とても静かな住宅地。そして、そのど真ん中にある畑。薄暗い照明に照らされていますが、周りの民家からは死角になる隅に二人はいました。
そこで、22歳の若者が57歳のおばさんを抱き締めているのです。時間は19時になろうとしていました。
『ちょっとちょっと、ゴメンゴメンっ!』、なぜか抱き締められた方の彼女が謝りました。そして、『離そ、離そ、』と慌てています。
ようやく、憧れの満智子さんを抱き締めたのはいいが、どこか離れそうとする彼女に、『思っているようにいかない。』と僕も同じく慌てるのです。
『あれ?こんなんじゃない。』、思っていたイメージとは違います。僕の知っている『オナペット・満智子』はもっともっと協力的なのです。
『僕のこと、嫌いですか?』
『そんなんじゃないのっ~。お願い、離してっ。』
『僕、あなたのこと好きですっ!』
『分かったから、ちょっと離してっ。』
『…。』
『おばちゃん、逃げんから~。離して。誰かに見られるでしょっ!』
気がつきませんでした。死角とはいえ、ここは住宅地。誰が見ているのか、わかったもんじゃありません。
彼女にそう言われ、僕は満智子さんから手を離します。木の陰から、ブロック塀に追いやられていた彼女が身体を起こす姿に、少し驚きました。
足で何度も木の枝を踏み、ブロック塀に腕をあてて斜めになった身体を起こし始めた彼女。それが、とてもツラい体勢だったのが分かるのです。
そして、『あぁ~、ビックリしたぁ~!お兄さん、積極的なんやねぇ~?』と、見直したように声を掛けてくれるのでした。
お店に戻り、僕はてっきり『帰って。』と言われると思っていました。しかし、何も言わずに彼女はリビングへ上がります。
『おばちゃん、逃げんから~。』、あの言葉は本当だったようです。僕も、彼女を追うようにリビングへと戻るのでした。
薄暗かったところから、一気に明るいリビングに入りました。まだ慣れない目が、満智子さんの姿をとらえています。
ジャージの裾にはドロがつき、着ていたシャツはブロック塀に押し当てられた時についた汚れで黒くなっていました。
満智子さんもそれを気にしてか、『ちょっと、着替えてくるわぁ~。』と言って、しばらく奥へと消えて行くのです。
その間、僕の手は震えていました。満智子さんを抱き締めていた、あの手です。57歳のおばさんを相手に、やってしまったことへの後悔。
そして、後先も考えてなく、これからどうなってしまうのかという不安。それが頭の中で入り乱れ、もう普通ではいられないのです。
しばらくして、着替えを終えた満智子さんが姿を現しました。ゆったりめの小豆色の花柄ウェアに、下はビッチリとした黒のスウェットを履き込んでいます。
下はともかく、上はあまりにもゆったりとしているため、豊満と思っている胸の強調はなくなってしまい、どこか残念にも思えます。
彼女は前回と同じように、僕にコーヒーを居れて差し出しました。そして、同じように対面にカップが置かれ、同じように彼女がそこへ座ります。
そこで、『おばちゃん、逃げんから~。』と言ったあの言葉が、真実であると分かるのです。
『お兄さん、どうしたいのぉ~?』
『えっ?』
『えっ?じゃなくて、お兄さんは私をどうしたいのぉ~?』
『…。』
『私、57にもなるおばさんよ~?』
『…。』
『3ヶ月前に、旦那も亡くしてるんよ~?』
『…。』
『そんなおばさん、あんたどうしたいの~?』
『…。』
『ハッキリ言いなさい~。どうしたいのぉ~?』
『…。』
『なに言っても怒らないから、ハッキリと言いなさいっ!』
『…。』
『じゃあ、さっきどうして私に迫って来たの~?痛かったんよぉ~?』
『すいません…。』
『そんなこと聞いてるんじゃないの~。おばちゃんに何がしたかったのよ~。』
『…。』
そこには、57年しっかりと生きてきた、キツい人生の先輩の姿がありました。そんな先輩に、中途半端に迫ってしまった自分に少し反省をしてしまいます。
『ただの弱いおばちゃん。』だと思っていただけに、こうも面と向かって真面目に話されると、返す言葉もありません。
そのくらい、僕の人生など、まだまだちっぽけなものなのです。
『早く終われ。この話、早く終われ。』、満智子さんになにも言えず、ただ黙りをしている僕は、そんなことばかりを考えてしまっています。
そして、追い討ちを掛けるように、満智子さんの口から、こんな言葉が吐かれたのです。
『お兄さん、ちゃんとチンポついてるんやろ~?!男なんだったら、ちゃんと口開けて言いなさいよっ!』
こんなおばさんに、勝てるはずがありません…。
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