大丈夫よ、誰にもバレたりしないわ・・・
ダメよ・・・だって、今日は水曜日じゃないもの・・・
男子トイレに消えた生徒を見てからの数時間、由美子はずっと自分を抑えようと努力した。
その葛藤には もちろん理由がある。
バレてしまえば全てが終わる危険な行為・・・それを自覚するからこそ、その行為は必ず水曜日に行っていた。
それは3年ほど前に教員を含む学内の全ての職員に通知されたルールで、毎週の水曜日を『ノー残業デー』とし、特に『泊まり込み』などは厳禁というものだった。
もちろん激務の教師達だ。さすがに残業をゼロにはできない。
しかし学園祭などの行事の準備期間を除いて、このルールは時間が経つにつれ自然と全員に浸透していった。
それこそ昨日のように、空気が読めず 気力と体力だけは満ち溢れている若い体育教師以外は全員が守るほどに 水曜日は用務員まで含めた学校内の全員が構内から出ていくと確信できる日だった。
もちろん絶対に安全だと言う保証はない、もしかしたら教員の誰かが忘れ物を取りに来るかもしれない、そのルールを悪用する生徒が無邪気な冒険心で隠れているかもしれない。
けれど小学校の頃に『プールで着替えを忘れてきてしまった』という言い訳を用意したのと同じくらい、些細ではあるが由美子にとって大切な危険を回避していると思えるルールだった。
ダメよ・・・危ない・・・もし誰かが居たら・・・・・もしも見つかってしまったら・・・・)
何度も何度も心の中で否定した。
けれどその日の午後に保健室の利用者は一人も来ず、保健室に閉じ込められた由美子の頭から妄想が消える瞬間は1秒すら与えられなかった。
そしてそんな時間が1時間、2時間、3時間と静かに進んでいくうち、妄想は下品になり心の中で自分に命令する自分の声はエスカレートしていった。
そして、男子生徒がトイレに消えた時から7時間・・・
由美子は まだ保健室の中にいた。
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