『気にしない振り』
これが、どれだけ大変かを思い知らされていました。裸の男女が、同じ浴槽の中にいるのです。
僕と義姉は、この後ベッドで愛し合うのでしょう。ただ、それは突然決まったこと。
そして、6年も前に義姉弟となったのに、ロクに話もせず、その関係を築いては来なかったのに、それでも二人はセックスをします。
大変なのは裸の男女がいるからではなく、その二人に恋愛はなく、お互いを知らないのに、何もかも急ぎすぎているからです。
『熱いねぇ~。フゥ~、汗が出る~。』
『フゥ~、熱い、熱い。』
同じ単語を繰り返し、気を使い合うことばかりが行われるのです。
そんな僕は先に風呂場を出ます。僕が居ては、彼女は身体を洗うために浴槽から出そうもないからです。
バスローブを着込み、馴れ馴れしくベッドにも横になれない僕。テレビをつけ、彼女が読み掛けた備え付け雑誌をめくります。
てっきり、ファッションとか旅の雑誌かと思っていました。でも違います、デリヘルの専門誌です。
ひろみさんは頑張って、『こんな雑誌も読むのよ。』というところを僕に見せようとしていたんです。
そんな僕はバスローブのまま、ベッドに大の字になりました。僕なりに頑張って、彼女に余裕のようなものを見せたかったのです。
熱いお湯に身体が火照っていました。それは睡魔を呼び、僕の目が閉じていきます。
『ギィ~~。』という鈍い音がし、見るとそこには全裸の女性が現れます。
身体を手で隠しながら、カゴから自分のバスローブを取ろうとしています。その姿を僕はぼんやりと眺めていました。
『ヨシ兄さん~?もう寝てるのぉ~??』
彼女は自らの身体にはローブを羽織りながら、笑って僕に声を掛けて来ます。
僕の目がパチッとした頃、もうひろみさんの身体はローブに包まれていました。
『何か飲む?のど乾いたでしょ?』
そう言って取り出したのは、有名なペットボトルの紅茶。彼女は寝ている僕の隣に古紙を降ろし、それを手渡してくれます。
そんな僕はペットボトルを手に持ったまま、初めて彼女の腰に手を回したのです。
両手は巻き付き、何も言わずにひろみさんの腰に顔をうずめました。
初めて肌で感じる彼女の身体。ふくよかさは、案外それほどでもありません。程よいです。
そして、初めて嗅いだ彼女の匂い。無臭に近いのかも知れませんが、微かに何かが香って来ます。
そんな僕の髪を、彼女の手が撫でました。子供のように、その頭を撫でてくれています。
そんな彼女がこんなことを言います。
『ヨシ兄さん~。もっと、ヨシ兄さんと仲良くしてたらよかったねぇ?』
それはきっと、ひろみさんの本音だったのでしょう。それほど2人は義姉弟として、無駄な6年を過ごしてしまったのです。
※元投稿はこちら >>