『主人、今晩帰って来るのよ。』、香緒里さんからそう聞かされたのは、日曜の朝のことでした。
全然知らなかったのですが、おじさんはここ一週間ほど出張で家には居なかったそうです。それを聞いて、『なんか惜しい。』と思う僕。
手を握り締め合ったことで、香緒里さんが少し自分のものにでもなったかのような錯覚をしてしまいます。
そんな僕は不意に、『西風さん、お出掛けの予定は~?』と聞いていました。その言い方は、完全に誘っていることを、彼女に伝えています。
彼女は笑いました。あまりにも見え見えだったようです。しかし、『ごはん、奢ろうか~?』、香緒里さんの答えでした。
彼女が感じたのは、きっと友情。久し振りに出来た、年下の男友達。その子とは決して変な関係になどならないと、彼女なりの自信があったのです。
だから、敢えて僕の誘いにも乗ってくれたのでした。それでも、車は別々でしたが。
日曜日の昼下がり。ファミレスの駐車場には、僕と香緒里さんの車が並んで停まります。奢られる僕は、遠慮なくステーキセットを注文しました。
日曜日のため、ステーキはなかなか運ばれず、いつしかお互いにスマホを取り出して時間を潰し始めます。そこで、LINEの交換が行われたのです。
ステーキが運ばれ、ようやく香緒里さんとのデート気分が始まりました。ファミレスの安いステーキでも、『美味しい、美味しい、』と言って頬張ります。
食べながら、『このあと、どうします~?』と聞いてみました。これも、見え見えなのが分かるほどにです。
『お買い物でも行こうかなぁ~?』と笑いながら答えた彼女でしたが、二軒目はありませんでした。香緒里さんなりに、これ以上はよくないと考えたのです。
その夜遅く、初めて彼女にLINEを送ります。帰った来たおじさんの世話を終えた香緒里が、自分の寝室へと戻る頃かと、勝手に考えての時間帯でした。
それでもおじさんが家にいるため、誤解をされるような文章は打てません。考えて送ったのは、『お腹がすきました。』でした。
ギャグにもなり、もしもおじさんが見ても笑ってくれると思ったからです。
送ってから、香緒里さんの返信を待ちました。『早く見ろ!』と既読になることさえ期待をしてしまうのです。
その夜、僕のLINEが香緒里さんに読まれることはありませんでした。長くスマホとにらめっこをしていた僕も、いつしか眠ってしまっていました。
そして、香緒里さんから返信が来るはずはありません。LINEが読まれるはずもありません。
彼女は一週間ぶりに帰ってきた旦那さんに、その身体を求められていたのですから。
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