週が明けて月曜日。
『朋さん、お昼は?』
『何か適当に食べてね』
「ああ、適当に食べる」
「そだ、ラーメン屋さんか何処っか行くかぁ、W◎RKMANも行きたいし…」
『昨日寄れば良かったね、私も見たいのがあったのに、そぅだ ちょっと待ってて』
そう言った妻が[綿手]を袋ごと持ってきた
『これ、同じの買って来てくんない?』
「1つで良いの?、ゴム手の中にするんでしょ?、もっと薄いのとか…」
『だから行きたかったの、忘れてた私も悪いけどさ…』
「何か探してくるよ綿手と一緒に」
『お願い…。ヤバっ時間ッ』
『朋さん、何時?出るの』
「7時…かな?」
『ゴメン、帰れないかも…』
「…いいよ」
『そだ、カレー食べたい』
「分かった」
『ありがとう、じぁ行ってきまぁす』
妻を送りだすと換気扇の下に座った。
タバコをふかしながら構想をねった。
[構想]と言う程大袈裟なモノでもないが、昨日 寺田さんから木材を分けて貰っていた。
それを利用して、今日は裏の小川に簡単な橋をかけるつもりでいる。
北村さんの奥さんが『揺れる』と言っていた向こうの角材よりは少しはマシな橋を。
納戸から「日曜大工セット」を引っ張りだして外にでた。
小川を覗くとザリガニが歩いている。
[へぇぇ、こんな所にも…]と思いながらメジャーを伸ばした。
水が流れる幅はたいした事はないが、土手が思っていたよりも有った。
渡り廊下の後ろの倍は有るだろうか?。
橋を渡す場所、そこはウチと北村さんちの境、そう決めていた。
「ここが一番狭いから…」そうは言ったものの、そうそう他人の家の軒先を通る人とも思えない、ならば[境界に]と。
[T]の字を2つ繋いだ様な、長ぁい[下駄]の様な物にしよう、[足]は少し尖らせて土手に刺せる様に…。
木材をノコギリで切り、インパクトでビス止めしていると『おはようございますぅ』と声がした、顔を上げると北村さんの奥さんだった。
『橋?、ですか?』
「ええ、まぁ…」
「ここに掛けようと思ってるんですが大丈夫ですか?」と、境界に仮に渡して見せた。
『あのぉ…』
『これ、私も渡らせてもらって良いのかしら?』
「ええ、最初からそのつもりで…」
「いいですか?ここで?」
『嬉しい!』
『ありがとうございますぅ、お優しいんですね?野平さん』
『こんな おばあちゃんにまで優しくして頂いて…、羨ましいわ奥様』
「そう…、ですか?」
「何て言っていいやら…」
『でも、本当 優しいから…』
「でも、アレですよ、おばあちゃんは取り消して下さい、全然そんなふうに見えないですから」
「あらっ、優しいうえに お上手、フフっ」
口元に手を添えた奥さんがニコッと微笑んでいた。
橋の足が広がならない様に 踏み板と足の角に副え木をビス止めして小川に渡して 踏み板に乗って足を土手に押し込んだ、そのまま渡り反対側も。
「はい、完成です」
「渡ってみて下さい、北村さん」
俺に促されて奥さんが渡りはじめた。
『大丈夫です』
『安心です、この橋、ありがとうございます』
そう言って渡り切ろうとした時、橋の足が少し沈んで奥さんがバランスを崩した。
『キャッ』とよろめいて俺にしがみついた。
『やぁねぇ、おばあちゃんな上にデブなの』
「ほらまた おばあちゃんて!」
「デブも取り消して下さい、全然そんな事ないですから!」
『それは取り消せないわ、だって最近太っちゃって…、何でも美味しいくって つい…』
俺には[デブ]の範疇には全然入らないが、確かに豊満な胸が左腕に押し付けられていた。
『そうだ野平さん、お願いしても良いかしら?』
「何でしょ?」
『あそこの木、切って頂けないかしら?』
「何処ですか?」
「気を付けて下さい、まだ安定してないんで」
そう言って先に橋を渡った、橋を踏んづけて[足]を押し込む様にしながら。
『この木、切って頂けないかしら?』
奥さんが指さしたのは 生け垣の1番端の木だった。
北村さんちと俺の家の境はアルミ製のフェンスだか、北村さんの家と小川の境は生け垣になっている、そのフェンスと生け垣が合わさる角の木を切ってくれと言っている。
『ここだと[橋]にすぐ出られるでしょ?』
『お願いします、切っちゃって下さい』
『ここが1番出入りに便利だもの…ね?』
俺はお願いされるままに木を切った。
「これ、このまま貰っても良いですか?」
『良いですけど どうなさるの?』
「俺、木とか花とか 全然ですけど、寺田さんにあげます、何とかするでしょ寺田さんなら」
「それと、あとで根っ子掘り返しても良いですか?、根っ子ごと寺田さんにあげます、何植えようかなぁ?って悩んでたんで」
「そうすれば あとからも生えて来ないでしょ?、ね?、良いですか?」
『…こちらこそぉ』
『綺麗にして頂いて、橋まで掛けて頂いて、その上ゴミまで持って行って頂いて、何てお礼を言えば良いのかしら…?』
「いえいえ…」
『そうだ野平さん?、夜勤なんですよね?今日から』
「…ですね」
『すぐ お休みになられるのかしら?』
「すぐに お休み にはならないですけど」
『お昼、お昼は どうされるんですか?』
「W◎RKMANに行きたいんで その帰りにラーメンでも…、って」
『あのぉ野平さん?…』
『…、その、ご一緒しても…、ダメかしら?』
『その…、私もたまにはラーメンとか食べたいし…。いつも、いつもね、主人のご飯作るばっかりで…』
『W◎RKMANも行ってみたし。その…、庭木いじるのに手袋とか…。ダメ?お願いできる?』
「全然!、全然構いませんよ」
「行ってみますか?一緒に」
『ワー嬉しいぃ!』
『すぐに支度しますねッ、ってやぁね私ったら野平さんの予定も聞かずに、ゴメンなさいね』
「大丈夫ですよ、着替えて すぐ出れますから。15分後で良いですか?、車の辺りに居ますから」
『ありがとう。でもゴメンなさい もう少し』
「…ですよね?、女性は何かとね…、いつも妻に叱られます」
「大丈夫です。車の辺りに居ますから 適当に出て来て下さい」と頭を下げた。
『こちらこそぉ』
『じぁ、あとで…』
と、奥さんが またニコッと微笑んでいた。
部屋に戻った。
着替えを済ませ、戸締まりにとカーテンを開けると 目の前には[洗濯物]が干してあった。
いつか見た[陰干しに]と言っていた その洗濯物が…、警戒されてはいなかった。
フェンスに凭れて奥さんを待った。
30分は経っただろうか?
『野平さん、お待たせしちゃって…』
と、奥さんがフェンスの向こうに姿を見せた。
そして、さっき切ったばかりの生け垣の隅を抜けフェンスのこちら側を歩いてくる。
『ね?、便利でしょ?、何かと…』
ニッコリしている奥さんの笑顔が妙に妖しく見えた。
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