「そうはさせるものか!」
突然声がして岸次郎が戸を蹴破って入ってきた。
「なんだお前は。さっきからこの女怪しいと思っていたが鬼滅隊だな。返り討ちにしてやる。」
青城は布団の下から隠していた日本刀を取り出した。
「根津子! 俺の後ろに隠れていろ!」
岸次郎が叫ぶと、素早い動きで根津子は岸次郎の背後に隠れた。ピタリと息の合った動きだったが、青城はニヤリと笑うと
「おもしろい、俺の剣がお前たちにかわせるか見てやろう。俺の剣は木沸字流血鬼の剣というのだよ。」
青城は片足を立て、反対の膝を床に付けて、岸次郎めがけてまっすぐに剣を向けた。刃の先はピタリと空中に止まり、
スキのない構えには恐ろしいほどの殺気が漂っていた。岸次郎は刀を左下に引くと一歩足を大きく踏み出し、刃を
右上に切り上げた。刃と刃がぶつかりあう音がした次の瞬間、岸次郎の目の前を風を切って青城の刃が通り過ぎた。
岸次郎の頬がわずかに青城の切っ先で切れて血が流れていた。強い、それも圧倒的に強い。岸次郎は青城の強さを直感した。
落ち着け、そして考えろ、考えるんだ、岸次郎は自分に言い聞かせた。ここは、お茶屋の二階、天井が低く手が簡単に届くほどだ。
「根津子、暗闇だ、暗闇に目を慣らせろ!」
根津子は兄の意図を瞬時に理解し両目を閉じ手で目を覆った。
「根津子、行くぞ!」
瞬間岸次郎は行灯を刀で切りあたりは真っ暗闇になった。
「兄ちゃん左っ!」
刀がぶつかり合い暗闇に火花が散った。
「兄ちゃん上っ!」
青城の振りかざして上から切りつけようとした刀が天井の板を切り裂く音がした。ううっ、という青城の唸る声がして青城のからだが
崩れ落ちた。青木の刀が天井に刺さり、下から斜めに切り上げた岸次郎の刀が青城の腹を切り裂いたのだ。大量の出血でもはや青城は
動けなかった。遠のく意識の中で青城はかすかに母親が自分を呼ぶ声を聞いた。そうだ、自分にも母親がいた。まだ物心つかぬころ、
誰かにさらわれて見知らぬ世界に連れてこられたのだ。だから自分は親を知らずに育ったと思っていた。今、腹を真っ二つに切られ、
血を流し、鼓動が止まりかけている時に、母の顔が現れた。こんなに若くこんなにきれいな人だったんだ。母さんにやっと会えた。
涙が頬を伝わったとき、青城の鼓動は静かに止まった。
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