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投稿者: いちむらさおり




 トイレに行って帰ってくるまでに三十分も四十分もかかるのは、どう考えても変だ。みんなにどうやって言い訳しようか悩んでも悩んでも、健太郎の脳ミソは何ひとつ答えを出してくれない。

「どうしよう……」

 そうこうしてるうちにカウンターの前をぼんやりと通り、新聞を囲む仲間の元へと帰還した。いちばん最初に彼に気づいたのは萌恵だ。

「ボッチくん、早かったね」

「え?」

 唖然とする健太郎。俺、早かったの──?

「速いのは走るときだけかと思った」
と博士も付け足す。
 この変てこりんな現象は何だ。みんなして俺をからかっているのか、それとも本当に時間がどうにかなっちゃったのか。訳わかんないよ──。
 とにかく席に着いて輪に加わった。身体はここにあるのに、心だけはあの部屋に置きっぱなしのままで、口は金魚みたいにずっと半開きだし、人の話は上の空。

「おい、ボッチ、ちゃんと聞いてる?」

「うん、聞いてる」

 みんなが新聞デビューしてるうちに、俺はあんなことをデビューしちゃったもんな。やばい。またドキドキしてきた。今日、眠れるかな──。
 そうやって遥香との濃密な記憶が頭から離れないまま、持ち寄った夏休みの宿題をちびちび進めて、正午過ぎには解散となった。



「せっかく誘いに来てくれたのに、ごめんなさいね。夕べ遅くに、急に熱を出しちゃってね」

 夏休みの二日目、榎本家の玄関先で健太郎の母親と話す三人がいた。博士と理人と萌恵だ。

「夏風邪でもひいたんだと思う。だからまた治ってから誘ってあげてね」

 病気で学校を休だことがない健太郎だけに、美人の母親の表情もさすがに曇って見える。
 事情はよくわかった。仕方がないので、健太郎を除いた三人だけで図書館を目指すことにした。

 そこは真夏のオアシス。

「白熊って、こんな気分なのかなあ」

「ペンギンに生まれたかったあ」

「私、熱帯魚のお姫様がいい」

 それぞれの感想を深々と述べたあとで、昨日の勉強会のつづきがはじまった。と言っても新聞の記事はやはり退屈なものばかりで、大威張りで社長になると宣言したものの、テレビ欄を見ているうちは進学だって危うい。

「ボッチのやつ、どうしちゃったのかな」

「いきなり新聞なんて読んだもんだから、おかしな熱が出たんだよ」

「頭の中まで筋肉モリモリだもんな」

 そんな噂話で時間を潰していると、
「トイレに行ってこようかなあ」
と博士が独り言を言い出す。

「漏らす前に行ってこいよ」

「声、でかいって」

 虫を追い払うように手であおぐ理人に背を向けて、博士は駆け足でドアをくぐって行った。
 トイレはすぐに見つかった。洗った手を適当にズボンで拭いながら廊下に出ると、ちょうど女子トイレからも人が出てくるところだった。
 あの人だ──と博士が思うのと同時に、
「こんにちは」
とその女性は笑顔で挨拶をくれた。

「こ……こんにちは」

「きみは確か、ハカセくんだっけ?」

「そうだけど、なんで知ってるの?」

「ボッチくんから聞いたんだよ」

「え?」

 博士少年は普通に驚いた。このお姉さんの言ってることが本当なら、健太郎とはどういう知り合いなのか。遠い親戚、友達の友達、そのあたりが妥当な線だろう。

「お姉さんね、この図書館で働いてるんだ。ほら」
と見せた名札には『今井遥香』とある。
 これがこの人の名前なんだ。遥香……いい名前だなあ。昨日とはまた違う花の匂いがするし、大人だし、きっと物凄くモテるんだろうな──。

「博士くんにお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「はい!」

 予想していなかった展開に不意打ちを喰らって、博士は軽い金縛りに遭ってしまった。

「ちょっぴり恥ずかしいお願いだから、あっちの部屋でお姉さんと二人きりになろっか?」

 すると博士の返事も待たずにその手を引いて、遥香が向かったその先には、ひっそりと佇む書庫の扉があった。
 部屋に入り、施錠する。他言無用の口約束を交わした二人は、古本の匂いが立ち込める密室の中で、息もできないほどの緊張と期待に胸を詰まらせていた。

