【1】
9月の正午、ようやく真夏の暑さが過ぎ去ったとはいえ、まだまだ残暑は終わりそうにない。
この日は日曜日、僕はある場所に歩いて向かっていた。
自宅からはそう遠くない場所、徒歩なら5分とかからないだろう。
僕は、いつもの様に急ぎ足でその場所へ向かった。
そして、いつもの様に高まる鼓動を抑えて僕は目的地に着いた。
コンクリート塀に囲まれた敷地、手前には庭があり奥に1階建ての民家がある。
僕はその民家へ向かい、玄関を開けた。
「ごめんください。」
僕のその声に、1人の女が反応した。
「はーい。」
台所から聞こえたその声の主が、出てきた。
「あら、洋太じゃない。
いらっしゃい、晶なら部屋にいるわよ。」
黒いエプロンを掛けたその女は、僕にそう答えた。
「うっ、うん。じゃあ、お邪魔します。」
僕はその女に目を合わせず、家の中へ上がった。
僕の名前は野田洋太(のだようた)、18歳の高校3年生。
至って普通の高校生、特にこれといった特技や趣味があるわけではない。
何かに真剣に打ち込むという事もない。
だが、そんな僕にも秘密があった。
それは夢中になる物、いや、夢中になる人物がいる事だ。
それが誰なのかは、絶対に誰にも言えない。
特に、今から会う人物には絶対に言えない・・・。
廊下を歩き、僕はある部屋の前で立ち止まった。
そして、いつもと同じ様にドアを開けて部屋に入った。
「おっ、やってるな。」
「おぉ来たな、もう少しで倒せるぞ。」
テレビゲームの真っ最中で、ロールプレイングゲームのボスと戦っていた。
程なくして、エンドロールが流れた。
「いやぁ、強かったなぁ!」
喜びの表情を浮かべ、その人物は話し掛けてきた。
牧元晶(まきもとあきら)、僕と同じ高校に通う昔からの親友、いわゆる幼なじみだ。
晶とは、初めから何となく気が合った。
とはいえ、多少気が強くはっきりと言うタイプ、僕とは正反対の性格だ。
しかし、他にも友人はいるが晶とは特別仲が良かった。
晶はどんな事でも僕に話すし、僕も晶にはどんな事でも話した。
秘密など無い間柄なのだ。
たった1つの事だけを除いて・・・。
その後、再びゲームをして盛り上がった。
そんないつもの様な流れで、1時間程が経った。
すると、晶がおもむろに話しはじめた。
「でもさぁ、○○の母さんってやっぱり綺麗だよなぁ。」
「えっ?」
○○とは、同級生の事だ。
「昨日さぁ、スーパーで見掛けたんだよ。
いつ見てもスレンダーだし年齢の割に若いよなぁ。」
「そう?」
「そうだよ、お前あの人見て何とも思わねぇの!?」
「うーん、確かに綺麗だとは思うけど。」
「確か、昔にちょっとだけモデルやってたって言ってたもんなぁ。
うちの母さんとはえらい違いだよ。」
「えっ?」
「だってさ、あんな体型がぽっちゃりっていうんだろうな。
背は低いし、あれで○○の母さんと同年代なんだぜ?
全く、せめてもう少し痩せてほしいよ。」
「ちょっ、ちょっと・・・。」
確かに、○○の母親も綺麗だとは思う。
でも、僕には女としての魅力は感じなかった。
あんな女より、僕はやっぱり・・・。
すると、部屋のドアをノックする音が響いた。
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