僕も装束を着て、神楽殿の中に入ります。
神楽殿の一番奥が神様が降りる、神座(かむくら)、その手前が舞台、神楽囃子を演奏する奏者が右側に並びます。
僕は、奏者の後ろ、舞台袖から拝見します。
そして舞台をぐるりと取り囲むように村の人が並びました。
篝火を作っていた中学生の男の子も大人に混ざって座っています。
巫女の装束をした中高生の女の子がお神酒を持って注ぎ(つぎ)に回っています。
厳かな雰囲気とは真逆、昼食の公会堂のような雑多な雰囲気です。
お神酒でございます。
あ、こりゃどうも。
中学生くらいの少女にお酒をついで貰うのは初めてでした。
ニコッと会釈する少女。
う~ん、この集落は、美人が多いぞ。豪族は、美男美女を集めたというがこういう研究目的も面白いだろうな。
莉子、俺にも継いでくれゃ、めでたいの、こうして莉子がお酌するようになったとはの。
隣の男が少女に声をかけます。顔なじみのようです。
いくつになったんかいの?
もうじき14・・。
そうか、お前は整うた顔しとるけ、間違ごうのう別嬪(べっぴん)になるで。
う、ん・・・。
照れているのか、男にお神酒を注ぐ莉子という少女。
あ~僕もこういう話が出来たらなぁ~、僕は、既に少し酔っていました。
おぅ、じゃ決まりなんでええか。
誰かにもうして貰ったか?
首を振り、持っていた酒器を床に置くと、手を後ろにする莉子。
男の手が前に伸びて行きます。
おお~こりゃいいお椀型になるわ。
んっ。
莉子、じっとしちょれ、拒んだらお嫁に行けんぞ。
手を中に入れようとする男、ここはまだだめか?もうやめるか?
じゃ、後でするけぇ、落ち着いたら来いよ、莉子。
わかったな。
前の中学生も顔を赤くして、見ているようでした。
おう、お前らも酒継いでもらったら、ちゃんと触っとけよ、これが、みんな神様に伝わるんじゃからの。
さすがに同級生には触られたくないのか、中学生を避けるようにお神酒を継ぐ少女たち。
お、おい。本当に、ここは現代の日本なのか・・・。
昔の日本人は、性に開放的だったと言うのは間違い無いが、まさに吃驚仰天の出来事で、お酒も相まって頭の中がぐるぐると廻ります。
莉子っ、隣の偉い先生にもう一回注いじゃりっ。
はい。
僕の方が緊張して、盃が震えていました。
飲み干した盃を受け取ると、莉子ちゃんは先ほどと同じように手を後ろにまわします。
目を閉じて、身を反らして胸を突き出す14歳の少女。
いいのか、おい、いいのか、いいのかっ、おいっ、なにやってんだっ、理性が叫んでいますが、だんだん聞こえなくなりました。
し、失礼・・。
白と赤の装束は薄くて、手を当てると、少女の体温がじかに伝わってきました。
じんわりと汗で湿ったような幼い躰から甘く刺激的で中年の男を狂わせる少女の匂いがお香のように立ち上ります。
先生、よう揉んであげんさいや。
指先に触れた乳首を摘まむと、莉子は、ビクッと身体を震わせました。
ん、んっ。うぅんっ。
おお、先生、上手いもんじゃの。
はあっ、あ、はあぁっ。
着物のように真っ赤な顔で息を荒げる莉子ちゃん。
突然、鈴の音色が鳴り響きます。巫女舞の装束を着た少女たちが出てきました。
まず神様を神座にお迎えする、稚児と早乙女巫女による儀式舞が始まりました。
邪気の無い少女たちの舞で舞台を祓い清めるのです。
皆、頭に金細工の豪華な冠を被り、鈴を鳴らし踊ります。
一番下の女の子は、5歳くらい、脚を高く上げ、ドンと強く床を踏み、鈴をしゃんと鳴らし、刀で空を切り、邪を払う神楽を舞います。
そのうち、太鼓や笛のテンポが速くなっていきますと、稚児たちは、舞台の周囲に座り、太鼓や笛の音、手打鉦に合わせて、鈴を振り、そのうち観客のいる方角にも鈴を振り鳴らします
神座の御神鏡の前には、炉が置かれ、時折炎が立ち上ります。
舞台が清められると、喜、怒、哀、楽のテーマに沿った神楽が始まりました。
ここの里神楽では、連続して神楽を行うのではなく、演目の合間合間で先ほどの、巫女たちのお酌でお酒が飲めるのが一番の特徴でした。
神憑り(巫女を触媒にして、神託などを行う儀式)をこの場の全員が同じようになって行うのかも知れません。
せんせい、お神酒じゃ。
愛くるしい声とともに現れた少女は、稚児の巫女舞で刀を振った子でした。
ああ、お神楽、すごく良かったよ、お名前は、何ていうのかな?
わらはは、涼子と申す、ではお一ついかがか。
ああ、ありがとう、頂きます。
では。
そう言って注ぎ終わると、身体を弓なりに反らせ、膨らみの無い胸を涼子ちゃんは、精一杯付きだします。
お、おいっ。
せんせい早くするなむ、おなごにはじをかかせる気か。
膨らみの無い胸に、二つの突起が浮かび上がっています。
この想いを大御神は汲み取られ、世が泰平でみなが明るく幸せになるので候。
そっと触れるように触ります。
んっ、んんっ。
爪の先で掻くようにすると忽ち顔を赤くして、幼児とは思えないような艶のある声が洩れてきます。
手。
うん?
