大林さんからは『掃除出来たぁ~?』と聞かれ、母も『ちゃんとやったんなぁ~!?』とそれに続いた。
母はともかく、大林さんとはさっき完全に目が合っていたので、彼は惚けているということである。
そんな二人に、『ちゃんとやったわぁ~。』と普通に答えてしまう。大林さんと母が抱き合っていたのが分かっていても、波風を立てたくなかったのだろう。
それからの掃除は3人で行うことになる。二人は話しもせず、せっせと働いているが、それが余計に気になってしまう。
悪いことは何もしていないのに、『僕が居なければ…。』などと思ってしまうのだ。
それにしても、自分の母親が他人の、それも20歳は若いであろうその男性に抱き締められている姿。見ていないとは言え、息子としてもいい気はしない。
父が居なくなって4年、『母は父の奥さん』そう刷り込まれて来た僕には、この『大林』という男性は無用なのである。今でも、母の男は『父』なのだ。
深夜1時前。今日の仕事が終わります。大きなピニール袋2つ分のゴミが集められ、これを一階のゴミ置き場まで運んで終わりとなる。
『タカくん、一緒に持っていこうか?』と大林さんが言ってきました。『うん。』と返事をし、ゴミ袋を持って、職員用階段を降りていきます。
二人でゴミ置き場に袋を投げ入れた時、大林さんが『見られてしまったねぇ?さっき…。』と僕に聞いて来ました。
少し焦りましたが、『そうですねぇ?』とここは冷静に答えます。そして、『母と付き合ってるんですか?』と聞いてみます。
彼は、『タカくんは、どっちがいい?付き合ってた方がいい?ない方がいい?』とあの独特な笑顔で僕に聞いて来ます。
なにか自然でした。彼の笑顔に少し癒されたのかもしれません。僕は、『付き合っててもいいかなぁ~?』と答えてしまうのです。
大林さんは、『なら、まだ付き合ってないよ。』と正直に返事をくれました。なんだろ?少しホッとした自分もいたのです。
その日は、お昼の作業でした。それも平日のため、僕は初めての一人作業となります。朝、ホテルに顔を出すと、お掃除待ちの部屋数がとても少ない。
昨夜は、あまりお客が入らなかったようです。フロントのおばさんからも、『適当にやっとき。』と言われ、作業を始めました。
しかし、僅か2時間程度で終えてしまい、仕方なく廊下、駐車場、フロント前と普段あまりやらないようなところの掃除をして、時間を潰すのです。
午後3時。作業終了まで、あと2時間あります。僕はここで働き出し始めて、初めての探索を行うのです。今では使われていない部屋へと足を踏み入れます。
どの部屋も『倉庫』という名のゴミ置き場。ホコリは積もり、幽霊屋敷です。
ところが、使われていない11部屋のうち、2つの部屋だけはどこか綺麗に感じます。ある程度は掃除がされ、何より空気が違うのです。
それは、『人が入った空気』なのです。部屋の電気のプレーカーを上げ、照明をつけます。すると、そこはまさに客室。
ベッドに布団さえあれば、もう普通の客室でした。
風呂場を覗きました。床や浴槽にもホコリもなく、排水溝も臭いません。『誰か使ったぁ~?』とさえ思わせます。
そして、ベッドの横にはゴミ箱があって、紺のストッキングが捨てられていました。いつ、誰が捨てたものかは分かりませんが、セックスの跡を思わせます。
ストッキングを手に取ると、その中にはティッシュが捨てられていて、やはり中には使ったコンドームが丸められています。
更に部屋の隅には紺色のパンティーが落ちていて、ベッドから投げ捨てられたものでしょうか。そもそも、この部屋はいつから使われなくなったのでしょうか。
そして、その探索がよからぬ結果をもたらせます。
午後6時。僕はその空き部屋の隣の部屋にいました。実は非常階段を使えば、この隅部屋の小さなベランダまで入れることが分かったのです。
後は窓のカギさえ開けておけば、容易に侵入することが出来ました。もちろん、ホテルには至るところに監視用カメラが設置をされています。
それも全て確認済み。非常階段には設置されていないのです。
長い夜でした。そして、この日のシフトは母と大林さん。そんなにペアが組まれない二人が、組む日です。何かあるとすれば『今日』、僕の勘が働きます。
そして、深夜12時を過ぎた頃、『カチャカチャ。』とカギが差し込まれる音が聞こえました。僕は隣の部屋の壁へと耳を近づけます。
扉は開き、誰も使っていない部屋へと誰かが入って来ました。そしてその足音は2つあり、一人ではないことが分かります。
すぐに『ああ~、疲れたぁ~!』と女性の声がし、その女性はベッドへと腰掛けました。『あんたも頑張りす過ぎよぉ~。』と男性に声を掛けます。
残念ながら、それは僕の母の声でした。ということは、その男性は…。『早くしないと、紀子抱く時間ないやん。』と大林さんです。
更に、彼は『紀子。』と僕の母を呼び捨てにまでしているのです。
『まだ付き合ってないよ。』、彼の言葉が思い出されます。『嘘つき!完全に母と付き合ってるやないか!』と心に思ってしまいました。
『ウフフ…。』、二人は笑っていました。そして、『こらぁ~!』と母が声を上げ、彼が母を求めたのです。
そこで、僕は知るのです。『僕、今から母のセックスを聞くことになるの?』と。ただ、二人が怪しいと思い、ここに来ました。
しかし、その先まではあまり考えてはいなかったのです。『母のセックスをする声。』、もちろん聞いたこともなく、興味はそっちへと向かいます。
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