「きみぐらいの年頃の男の子って、女の子の身体に興味とかあるのかな?」

 ギクリ、と博士の顔が強張る。

「やっぱりあるんだね」

「べつに……。まだ小学生だし……」

「そっか。それじゃあ、こっちはどうかな」
と、もてあそぶような目を博士に向けてから、遥香は自分の着衣に指をかけて、色っぽく呼吸した。

「うくん……はああ……」

 そこからじゅうぶん過ぎるくらい時間をかけて、一枚、また一枚、身に纏ったものを脱いで肌を晒していく。
 あとに残ったのは、白桃みたいに薄い皮膚を『下着』というおしゃれ着でデコレーションした、今井遥香そのままの姿だった。

「いまだけ特別、博士くんが触りたいところ、どこでも触っていいよ」

 そんなこと急に言われても困る──と言うつもりだったのに、舌がもつれるというよりは、頭脳がもつれて拒否できない博士。
 かろうじて動く目だけを遥香に向けていると、どうしてもブラジャーやショーツが視界に入るし、その生地の向こう側にある大人の領域に踏み込みたくなる。

「男の子でしょ?」

 遥香が諭す。

「私だってすごく恥ずかしいんだから、きみも少しだけ背伸びしてみたらいいじゃん。ね?」

 そう言って顔の角度を右に傾けながら、吐息のかかる距離まで迫って、博士を胸に抱き寄せた。

あ、俺のメガネが──。

 落下物が床に落ちる音がして、博士はしばらくのあいだそのままの姿勢で過ごした。
 自分のほっぺたを両側から押し潰しているものが何なのか、考えただけでズボンの中のものが固くなってくるのがわかる。
 やばい、あそこが痛い──。

「右がいい?それとも左?」
と遥香が囁いた。
 博士は胸から顔を上げて、どういう意味かと首を傾げる。メガネがないので、遥香の表情を読むことも難しい。

「お姉さんのおっぱい、片方だけ見せてあげる」

 確かにそう聞こえた。博士は右のカップを見つめて、なぜだか正座をする。
 瞬きしちゃダメだ。俺は今日一日だけ大人になるんだ──。
 遥香がブラジャーのホックを外して、肩からストラップを抜いていく。胸の前でクロスさせている両手から力が抜けると、色柄ものの下着がはらりと剥けて、片方の乳房が露出した。
 その中心で恥ずかしそうにしている乳首はどこよりも色が濃く、フルーツポンチに乗っかったさくらんぼみたいに丸くて紅い。
 眼が点になるとはまさにこのこと。

「はい、これ」
と遥香はメガネを拾い上げて、博士の耳にかけてあげる。

「おお!」

 思わず声がひっくり返る博士。目の前には可愛いお姉さんのおっぱいがあるわけで、肉感とか色の分布とか、うっすらと浮き出た血管まで見え見えの丸見えだ。
 博士がそこに手をかざすと、遥香はオーケーサインの微笑を返す。
 ママのおっぱいを求める赤ちゃんではないけれど、なにをどうしたらいいのか経験がないので、とりあえず両手で触ってみた。さすって、押して、揉んで、感触を記憶するために夢中で指を動かす。

「あんまり触りすぎると、お姉さん、エッチな気分になっちゃうから」

 うっとりした声で囁く遥香に、もっともっとエッチになって欲しくて、こちらを向いている紅い突起物を指で転がしてみた。

くにゃり。

「やん……」

 せつない快感が遥香をおそう。

「その調子だよ……」

 そう言われた博士本人は、いつものいたずら心に火が着いて、クラスの女子をからかう要領で遥香のショーツを引っ張った。生地が伸びて、お尻の半分がそこからのぞいている。

「そっちはまだダメ」

「こっちも見るの」

「お願いだから待って」

「待てない」

 遥香の抵抗むなしく、ショーツは持ち主の身体から抜き取られてしまった。
 咄嗟にぺたんこ座りをして陰部を隠す。いつの間にか左右のおっぱい二つともが博士の目に映っていた。
 採点するとしたら『百おっぱい』、いや『一万おっぱい』くらいいってるだろう。つきたてのお餅って確かこんなだったような気がする──。

「お姉さんのおっぱいって、中に餡こが入ってるみたいだね」
と冗談を言ってみたら、
「え、いま何て言ったの?」
と逆に聞き返されてしまった。

「だから、中に餡こが……」

「ああ、『アンコ』ね。びっくりした。『オマンコ』って聞こえちゃった」

「オマンコ?」

「まだわかんないか。ええとね、女の子のあそこのことを『オマンコ』って言うんだよ」

「変なの」

 遥香は、ふふっと含み笑いをして、
「ハカセくん可愛いから、私のオマンコ触らせてあげる」
と体育座りの姿勢になるように膝を抱える。



つづく


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12/10/08 23:04 (P19fY.yl)
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