きっかけは本当に偶然だった。
でなければ、学生時代から鈍感だと言われ続けてきた俺は、今でも気づかないままだっただろう。
それは、電話の掛け間違いだった。
出張先で取引先に電話をかけるつもりが、間違って自宅の電話番号に指が触れてしまった。
画面にはハッキリと『自宅』と表示されていたのだが、俺がそれに気づいたのは20秒ほど経った後だった。
しかも、その事に違和感を覚えたのが出張から帰ってからだというのだから、我ながら本当に鈍感だと思う。
出張から帰ってきた日の夜、妻が風呂に入っている間に ふとリビングの電話が目に入った。
そう言えば出張先で電話を掛け間違ったな・・・最初は ただそう思っただけだった。
操作してみると、やはり俺からの着信があり、不在着信だとハッキリと表示されていた。
それが1つ目の違和感だった。
着信があり、妻もそれを確認している。
その時は出かけていたのかもしれないが、どうして夕方か夜にでも掛け返してこなかったのだろうか。
たまたまだろうか。
考えすぎなのかもしれない。
けれど、真面目な妻の性格からは、あまり想像のできない出来事だった。
だから、俺は次の月の出張でも、同じくらいの時間に電話した。
また妻は電話に出ず、折り返しもなかった。
そこでようやく、俺は心の中にザワザワと不吉な予感が湧き上がっていくのを感じた。
チャンスは半年後に訪れた。
自分が担当する仕事の都合で、出張するメンバーから外れる事になったのだ。
俺は妻にその事実を告げず、その月も同じように出張の準備をした。
そして、とうとう全てを知ることになる。
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