意外な言葉に、藍莉は目を見開いた。
「…いいの…?」
「…来るなら…気が変わらないうちに…」
そう言って圭介は、歩き出した。
藍莉も慌てて後を追った。
車に戻るまで、圭介は、
「言っちまった…そのままにしてても、俺には関係ないのに…」
そんな思いに苛まれていた。
車に戻った圭介は、職場に電話をし、今日は直帰する旨を伝えた。
車の中での藍莉は大人しかった。
「言っとくけど、」
圭介が口を開く。
「いつも言ってるような事は、何もしないからな…」
藍莉は無言でコクリと頷く。
家に着き、藍莉を迎え入れる。
リビングのソファに座った藍莉は小さくなって、キョロキョロと部屋の中を見回していた。
「あんまりジロジロ見んな。」
着替えた圭介がリビングに入ってくる。
「コーヒーでいいか?砂糖とミルクは?」
と、聞き、キッチンでお湯を沸かす。
コーヒーを出した時、小さな声で、
「ありがと…」と言ってから、藍莉はずっと黙っていた。
「なんか…いつもらしくないな。」
圭介がコーヒーを飲みながら、茶化すように言った。
「…おじさん…」藍莉が口を開く。
「ありがとね…ホントに家に入れてくれるなんて思ってなかった…」
そうしおらしく言った藍莉を圭介は、なぜか愛おしく感じていた。
「他に痛いところはないか?」
「んっ…大丈夫…」
「これからどうする?」
「…どうしよっかなぁ…、おじさんが囲ってくれるといいんだけど笑」
「おい、真面目に聞いてんだよ。」
「ごめん…」
お金を盗られて、精神的にも肉体的にもダメージを負っているせいか、藍莉はいつもより素直だった。
「もう…帰りたくないし…帰れないなぁ…」
そう言った藍莉に掛けてやる言葉は、圭介には思いつかなかった。
「とりあえず…今日だけうちにいるか…?」
迷いに迷った挙句、圭介が提案した。
藍莉は、えっ、と言って目を丸くした。
「行くとこないんじゃ…またウリやられるかもしんないし…だが何もしないぞ!それだけは言っとく…。」
そう言って圭介はキッチンに逃げるように移動した。
「関わっちまったんだから…しょうがないんだ…」そう言い聞かせていた。
それから藍莉にシャワーを浴びさせた。
圭介は部屋着の着替えを探したが、下にはく物のちょうどいいサイズのものがなく、圭介のスウェットを使った。
シャワーを浴び、着替えた藍莉はリビングに入るなり、「これブカブカ。紐で結んでも落ちてきちゃうよ。」
「そんなもんしかないんだよ…」
「う〜ん…」考える素振りをした藍莉はスウェットを脱いだ。
下着に大きめのTシャツを着てるだけの格好になった。
「そんなカッコでウロウロすんなよ…」
「いいじゃんいいじゃん、暑いんだし。」
そう言ってテーブルに座り、圭介の作った食事を食べ始めた。
食事を終えると、洗い物は藍莉がやった。
洗い終わった食器を圭介が拭いて、棚に戻していた。
洗い物をしながら藍莉が、
「あのさぁ、こうしていると新婚のカップルみたいでない?
「どう見ても親と子だろ。」
「年の差カップル。」「ないな。」
「ひどっ!…でもね…なんかおじさんとこうしていると、落ち着くしあったかいんだよね。」
そう言われて圭介は、自分も同じようなことを感じがしていることに気付いた。
このコが言う「あったかい」って、こんな感じのことなのかな…
目の前にある藍莉の後ろ姿を見て、自分の中に藍莉への愛おしさがあるのをひしひしと感じていた。
片付けが終わってから、2人はリビングでテレビを見ていた。特に会話もなく、藍莉はスマホをいじっており、圭介はビールを飲みながら何気なくテレビを見ていた。
圭介は外回りの疲れもあってか、ウトウトし始めた。
「おじさん、眠いの?」
藍莉がそう言ったようだったが、まもなく眠りに落ちてしまった。
目が覚めると時計は0時を過ぎていた。
部屋のテレビは消してあり、圭介の身体にはタオルケットがかけてあったが、藍莉の姿はなかった。
「先に寝たのか…。」そう思って自分も寝ようと立ち上がったが、瞬時にある不安も襲ってきた。
「もしかして…出てった、って事は…」
圭介は2階に上がり、静かに藍莉が寝れるように準備した部屋に向かった。
そうっと部屋を覗くと、布団の端から藍莉の頭が見える。先に寝たようだった。
ホッとした圭介は、起こさないように部屋を出ようとした。
「行かないで…」藍莉の声が響いた。
驚いて振り返るが、何も動きはない。
「寝言…なのか…。」
そう思って、圭介は戻りかけたがまた、
「行かないで…」
うっすらとした外の灯りが入る部屋に、藍莉のシルエットが浮かんでいる。
藍莉は起き上がり、泣いているようだった。
「怖いよ…暗いとこ…ひとりぼっち…なんか…このまま消えちゃいそうで怖いよ…
助けてよ…。」
初めは驚いた圭介だが、頭の中にこれまでの藍莉の事がフラッシュバックしてくる。
そしていつの間にか藍莉のもとに、吸い込まれるように座ったのだった。
いつの間にか、藍莉の事が哀れで愛おしくて、このまま放って置くことは出来なかった。
そして
圭介自ら、藍莉にキスをした。
一瞬戸惑った藍莉だが、すぐ圭介を強く抱きしめ、キスを受けながらも圭介を押し倒した。
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