もうガマン出来なかった。
部屋に飛び込み、男をアイナから引き剥がす。
「えっ!」
「あなた、、、どうして?イヤァ!、、、」
勢い余って男が床に転がる。
慌ててアイナが衣服を身につけようとしていた。
見たことも無い黒い上下の下着。
不倫相手を歓ばせ、興奮させるために身につけていたのだろう。
夫が出張中にこの日のために買い揃えたものかも知れない。
夫の知らないセクシーな下着をつけて、浮気相手を夫婦の寝室へ誘った妻。
虚しさがこみ上げる。
怯えた表情を浮かべ、男も素早く衣服を身につける。
「違うんです、、、僕、奥さんに誘惑されたんです、、、、僕、断ったのに、、、奥さんが裸になって、、、」
「そんなのウソ、、、ひどい、、、」
サトルを男を睨んだ。
「出て行け!」
男がそそくさと出て行く。
居たたまれない雰囲気が二人を包んでいた。
他の男と口づけをし、性器をシャブった唇。
貪り尽くされ、中出しまで受け入れた躰。
アイナを見ることが出来ない。
いや見たくない。
「違うのあなた、、、わたし無理矢理、、、」
「お前は無理矢理やられた男の子供が欲しいのか?そんな男を俺より愛しているのか?」
「あっ、、、違う、、、それは違うの、、、」
自分の口走った言葉が重くのしかかる。
サトルにはわかっていた。
おそらく最初は無理矢理だったのだろう。
でもそれからは、、、
若い男のセックスにのめり込み、愛情を感じるようになっていった。
どうして、初めてのときに打ち明けてくれなかったのだろう?
でももう遅い。遅すぎた。
「許して、、、許して下さい、、、こんなこと、もう絶対にしません、、、これからはあなただけを愛します、、、」
愛という言葉が薄っぺく感じてしまう。
アイナは今、あの男を愛していることを認めたのだ。
あの純粋だったアイナが二人の男に簡単に愛を告げている。
俺の愛したアイナはもういない。
「別れよう、、、アイナ、終わりにしよう、、、」
「終わり、なの、、、わたし達、、、、許してくれないの?わたしのこと、、、もう、、好きじゃないの?」
「好きだよ、、、」
力無く応える。
「だったら、、、お願い、、、」
「でもこのままでいたら、きっと俺はアイナを憎むようになる、、、」
「あっ、、、」
「俺はさっきのアイナを一生忘れることが出来ない、、、思い出す度にアイナを憎むようになる、、、そして再会なんてしなければよかったと思うようになる、、、」
アイナの瞳から涙がこぼれ出す。
「だから、まだアイナが好きなうちに別れたい、、、わかって欲しい、、、」
俺はアイナを許すにはアイナを愛しすぎていた。
だから許すことは出来ない。
「わたし、取り返しの付かないことをしたんだね、、、」
あの時の別れのようにアイナの顔がゆがんだ。
子供のようにアイナが泣きじゃくる。
胸が締め付けられるように苦しくなる。
泣きじゃくるアイナを見るだけで、自分のことのように苦しくなる。
グシャグシャに濡れた瞳でアイナがサトルを見つめていた。
アイナが俺の頭を撫でてきた。
「お兄ちゃん、泣かないで、、、」
俺も涙を流していた。
子供のように。
「お兄ちゃんは撫でてくれないの?」
「ああ、、アイナはもう、、、俺のものじゃ無いからな、、、」
新たにアイナの瞳から涙が溢れ出す。
それでもアイナは俺の頭を撫で続けていた。
「寂しくなったら、お兄ちゃんに逢いに来ていい?」
サトルは応えることなく部屋を出た。
そのまま家を出る。
後ろで、行かないでお兄ちゃんと言う声が聞こえてくる。
振り向かずに駆け出した。
そうだ、最後に一人であの公園に行ってみよう。
そう心に決めた。
終わり
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