※※※カンナ、ヤヨイに接近※※※
ヤヨイの淫らな行為を目撃してから3日後。
その日、夕方からのレッスンを受ける為に駅に向かうカンナの姿があったが、いつもに比べると1時間以上の余裕を見ていたのには理由がある。
駅に着くと、ひとつしかない改札口が一望出来る距離を取って時間を潰すカンナ。
(来た!)
制服姿のヤヨイが姿を表せるとカンナは適度に距離を置きながら、改札口を抜け、ホームへの階段に向かうヤヨイの後ろを尾けていく。
「あれ?同じレッスン受けてるよね?」
ホームで電車を待つヤヨイの横に立つと、カンナは偶然を装ってヤヨイに声を掛けた。
ヤヨイもカンナと言葉こそ交わしたことは無いものの、顔は分かるし名前くらいは知っていたようだ。
「あ。えっと・・カンナ・・さん?」
「『カンナ』でいいよ。あたしもヤヨイって呼んでいいよね。」
「うん。いつもこの駅?」
「うん。その制服、東中だよね?あたし西中なの。」
通っている中学校を聞けば、駅を挟んで西と東に位置した互いの学区は自ずと分かるし、互いの自宅のあるエリアも漠然とだがイメージ出来る。
「・・ふ、ふーん。」
「たまに電車の中とかで見掛けることはあったんだけど、声を掛けるチャンスも無かったし。」
「う、うん。あたしも同じ。」
やや不安げなヤヨイの表情を伺いながら、カンナは外堀を少しずつ、少しずつ、まるで小石をひとつずつ投げ込むように埋め始める。
同時に、まるで水面に生じる波紋のようにヤヨイの心に動揺が生じ始めていた。
(焦らない、焦らない。)
自分自身に言い聞かせながらカンナは小石を投げ続ける。
電車が来た。
到着した電車は混んではいないが二人で並んで座れる程には空いていない。
電車が走り始めると二人は並んで吊り革に掴まりながら、窓の方に身体の正面を向けて立つ。
その為、自然と窓に顔を向ける格好になり、互いに顔を合わせて会話をしているわけではない。
「東中だから家は駅の東側だよね?あたしは西側だから行動範囲も違うしね。西側に来る事ってある?」
「・・無、いかな。滅多に無い。」
表情を硬くしながらヤヨイの声は震え始めた。
「いいよね、ヤヨイの家の方は。人通りも多いし。あたしの家の方、あ、15分くらい歩いた西公園の横なんだけど人通りは少ないし、先週末の大雨の時なんて真っ暗でこわいし、ずぶ濡れにはなるし。」
「・・そう、なん・・だ。」
カンナがチラリと横目でヤヨイの様子を伺うと、表情は強張り、顔色が悪い。
「あ、着いた。」
「・・・」
電車を降りて駅の改札口を出る寸前、カンナが急に立ち停まる。
「ゴメン、ちょっとトイレ行って来る。先に行っててくれる?」
いうが早いか、カンナは足早に歩み去って行き、返事をする暇も無いヤヨイは、しばしアッケにとられたように立ち尽くすと1人で歩き始めるしかなかった。
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