタオルを身にまとって怯えるように立っていた。
バレておらず、母親が帰った事を伝えると、安心したようだったがまだ不安なようだった。
自転車の事を聞いてみたが、万が一の為に近くのスーパーに停めてきたらしい。
俺はここまでの張り詰めた緊張感がなくなり、一気に力が抜けたような感じになっていた。
それを察したのか、
「おじさん…?大丈夫…?」
心配そうな顔をして顔を覗き込んでくれた。
大丈夫、と言いながらも顔は引きつって、作り笑いをしているのをわかったのだろう
それよりも変化があったのは彼女だった。
急に身支度を始めた。
「乙葉ちゃん…帰るの…?」
彼女はまるで追い詰められるように「うん…」とひと言だけ返した。
こっそりとあるまじき事をして、いくらバレてないとはいえ、母親が来たのだ。
たった15歳の彼女は怯えたのだ。
俺は黙って彼女を見送った。
「…ごめんなさい…」
背中越しにそう言って、彼女は行ってしまった。
それからしばらくの間はメッセージを送っても返事がなかったり、あっても「うん」「そう」「大丈夫」等、明らかに態度が変わってしまったのだ。
俺はこのまま終わってしまうんじゃないか、と不安だけが募った。
2人の関係はいずれ終わりを迎えるだろう。
そんなことは百も承知だ。
そんなふうにしばらくはモヤモヤした日が続いた。
俺の気持ちは彼女に会いたい、抱きたい、それしかなかったのだ。
そして俺は
彼女を誰にも邪魔されないところへ連れて行く、そんな計画を建てた。
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