年が明けると、年度末に向けて仕事に忙殺される日々になった。
ササゲには、何度か連絡をしたが、繋がらなかった。
積雪で仕事が流れた日の午後、徒歩で移動していた時の事だった。
前から歩いてくる帰宅途中の少女に目が止まる。
ひょっとして、ササゲで見たあの少女じゃないか。
少女もチラっと僕を見ると慌てた様に目を伏せた。
間違いない、あの子だ。
左右に飲み屋が拡がる横丁の路地。
そんな場違いな所にランドセルを背負った少女が一人でいる。
僕が近づくと、目を伏せたまま早歩きで立ち去ろうとする。
「きゃあっ」
雪に脚を滑らせ、積んであるビール箱を抱えるように倒れていく。
「大丈夫かっ」
崩れた箱を取り除いてやる、顔や頭は無事なようだ。
「ケガはっ?どこぶつけたっ?」
恥ずかしいのか、少女の雪の様に白い肌がみるみる赤くなっていく。
「大丈夫です、すみません」
「本当に?」
持っていたハンカチで、濡れた少女の足を拭こうとしたが、皺ひとつないすべすべの肌をみて我に返った。
慌てて、ハンカチを少女に差し出す。
ランドセルの名札に、裏返した文字が見える。
〇〇小5年、らなという文字が見える。
(らなちゃんっていうんだ)
顔を近づけると、少女の髪や頭皮から甘い香水の匂いがほのかに漂っていた。
夜の女がつける香水と子ども特有の甘い匂いが混ざった独特な香り。
頭が痺れるような官能的な匂いだった。
「ハンカチすみません」
「ありがとうございました」
「ね、どうして僕を見て、急に走ったの?」
「え」
「あの、前に会わなかった?・・・」
「ごめんなさいっ」
そういうと逃げるように走り去ってしまった。
ちょっと強引に行き過ぎた、馬鹿だな俺。
路地を出て、らなちゃんが走り去った方をあてもなく、とりあえず進む。
しかし、早まったことをした、せめてもう少し他の話をしとけば違った結果になったかも知れないのに。
そんな事を思っていると50mくらい先のファーストフードの店先に立つ少女の姿を見つけて、思わず立ちすくんでしまった。
らなちゃん?
気づいた僕を確認すると、まるで誘うかのように、店に入って行く。
僕が店についた時は、受取カウンターに立っていた。
程なくハンバーガーの乗ったトレイを持って階段を上っていく。
2階に上がってすぐ、階段に一番近い席に座っていた。
外は、また雪が降り始めていた。
さすがにこの天気じゃ、歩く人も少なく店内も疎らだ。
僕に気がついているのは間違いない。
しかしどういう心境の変化だろう。
僕は、少女の席の後ろ側に座った。
暫くハンバーガーを食べていたらなちゃんだったが、半分ほど食べると、席を立ち、3階へむかった。
3階?トイレも無いし、何で3階に行くんだ?
5分もすると様子が気になって、僕も3階に向かった。
あたりを見渡すと、らなちゃんは、一番奥で座らずに立っていた。
僕たち以外、周りには誰もいなかった。
何て声を掛けようか、言葉が出てこない。
近づく僕を前にして、ダウンジャケットのファスナーを下ろし始める。
ダウンジャケットを脱ぐと、下は黒のタートルネックのセーターを着ていた。
華奢な躰にぴったりとフィットして、らなの身体の線がくっきりと浮かんでいる。
スタイルの良さに思わず、らなの身体を見つめていた。
すぐにらなは、背中を向ける。
こういう時、なんて声を掛ける?
後ろを向くと、セーターに手をかけ脱ぎ始める。
「え、えぇっ」
さらに下に着ているキャミソールを引っ張り、それも脱ぐ。
皺も無駄な肉もない、真っ白な背中、わずかな時間のはずだが、とても長く感じる。
キャミソールを机の上で折りたたむと、僅かに膨らんだ横乳が見えていた。
それが済むと、またセーターを着る。
セーターを着ると、こちらを向いて、ダウンジャケットを着るらな。
「今度の金曜日、お店デビューだから」
「よかったら来て」
「あと、ハンバーガーもういらないから、食べて」
「じゃあね」
らなの居た席に戻り、残りの半分を食べた。
トレイには、SNSのURLが書いた紙ナプキンが置かれていた。
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