(枕営業2日目後半)
朝食を食べ終えて、妻は洗濯物を干しに二階へ上がった。
私はコインランドリーにソファーカバーとカーペットを取りにいき、持ち帰ると二人でソファーカバーをかけた。
カーペットを敷き終えた時には時刻は10時近くになっていた。
妻と二人でソファーに座る。
妻「あー。ようやく綺麗になった気がする。」
私「そう……だなぁ。」
妻はパタリと私の膝の上に倒れこんだ。
妻「ちょっと疲れた。」
そう言うと、妻はすぐに眠り始めた。
私も妻の頭を撫でながらそのまま眠りだしてしまった。
次に気が付いた時には午後2時近くになっていた。
妻はガバッと起きて時間を見ると慌てたように
妻「ヤバッ、子供達迎えにいかなきゃ!」
と言って慌てた様子で出掛ける準備を始めた。
私は妻に
私「夕飯、焼き肉行かない?」
と声をかけると
妻「うーん。後で!」
と言って出掛けていった。
私はスパイカメラからSDカードを取り出して動画をノートパソコンに落とした。
私は、高橋さんに電話をしてデータの引き渡しは月曜日に遅れる旨を電話した。
高橋さんも、急がなくていい、と言ってくれたので、私はカメラが録画した映像を再生することにした。
(↓妻視点)
夫「私も、妻に任せて、少し外させていただきます。」
社長「そうか?悪いね。」
そう言うと、夫はリビングを出ていった。
夫と高橋さんが玄関から外に出ていく。
部屋には、私と梢さん、それに吉田社長の三人になった。
吉田「さて!奥様方、まずは飲もうか。」
そう吉田社長が口を開いた。
私は冷蔵庫から缶ビールと缶チューハイ、コップを出してテーブルに並べた。
梢さんもキッチンに来て、買ってきてくれた出来合いのつまみをお皿に広げて、テーブルの中央に置く。
吉田「さて!準備も整ったかな。私はまずビールを頂こう。」
梢さんは缶ビールを開けて、吉田社長のコップに注ぐ。
梢「社長、缶ビールでごめんなさい。」
吉田「いいんだよ。コップに注げば同じビールだ。」
私はどちらを飲むか迷っていると、梢さんは缶チューハイを開けてから、笑顔で私にコップを出すようジェスチャーを送ってきた。
私は梢さんから缶チューハイを注いでもらい、私も梢さんのコップです缶チューハイを注いだ。
吉田「やはり、女性はビールより、そういう甘いお酒が好きなんだな。この前はビール飲ませてすまなかったね。」
私「大丈夫です。私お酒が嫌いではないですから。」
吉田「そうかね。でも、今日は無理に苦手なお酒は飲まないでいいからね。」
私「ありがとうございます。」
こうして話している分には、普通の人の良さそうな初老前のおじさんだ。
それに体格もガッシリはしているが、太っているわけでもなく、見た目も清潔そうだ。
少なくとも、第一印象は悪くなかった。
同年代の男性みたいに加齢臭漂う感じもしないので、もし、この年代の人と付き合うことになるのなら、こういう人を選んでいるだろう。
全てのグラスにお酒が注がれると、吉田社長が口を開く。
吉田「じゃあ、一応。乾杯。」
私・梢「お疲れ様です。」
私達三人はグラスを合わせて乾杯をした。
吉田社長はビールを一気に飲み干したので、私は次の一杯を注いだ。
吉田「いや、ありがとう。やっぱり1週間の疲れが癒えるよ。しかし、Y君のところは、お子さんは何人いるのかね?」
私「三人です。」
吉田「ほぅ。最近の夫婦にしては多い方だね。」
私「私も主人も、女の子が欲しかったんですけど。結局男の子3人でした。」
吉田「まだまだチャンスはあるだろう。」
私「いえ、男の子三人育てるだけで精一杯ですよ(笑)」
早速セクハラな質問だ。
但し、私は社長には自分の体はもう子供を産めない体だとは伝えない。
この男に無駄な情報は与えない方がいい。
吉田「梢君のところは、女の子1人だったね。確か名前が…」
梢「まりんです。」
吉田「あー!そうだった、そうだった!君に似てかわいらしい顔をしていて良かったねー。」
梢「そう……ですね。」
旦那さんを馬鹿にするような言葉に梢さんの声が少しだけつまった。
吉田「もう一人欲しくないのかね?」
梢「私も、もう年も年ですから。」
吉田「え?そうだったか?」
梢「社長(笑)私来年で40ですよ?」
吉田「40ならまだいけるじゃないか。」
梢「ダメです(笑)うちは、まりん1人で十分ですから。」
社長のグラスが空いたので、私は三杯目のビールを注ぎ、小皿につまみを取って社長の前に置いた。
吉田「ありがとう、君達もどんどん飲んで。」
そう言うと社長はチューハイの缶を手に持ち、私に差し出してきたので、私はグラスのチューハイを飲み干して、二杯目をついでもらった。
社長は梢さんにもチューハイを注いだ。
吉田「そういえばY君はいくつなんだい?あ、女性に自分から聞くのは失礼か。」
私「いえ、平気ですよ。来年1月で35です。」
吉田「ほー。その年で三人も育てているんだから大したもんだ。」
社長はグラスのビールを飲み干す。
私は社長のグラスにビールを注ぎながら
私「そんなことありません。毎日が闘いですよ。」
梢「いや、でも本当すごいと思うよー。私なんて一人でも大変なのに。」
私「慣れだと思う。やっぱり私も一人目が一番苦労したもん。」
吉田「そうだろうね。仕事もそうだが、何でも最初が大変なんだ。その最初を乗り越えると、後はスムーズに行くことが沢山あるからね。」
そういって、また社長はビールを飲み干した。
梢さんがすぐに新しい缶ビールをあけて社長に注ぐ。
吉田「いや、私ばかり飲んでては悪いよ。そうだ、ここは一つゲームをしようじゃないか。どんぶりはあるかね?」
吉田社長に言われて私はラーメン用の大きめのどんぶりを出した。
吉田「随分大きいどんぶりを出したね(笑)」
梢「まさか、あれは嫌ですよ?(笑)」
そう言うと社長は鞄から黒色と赤色の12面サイコロ二つを出した。
梢「やっぱり(笑)それ私弱いから嫌ですよー。」
吉田「三人なら分からないじゃないか。」
梢「えー……でも、私負けますからー。」
私が不思議そうな顔をしていると吉田社長が私の方を向きながら話しかけてきた。
吉田「なーに。簡単なゲームだよ。黒のサイコロの出た目から、赤のサイコロの出た目を引くんだ。黒字から赤字を引くんだ。」
梢「負けた人は?」
吉田「本当ならば缶を一気飲み、と言いたいところだが、それじゃ梢君がすぐに酔い潰れるから、今日はコップかグラス一杯だけだ。飲む酒は一番負けた人の目が黒字ならこの高級ワイン、赤字なら私はビール、君達はチューハイだ。」
こうして、私と梢さんは吉田社長の黒字赤字ゲームに挑戦させられることになった。
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