夫・義和のオーストラリア出張という、天が与えてくれたような好機を沙也加は見逃しませんでした。
剛二とともに数日間で用意周到に手配を整えると、二人はすぐさま行動に移し、義和と沙也加が暮らしていた都内湾岸地区の高層マンションへと向かいました。
静まり返った平日の昼下がり。豪華で広々としたエントランスを通り抜け、最上階に近いその部屋へと足を踏み入れると、
沙也加にとって住み慣れたその空間は洗練されてはいるものの、今ではどこか冷徹な空気が漂う、生活感のない無機質な箱でしかありませんでした。
しかし、それとは対照的に窓の外に広がる湾岸の海や、林立する超高層ビル群の眺望は息をのむほど素晴らしく、その景色だけが彼女の傷だらけの心と身体を静かに癒してくれました。
沙也加は剛二の手をギュッと握り締めると、気持ちを切り替えるように深く深呼吸をしてから、手際よく作業を始めました。
自身の私物や、思い出の詰まった衣類、下着類、アクセサリー、小物、靴などを淡々とスーツケースへと詰め込んでいく。
コーヒーカップやグラスなど、自分の匂いを連想させる全ての痕跡を部屋から消し去り、クローゼットや見慣れた部屋が次第に空虚な空間へと変わっていくにつれ、
沙也加の心の奥底からは、重苦しい呪縛と義務感が解き放たれ、それと同時にどこか切ない侘しささえも込み上げていました。
「よし……、沙也加、これで本当に全部でいいんだな…?」
「ええ……、これで全部よ。ありがとう、剛二さん…、、」
荷造りをすべて終えた沙也加は、あらかじめ用意していた書類をバッグから取り出すと、キッチンカウンターの上に静かに置きました。
それは、彼女の署名捺印が厳然と刻まれた離婚届で、豪華な大理石のカウンターの真ん中にそれを据え、その横へ、夫・義和が義弟の妻である絢音と激しく淫らに貪り合っている決定的な不倫の証拠写真を何枚も並べ、
そこに写し出されていたのは、言い逃れの 出来ない、生々しい不貞の現場そのものでした。
義和の反り返る男根を、愛おしそうに口に含む絢音の艶めかしい表情や、背面から深く突き入れられ、結合部までが露わになった姦通の瞬間、
冷酷なまでに鮮明に捉えられたその証拠画像は、二人が長いあいだ愛欲に溺れ、深く禁忌に触れ続けてきた確実な証拠でした。
「これで、すべて終わりね……、、、」
深い溜息をつきながら、沙也加は剛二に寄り添い、その分厚い胸板にそっと顔を寄せました。
「この屈辱的な裏切りの画像を、貴方から初めて見せられた時、正直わたしには絶望しかなかったわ…。」
「夫の言葉を信じて本家に入り、理不尽なあり得ない村の掟に従わされ、辱められ犯される日々に絶望しかなかった…、、」
「妻の私が無抵抗に陵辱されている裏で、あの人は義弟の嫁との愛欲に走り、わたしの気持ちを踏みにじり、裏切っていたなんて…、、わたし馬鹿みたいよね…、、」
「あとは、いったん本家に戻って私の私物をまとめ、身支度を終えた剛二さんに迎えに来てもらい、義弟の家にこの証拠画像を投函して送り付けるだけ…、、、」
「これで義和さんも、あの家系も永遠に終わりね…、、、」
沙也加は剛二を見上げながらいいました…
「わたしと剛二さんは、自由への切符を手にして、誰にも邪魔をされずに二人きりで生きて行くのよ…、、、剛二さん…わたしを絶対に離さないでね…、、、」
「ああ、もちろんだよ…、オレは沙也加を絶対に離さない、二人で生きていこう…」
その場で強く抱き締め合い、熱い唇を激しく交わすと、過去との決別を果たした沙也加の瞳にもう迷いは無く、
剛二の手を引き、かつては夫と愛し合っていた、夫婦のメインベッドルームへと彼を誘いました。
それは夫への復讐であり、そして多くの男達に、理不尽な村の掟の為に犯された身体を、剛二の無垢で一途な愛によって浄化してもらう為の聖なる儀式でもありました。
「剛二さん…、、このベッドで…、わたしのすべてを貴方の愛情でいっぱいに満たしてちょうだい…、、、」
やがて湾岸地区の高層マンション群に夜が訪れると、大きなメインベッドルームの窓の外には煌めく夜景が広がりました。
無数の宝石を散りばめたような都会の眩い輝きは、まるで二人の門出を祝福しているかのようでした。
沙也加があえてベッドルームの遮光カーテンを開放すると、目の前で二人の一部始終を遮るものはもう何も無く、
林立する近隣の超高層マンションがすぐ目の前に建ち並び、ベッドルームの中のプライバシーが、誰かに覗き見られそうなほどの至近距離でした。
しかし、体の奥底から湧き上がる熱い衝動は、羞恥心などではなく、見知らぬ人々に見られながら、禁断の行為に身を委ねるという背徳的な高揚感にほかなりませんでした。
かつて夫と愛の日々を過ごしたそのベッドルームの大きな窓際で、沙也加は背の高い剛二の首に手を回し、熱く悩ましい吐息を漏らしながら、再び深く唇を重ねました。
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