亜希の旦那であるくそ野郎たかのりを追い返したその日は朝の5時まで亜希と2人の勤務だったのだが、亜希は気落ちしている様子で黙々と業務をこなし、俺も話しかけられずに勤務時間の終了を迎えた。
引継ぎを終え帰宅しようと店を出た時、入り口から少し離れた場所に蹲る亜希を見つけ声を掛ける。
「亜希、どうしたの?大丈夫?」「・・・きょーちゃん」俺を見上げる亜希の瞳は潤んでいた。
(なんて言っていいのか・・)「亜希、寒いね。車で送るよ。でもその前に帰りながら一緒にコーヒーでも飲みに行かない?」「・・・うん」俺たちは近くのファミレスに行くことにした。
明け方のファミレスに入るとやはり店内がすいていたため俺は一番奥のテーブルに腰かけた。
「大丈夫?」「・・・うん。」「夜中も何も食べてなかったろ、何か元気になるようなもの食べなよ。ファミレスだけど何でも奢るぞ。ステーキとかどうだ?」「・・・ふふ、きょーちゃん。ありがと、でもこんな時間にステーキとか食べられないから」亜希はようやく可愛い笑顔を見せてくれた。「そっか。じゃあ好きな物をどうぞ。」「ありがと、あー外食なんて久しぶりだー」亜希はモーニングセットを俺はステーキセットを頼んだ。
「きょーちゃん本当にステーキ頼んじゃったね。ふふ」「俺はいつなんどきどんな食べ物でも大丈夫!」「うふふ・・なにそれ」俺たちは楽しく話しながら朝食を食べた。
朝食を食べ終え、コーヒーを飲みながら会話が少し止まると亜希は腕時計を覗き込んだあとまた暗い表情になった。
「亜希、たかのりのことか?」「・・・」「前に聞いたことあるけど、暴力とか受けてないよな?」「・・・大丈夫・・だよ・・」亜希の手が少し震えているようだった。
「本当は大丈夫じゃないだろう。前に言えないって言ってたことと関係あるんじゃないのか?」「えっ・・・う、ううんほんと、ほんと大丈夫」
「ふぅ・・・亜希、俺はたかのりのことはよく知ってる。奥さんである亜希には言いにくいんだけど、あいつは本当にクズだ。何かあるのなら力になるから、教えてくれ」「うぅぅ・・でもきょーちゃんに迷惑はかけられない」
亜希は泣きそうな顔でそう言った。
「何も迷惑じゃないよ。俺は亜希のそんな辛そうな顔を見るのが辛いんだ。」「きょーちゃん・・・・何でそんなに優しいの・・・私、、、」「いいから、教えてくれ」「・・・あ、あのね。変な話だから信じてもらえないかもしれないんだけど・・・」「大丈夫!信じるから、それにあいつなら何をしたって驚かないよ。」亜希は泣き出しそうな顔で話し始めた。
「あの、前にも言ったけど、たかの・・夫がすぐ仕事辞めたり働かないから生活が大変で・・・」「うん。」「車のローンとかもあるから、私のアルバイト代だけでは生活ができなくてね。」「そうだよね・・・」亜希の給料なんて手取り10万ちょっとだ。
「それで、もう耐えられなくなってしまって離婚しようと思って夫の両親に伝えたの」「うん。」「そしたら、できるだけ援助するから別れないでくれって言われて」「そっか。それで亜希は納得したの?」「夫の両親は凄くいい人だから・・・」「そっか。それで生活は出来るようになったんだ」「ううん・・・夫の両親から月に15万円貰えることになったんだけど、それを旦那にばれてしまってその中から10万円毎月取られるようになって・・結局」
あのクソ野郎の考えそうなことだ。
「そうなると、また生活が苦しくなってしまうよね?」「うん・・・それだけじゃなくて今度は・・その」「今度は?全部教えて」亜希は俯きながら続けた。
「お金が足りないって言ったら、俺の両親からどれだけ毟り取れば気が済むんだって言われて・・お前がちゃんと節約とかしないから足りないんだって・・」「うぁーマジか・・あの野郎」「それで、俺が採点するからって言いだして、採点が・・うぅ・・マイナス・・100点になったら」亜希はとうとう泣き出した。
「大丈夫。亜希は俺が守るから!」「うぅぅ・・うう・・」「辛いけど教えてくれ」「・・・ひ、100点になったら・・AVに出て・・俺と俺のの両親に・・うぅぅ・・お金を返せって言われて・・」「・・・マジで?」「・・・」
クソ野郎の思考は想像を超えてくるから恐ろしい。
「ハァ・・・どうしようもねぇなあの野郎」「・・この前りょーちゃんと深夜勤した日にね・・浮気だろって言いだして・・もうマイナス90点だからって・・」「うーん。亜希、君は何も悪くないんだから心配するな」「りょーちゃん・・・」「それで今日座り込んじゃってたんだな」「・・・今日帰ったら・・・もう」「言っただろ。もう心配するな。今日は帰らないでもいい。取り合えず今すぐスマホのあいつの番号を着信拒否にして」俺は亜希にスマホを操作させたかのりの番号を着信拒否にさせた。
「・・・大丈夫かな・・・」「亜希、あれこれ考えるな。大丈夫だ。取り合えず寝てから、あのアホの両親に話をつけにいく」「え、りょうしんに?」「任せとけ!行くぞ」そう言って俺は立ち上がりレジに向かった。
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