『早速ですが、種を蒔いたのはいつ頃ですか?』鞄からペンとノートを取り出すと彼女に質問した。『そうね…四月の末頃かな…』『土とかは其処ら辺から採ったものですか?』『土はね…市販の物を使っているわ。ホームセンターとかで売ってる物よ』僕の質問に対して嫌な顔一つせずに的確に答えてくれる。『肥料とかも必要でしょう?』『肥料はね、既に土に混じっているから特に買わないかな…。たまに追肥をするけどね。』『追肥ですか?それは?』『やっぱり、土の中の栄養分が少なくなるから肥料を足してあげるの』彼女の受け答えをすかさずノートに書き写して行く。『向日葵の写真を撮ってもいいですか?画像でも記録したいので』『ええ、良いわよ』彼女の言葉に鞄に手を入れるとデジタルカメラを取り出した。プランターで育っている向日葵を被写体として数枚撮影する。『鮮やかな緑ですね。暫く色なんて感じなかったです。色々と忙しくて…』誰にとも無く話し掛けていた。『涼介君は、勉強に部活に忙しいからね…周りの風景すら見えていないかもね…でもね、少し心に余裕が出てくると色々と見えてくるの。例えば…山の新緑や、野辺に咲く小さな花…空が青いって事も気付く時があるの。』確かにその日その日で精一杯である。気が付けば周りなど見ている余裕すら無かった気がする。『そうだ!おばさん、その向日葵と写真撮ってみませんか?隣に立つだけで良いんで』『ええ!私が?恥ずかしいな…こんな格好だし(笑)』『十分ですよ。自分の向日葵と写真に映るのもいいじゃないですか?育っていく様子も分かるし…』彼女は恥じらいを見せながらも向日葵の横に立つと右手でVサインをした。僕は、カメラのレンズをおばさんと向日葵に合わせた。緑色の向日葵の茎と彼女の黄色いTシャツが見事なコントラストを見せていた。『じゃ、撮りますよ…黄色いTシャツだから向日葵が咲いているようで良いですよ』彼女は更に向日葵に身体を寄せた。本当に向日葵のような笑顔であった。
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