食べ終わり、食器洗いと片付け。
食器を洗い場まで運び、ひなちゃんと並んで洗いながら、
「最初は食器に付いた汚れをペーパーで拭き取ってから洗うんだよ。そのまま洗うと地球を汚しちゃうからね。お家でお母さんのお手伝いする時もこうやって洗うんだよ。」
するとひなは、小さな声で、
「お母さん…いつもお惣菜とか買ってくるから洗うものあまりないもん。」
僕はひなの言葉に笑いが込み上げてきて、
「はっはっは……それは失礼しました。今日炊き込み御飯とお味噌汁ひなちゃん作ったから、お家でも練習したらいいよ。今日は炊き込みご飯だったけど、これからのイベントにウインナー作りとか夏はアイスクリーム作りがあるから、良かったら参加したらどうかな?僕が教えてあげるから。」
ひなの反応は……どうか。
だめだったら……終わりかも。
するとひなちゃんは、ぼそっと、
「考えてみる…」
「きっと楽しいと思うよ。自分の作った料理で他人が美味しいって言ってくれると嬉しいと僕は思うから」
「………私も。さっきお兄さんが美味しいって言ってくれたの、嬉しかった。」
おっ…少し会話が成り立ってきたかも。お互いに共感し合うとだんだん距離も縮まってくるからな。
「ほら…お話する時は相手を見ながらするといいよ。自分の気持ちが伝わり安いから」
ひなは僕をまたチラッと見上げるも、恥ずかしそうに洗っている食器を見て、
「恥ずかしいから……だめ」
ボクは再び笑いながら、
「クスッ……練習すれば慣れてくるから。僕でよければ練習相手になるよ。」
ひなの様子を伺う。すると僕を見上げ
「……考えておく。」
ここは少し大胆に。濡れた手を拭き、ひなの頭を優しく撫でながら、
「ほら…出来た!相手を見ながらお話出来たじゃん。ひなちゃんえらいよ。」
ひなはびっくりしたような顔をしたが、少し笑顔を浮かべたように見えた。少し近づけたな。
食器を片付け午後からの行事の準備に向かい、まずは山道散策。いもの苗植えをする場所までだけど。
わざと少し急な山道を遠回りするのも行事の一つ。
先頭は僕。その後にひなちゃんとその母親。
草木の説明をしながら歩いていると、ひなちゃんが少し足を滑らせるもんだから、慌てて手を握り、
「ごめんごめん……僕のお話で草木に意識してたから足元に注意がいってなかったんだね。手繋いで歩いていいかな?」
ひなは顔を真っ赤に染め、
「ごめんなさい……心配かけて。」
「大丈夫……色んな経験を積んで行けばいいから。」
手を繋ぐいい口実が出来た。違和感なく手を繋げたから……また距離が縮まった。小さな可愛い手……握らせたい。想像が膨らんでくる。
ひなの母親は、自分達の後ろから、
「倉田さん……ごめんなさい。ひな…もうしっかり歩きなさい。心配かけたらだめでしょ!」
僕は振り向いて、
「大丈夫ですよ。こんな山道歩くの初めてでしょうから、誰もが最初は滑ったり、僕なんかも最初は転んじゃいましたから。以後気を付けるようにしてますよ。お母さんも気を付けて下さいね。」
自分なんかも完璧じゃない事を知って貰えば、また共感する事も増えてくる。
暫く歩くといもの苗植え場所に着き、名残惜しいがひなの手を離し、
「ここに苗を植えましょう。」
鍬とスコップで一生懸命穴を掘り、用意された苗をひなと一緒に植えていき土を被せると、ひなと目線を合わせるようにしゃがみ、
「ひなちゃん…よく頑張ったね。秋になると今度は芋掘りのイベントがあるんだよ。自分が植えた芋掘って焼き芋にしようね。」
するとひなは一度は目を反らすも恥ずかしそうに見つめ直し、
「……うん。秋の焼き芋楽しみ」
僕はひなの耳元で、
「僕はひなちゃんとの焼き芋楽しみにしてる。ひなちゃんと一緒じゃなきゃ楽しみ半分だよ。」
ひなはまたびっくりした表情を浮かべるもニコッと笑い、
「……考えておく。」
笑った顔可愛いじゃん。愛らしくてエクボがあって。
「ひなちゃんの笑った顔…可愛い。」
ひなちゃんの嬉しそうな顔が印象的だった。
苗植えのイベントが終わりまた山道を歩いて帰る事に。今度は自然にひなの手を握り自然の家に向かいました。会話はまだまだ……。でも今後のイベントの予定等を話すと興味があるようで。
自然の家に着き帰る準備を終えたひなのカードにスタンプを押し、
「このスタンプ貯まるとプレゼントが貰えるからね。
今度はペットボトルキャップも持っておいで。スタンプ増えるから。あっ……次回は来るかわからなかったね。良かったらまたおいで」
ひなの母親が、
「倉田さん…色々お世話になりました。ひなの楽しそうな顔、久しぶりに見たような気がします。ありがとうございました。」
最後ひなの頭を優しく撫で、
「待ってるよ」
「……考えておく。」
目を見ての短い会話。
でも最初よりはだいぶ距離は縮まったかな。次回来るかどうか…。僕は精一杯の笑顔でひな親子を見送りました。
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