「コレ」
スマホに写る僕。ビルとビルの間、立ったまま口を半開きに空を見上げている。情けない表情で喘いでいる時か。下腹部には50前後の豊満なおばさんが僕のペニスを味わっているところだ。
血の気が引いた。直後、全身の末端が痺れたようにビリビリとしてきた。なぜこの人はこの写真を。
「駅裏で見かけて、こっそりついていったら、撮れちゃった。どういう関係なのかな?」
レアなものだった。浪人生にはとても手が出ない、入荷数も少なかった。マッチングアプリで、体を、売った。一度だけのはずだった。ズルズルと二度三度と弄ばれるうち、怖くなり連絡を絶った。終わったはずだった。
「ワタシね、あなたをずっと見てたの。可愛がりたいなって。そんな矢先にこんな所。これって秘密にしたいよね?」
小悪魔のような笑顔。何を求められているのか分からず、身を硬くしたまま、片岡さんの目を見た。
「高橋くんのその弱々しいのに好戦的な目付き、好きよ。堕としたい。」
僕の太ももをゆっくりと片岡さんの指先が上下した。ぴったりと身を寄せられ、僕の腕には片岡さんの柔らかな乳房が当てられている。
「内緒にしてあげるし、良い子にしてたらご褒美も、どうかしら?」
不安と興奮が綯い交ぜになり判断がつかない。反転させた指先が、既に硬くなったペニスの上を這い回る。淡いピンクにラメの入ったネイルがジーパンに引っかかるたびに微妙な刺激を生んだ。
楽になりたい。突き抜けたい。自分の弱さを晒すことで堕ちる感覚に酔いはじめていた。
「秘密にして、ください」やっというと、片岡さんはパッと身を離した。
「良い子ね。続きはまたよ」そういうと僕のスマホを毟り取り、素早く連絡先を交換した。
僕は拍子抜けしてしまっただけでなく、行き場のない欲求に身悶えした。片岡さん。それじゃ、と振り返って去る刹那、花の香りがした。
これからどうなってしまうのだろう。そう思うと心の柔らかい部分をギュッと握られているようで、もどかしかった。
翌日、昼ごはんをいつものように簡単に済ませるとメッセージが入った。
「これから、少し時間ある?」心拍数が上がった。少し考えたが「あります」と返信をした。
「今買い物で駅裏にいるから、出てきて欲しいな」
可愛い絵文字が若干痛々しかった。身支度をして家を出る。
指定された場所にはロードスターが停まっていた。海外セレブ女優が掛けるようなオーバルの大きなサングラスのまま、片岡さんが窓から顔を出して手招きした。
「乗って乗って」言われるまま助手席に座った。目線を運転席の方に向けた途端、片岡さんの唇が飛び込んできた。重ねるだけのキス。一本入った裏通りとはいえ、人がいないわけでもない。軽く遮った。
「んふふ、ウブね」顔を離すと片岡さんは笑った。ギヤが1速に入る。急いでシートベルトを締めた。
「ちょっとだけドライブしましょ」そう言いながら車は高速に乗った。運転しながら、あれこれ詮索された。どうしてあんなコトをされていたの、という問いに対して答えると片岡さんは笑ったあと、恐ろしく神妙な声色で「安売りは、ダメよ」と言った。
高速のパーキングエリア、人はまばらだった。駐車すると僕の手を引いて売店へと向かった。「何味がいい?」どれでも良かったがバニラにした。滑らかな牛乳の味がした。
パーキングエリアの隅にはドッグランと顔ハメ看板があった。また手を引かれた。二人で看板の後ろに広がる山を眺めた。「高橋くん」横を向くとまたキスをされた。目の前の絶景と、デートのようなこの雰囲気に流されて、今度は拒まなかった。
ヌメヌメとした舌が僕の唇の間に入ってくる。舌先が舌を歯の裏を縦横無尽に這い回る。脳が軽く痺れてくるのを感じた。手は当然のようにジーパンの上からペニスの輪郭をなぞっている。
片岡さんが僕を求めてくれること、それについて理由が必要なくなって来ていた。
流れに身を任せ、求められたら差し出す。これが片岡さんの言うオモチャなんだろうかと思った。
「行こっか」
合流地点からの加速が、先程より爽快さを増した気がした。
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