手っ、な、なかっ。
恥ずかしそうに顔をしかめ、声を絞る出す涼子ちゃん。
じゃ中に入れるよ。
すべすべで光り輝く胸元に指を差しこむと、忽ち、はあぁ・・・と大きな声が洩れてきます。
固くなった乳首を優しく摘まんだだけで、目を細めて、身体をぶるぶると震わせる涼子ちゃん。
あ、あ、気持ちいいっ、ああんっ。
そう、涼子ちゃんだけではありません、神楽の間は、このような愛らしい喘ぎ声や響き渡ります。
さすがに神楽殿の中ですから、これ以上の行為には及ばない、暗黙の了解があるようでした。
そのうち笛、太鼓、手打鉦が鳴り響くと、本殿で見た二人の早乙女巫女が現れ、神楽囃子に合わせて、舞台を駆けまわる様に舞い始めました。
神憑りの儀式が始まったのです。
二人の動きは、バリ島で見たインドネシアの舞踊にも似ています。
二人の表情も虚ろと覚醒を繰り返し、神座に置かれたカメからお酒のようなものを柄杓で呑むと、一段とテンポが激しくなりました。
炎の上がる炉の上に白く丸いものが乗せられました。
亀卜(きぼく)という亀の甲羅を焼き、そのひびの割れ方で占う、古代の神憑りです。
大きく太鼓の音が鳴り響くと、一斉に音が止み、静寂が訪れます。
少女たちは、神鈴を亀卜に向け清めると神憑りの儀式が終わります。
ドン、ドンと大太鼓の音が響き、占いの結果を皆、固唾を飲んで見守ります。
しかし、巫女からは、なにも言葉がありません。
何か、いつもとは違う事が起きている、そんな胸騒ぎを覚えます。
大太鼓が連打されると、巫女の口から聞き覚えのない言葉が発せられました。
今のは、古代の日本語だ・・。
何て言ったんだ。
そのうち、太鼓、笛が静かに奏で始めると、唄が始まりました。
めくりに書かれた演目は、繭の神楽。
いよいよ麻由子ちゃんが舞う、神楽が始まりました。
虎の縞模様の衣装を着て、面は恐ろしい形相をした猿のような異形の鵺が舞台に現れます。
腰には、瓢箪を持ち、脚は蛇の革の脚絆、まるで特撮に出て来る怪人の様相です。
いまを去ること千二百年の昔、都にあまたの人の住まひける折、鵺といふ異形のもの現れて、民草(たみぐさ)および平氏、これをおそれかしこまりけり。
かの鵺、討たれてのち、京の都にやうやう平穏の世訪れしかど、やがて四百年を経て、鵺、怨霊の姿となりて蘇りぬ。
かの恨み深き平家を求めて、夜ごとに都をさまよひけれども、時すでに遅く、平家は源氏の手にかかりて、すでに亡びたりける。
なんぢ、(なんと)平家はすでに亡びたるかと、鵺は一度は喜びけれど、さては平家の貴き肉の味、いまだ忘れ難く、執心なお絶えず。
かくて、東西南北、国々を遍(あまね)く尋ね歩き、山野をさまよひつつ、つひに中国山地の奥深く、平家の末葉(すゑは 末裔)らの忍び住む隠れ里を見出だしけり。
さるほどに、平家の末葉の肉、その味はまことに格別なりけり。
かの鵺、夜ごとに村を襲ひては人を喰らひけるが、やがて肉柔らかなる童(わらは)のみを選びては喰らふやうになりにけり。
村人ら、これをおそれて夜をも眠らず、つひには里を捨てて他国へと逃る者もありけり。
このままにては、いづれ里は絶えなんずと、誰もが嘆き悲しみける。
鵺の舞が終わり、麻由子ちゃんとその両親が出てきました。
両親は、面をかぶっていますが、麻由子ちゃんは、白粉と口紅、鮮やかな朱色の着物を着た村娘として出てきました。
緊張しているのがこっちにも伝わってきます。
着物の裾から見える華奢な脚がぶるぶると震えています。
その折しも、伽耶宮(かやのみや)の血をひく繭由子(まゆこ)といふ娘ありけり。
年わづかに十三に満たねど、心賢く、神慮を畏れし子なり。
かの娘、村を救はんと思ひて、自らを贄(にへ)として鵺に捧げんと申せば、父母、涙してこれをとどめんとす。
されど繭由子、静かに曰く・・・。
我、密かに小刀を呑みて鵺に食はれなば、きっとその腹を裂きて、鵺を倒すこと叶ふべし。
命は惜しからず、ただ村の安寧を願ふのみと。
父君は、家にただ一つありし鉄の銛の先を折りて、三日三夜、火と水とにて研ぎ澄まし。
つひに、刺せば戻らぬ返し持つ刃となし給ふ。
それに深山の鬼草(おにぐさ)、すなはち鳥兜を煮つめし猛き毒を塗り給ふ。
母君は、山の芋をすりおろし、灰の汁と和し、こんにやくをなして、小刀をその中に覆ひ隠し給ふ。
その折しも、白魚のごとき御手の指は、強き灰汁にてただれ、赤く爛れにけり。
もはや元のかたちにも戻らざりけり。
よきか、鵺に決して知られぬやう、事の直前にて呑みくだすのじゃぞ。
はい……父上さま、母上さま。かくも短きあひだなれど、ありがたうございました。
わらは、生まれ替はりても必ずや、父上さま母上さまの子として生まれ出で参りませう。
これは、ほんのしばしの別れにて候ふ。ゆめゆめ悲しみ給ふな。
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