加代子さんは、とてもおとなしかった。男二人で話して来た時ことは気になるのでしょうが、それは間違いなく自分の話。
寂しさから兄を呼び、遠回しにでも僕まで巻き込んでしまっていることを気にしているらしい。子供のような行動をした自分を悔いているのです。
『加代子ぉ~?』と呼んだ僕は、ソファーに座り、彼女を待ちます。何も言わずに近づいてくる彼女ですが、顔には表情がありません。
それでも手を取り、彼女の身体を引き寄せます。頭をを胸に抱き寄せると、彼女の手が僕の身体に回されました。
そして、その顔を何度も押し付けて来るのです。ふと止まると、その顔はぼんやりと横を見ています。彼女にはそれが気持ちいいのです。
そんな彼女に、『ねぇ~?もう、僕は加代子としか呼ばないから。だから、加代子もナオちゃんとかで呼ばないでよ~?』と言ってみました。
彼女は小さな声で、『わかったぁ~…、』と素直に答えましたが、どこかそれには気持ちが入ってはおらず、口先だけのような感じがします。
頭を左右に振り、僕の胸に擦るのが今はそれはとても気持ちがいいようです。眼が閉じると、『好き…、好き…、』と呟いてもいます。
やはり、どこか普通ではありません。それでも、お兄さんから今日の彼女のことを聞いていた僕は、今はただその身体を抱き締めることしか出来ませんでした。
ゆっくりとした時間が過ぎていきます。抱いたまま、1時間が経ち、彼女の頭が置かれてある胸のあたりには、体温でうっすらと汗を掻いているようです。
加代子さんを見ると目を閉じていて、眠っているのかも知れません。その髪に僕は手を延ばします。
何本も刺さったヘアピンが抜かれていくと、さすがに彼女も目を開きました。
普段からこの団子ヘアーを崩すことはほとんどなく、僕でさえほどかれた髪をあまり見たことはないのです。
彼女は顔を下に向け、僕の胸に隠します。そして、あるピンが外れると、真っ黒な髪がバサッと下へと垂れ下がりました。
その量は思っていたよりも多く、そしてとても長いもの。肩など遥かに隠れてしまうくらいの長さがあります。
髪を撫で、隠していた顔を上げさせると、『もぉ~…、』とようやくいつもの元気なあの声が戻りました。
しかし、降ろされた長い髪から覗くその目はどこか不気味で、とてもいつもの加代子さんとは思えません。別の女性です。
『さぁ~、一緒にお風呂入ろぉ~?』と連れ出した僕。起き上がった彼女の髪はボサボサで、正直不気味ささえ感じます。
しかし、人は面白いものです。こんなホラー映画に出てきそうな彼女でも、抱けばちゃんと燃えさせてくれるのですから。
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