メディカルセンターにて…
〈出逢い 4〉
先ほど外国籍の女性が入っていった隣の扉が『ガチャッ』と開いて女性の検査技師が現れた。
「ヤマネさん、ヤマネケンイチさん」
「此方にどうぞ」
「じぁ、行ってきます」
と、検査室に入った。
手前の小部屋にはソファーがあり、脱衣籠が置いてあった。
「ヤマネケンイチさん、右手ですね?」
「検査技師の◎◎です、宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いします」
「比較対照の意味もあって両手を検査していきます」
「はい」
「電極を付けた検査のあと、触診検査も行います。少し痛いことも有るかもしれませんが、必要な検査ですので…、よろしいでしょうか?」
「はい」
「ヤマネさん、下は半袖のTシャツか何かですか?」
「はい」
「ではTシャツになって頂いて、下は(下半身)はそのままで結構です、ネックレス 時計 携帯電話などはこちらにおいて、準備が出来ましたら検査室にお入り下さい。中に入られましたらベッドの上に仰向けに、頭はこちら側で横になって下さい。よろしいでしょうか?」
「はい」
「では、お願いします」と検査の中に入っていった技師さん、何と事務的なことか。それは検査が終るまで一貫していた。
一通りの検査が終わって出てくると裕美さんの姿はなかった。
しかたなくレントゲンにむかった。
ここにも幾つものソファーと扉があった。
そこそこの人数、誰もがレントゲン待ちの様だ。が、裕美さんの姿はない。
私はさっきの検査室の前に戻った、が、誰もいない。
1番手前のソファーに座り足を組み、「考える人」の様な格好でスマホを眺めていた。
『ガチャッ』っと扉が開いた、裕美さんではなかった、またスマホに視線をおとす。
それから何分待っただろう?、また『ガチャッ』っと扉が開いた。
私に気付いた裕美さんが「山根さん!」と。と、すぐに振り返り技師さんへ せわしなく頭を下げている。
「どうしたんですか?山根さん」
「まだ(検査)終わってなかったんですか?」
と、私の隣に座った。
「いえ、あとはレントゲンなんですけど、行ったら田中さん居なくて。で、戻ってきました。」
「(電気)結構ビリビリきたし、触診も結構痛かったんで、田中さん大丈夫かなぁ?って」
「そんなぁ、心配して下さったんですか?、ありがとうございます」
「良かったぁ、検査 痛かったけど時間がかかって…」
「でもアレですよ、私が先に帰ってたら どぉしたんですか?、ずっと待っててくれたんですか?」
「そん時はそん時ですよ。」
「田中さんも次はレントゲンだって思い込んでましたから、先に帰って…なんて考えもしませんでした」
「それより何より長くって、木曜日なんて」
「木曜日までなんて待てなくて…」
そこまで言ってしまって我にかえって しばしの沈黙に妙な空気になってしまった。
じっとファイルを見つめたままの裕美さんが
「私もです」
「(検査が終わって)身支度しながら、もうレントゲン終わっちゃったかなぁ?とか、まだ会計あたりに居るかなぁ?とか…」
「あのぉ…」
と、裕美さんが何か言いかけた時に私が
「(田中さん)レントゲンは?、今日はこれで終わりですか?」
「はいッ。ですッ。いえ、レントゲン、レントゲンです」とあたふたしていている。
「良かった、行きましょ」と、裕美さんの背中に手を添えた。
レントゲンの受け付けにファイルを出し、番号札をもらい、ソファーに座って順番をまった。
番号札は、裕美さん→私 の順。
待ってる間に裕美さんの症状を教えてもらった。
私と同じガングリオンではなく、手根幹症候群らしかった。最悪 手首を切開して、圧迫されているスジや血管を解放してあげる手術が必要なのだとか。
その判断の為の幾つかの検査らしい。
裕美さんが先に呼ばれた。
その裕美さんと入れ替わりで私。
終わって出てくると すぐに裕美さんが此方にやってきた。
最初の受け付けの時に渡された番号札だけを持って 会計で待った。掲示板に番号が表示されたら〈会計が出来ました〉と言うことらしい。
並んで座って待っているものの 微妙な空気に支配された、会話もなく 2人して掲示板とにらめっこをしている。
時計は12時を回っていた。
どうやって昼食に誘おぅか?、そればかりを考えていた。
『ファァン』と裕美さんの番号が表示された。
「(番号)出ましたよ」
「ええ…」
「(お先に)どおぞ」
「えぇ、じゃぁ」
ちから無く立ち上がった裕美さんが会計に向かった。
『ファァン』、すぐに私の番号も表示された。
歩みをとめて振り返った裕美さんが微笑んでいた。
私の隣の窓口で会計している裕美さんが バッグの中をゴソゴソと探している
「…やっぱり車に置いてきてしまったみたいです」
「そうですか、次はお持ち下さい、割り引きが受けられますから」
「はい」
どうやら駐車券の事を言ってるらしい、患者さんは何時間かかっても一律料金らしい。
会計を終え、駐車料金の精算機に駐車券を入れた、100円の表示。
裕美さんは その間も隣で待ってくれている。
「おなか、すきません?」
「誘われて もらえませんか?、お昼」
小銭入れから100円を出しながら言った私に
「何それ、可笑しい、『誘われて…』って」
「でも、ありがとうございます」
「『誘われて』差し上げます」
裕美さんがニッコリしていた。
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