静かな廊下にヒタヒタと素足の足音が響いていた。
荒くて熱い吐息がコンクリートの壁に反響くなか、歩くたびに擦れた太ももがニチャッ、ニチャッ、ニチャッ、、、と音をたてている。
目の前には昼間に見た光景が そのままに広がっていた。
太陽に照らされた明るい廊下と その廊下に溢れかえる生徒で満ちていた。
ただ全ての生徒はみな由美子を軽蔑し、好奇の視線を向けている。
嘲笑い、罵り、欲望のままに命令を投げかけてくる、
そんな妄想のなか、昨日よりも倍以上の時間をかけて廊下を歩き、階段を上っていった。
そしてようやく2階の男子トイレの前に立つと、由美子は興奮に蕩けきったメスの顔で男子トイレのマークを見つめた。
自分が今から何をしようとしているのかを考えていると 羽織っていた白衣が廊下に落ちた。
とうとう廊下の真ん中で全裸になってしまったが、その時の由美子は自分がそうあるべきなように思えてそのままにした。
そうして男子トイレのマークが書かれた扉の中に入っていく。
そこで見たのは妄想なんかじゃ絶対に再現できない、女性が見る事などありえない まさに男子トイレだった。
濃い青色のモザイクタイルの床、等間隔で壁に並ぶ白い陶器の小便器、女子トイレとは比べ物にならない用具用の個室と合わせても4つしかない扉・・・全てが月明かりに照らされていた。
そして床のモザイクタイルの感触を右足の裏に感じた瞬間、パッと周囲が明るくなった。
それが省エネのためのセンサーが作動したのだと気づくまでの恐怖は凄まじかった。
15秒ほど動けなかった。
けれど由美子は引き返さなかった。
まだ痛いほど激しく鼓動する心臓の音を感じながらも左足をトイレの中に進めた。
由美子が数歩進んだ頃、その背後で扉がパタンと閉まった。
ふと見ると、シンクが並ぶ壁の大きな鏡に 欲情しきった顔の女が映っていた。
その表情は、由美子自身がいやらしいと感じるほど蕩けている。
蛍光灯の光に照らされながら男子トイレの真ん中に立つ変態女だ。
由美子は そんな変態女に軽蔑の視線をやった後、そのまま奥に進んでいった。
さっきまでの妄想の中では、由美子は便器に並ぶ自分を想像していた。
便器と便器の間に跪く自分だ。
けれど現実に公衆便所に入った由美子は、便器の正面に立つ。
一番奥の便器にだけ備え付けられた、おそらく怪我をした生徒のためだろう銀色の太い手摺り。
それがまるで自分を女から便器に変えるための、由美子を拘束するための器具のように感じていた。
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