メディカルセンターにて…。
〈出逢い 2〉
トイレに向かう彼女の後ろ姿を目で追いながら、ポケットからスマホを取り出した。
病院に着いてから もつ1時間以上経っていた。
私の左前に立った彼女は、バギーパンツとかガウチョパンツとか言ったかもしれない 太目のズボンをはいていた。
勝手な想像かもしれないが 本来なら〈ゆったり〉と着る物なんじゃないんだろうか?
なのに彼女のお尻は それでも窮屈そうにしていた、その証拠に、うっすらとパンツの線も透けていた。
前だけズボンの中に入れて、後ろは垂らしてお尻を少し隠す。ここ最近は何処でも良く見掛けたスタイルだか、短目の彼女のカットソーは、より窮屈さを強調している様だった。
じきに49なる私より歳上にみえた、おそらく50は出ているだろう。
が、けして〈垂れている〉訳でもなく、ちゃんと主張していた。
そんな〈お尻〉に魅せられて、肩を叩いたのかもしれない。
胸にしても きちんと主張している。
〈トップ〉と言うのだろうか?、高い。
私の周りにいる同年代や歳上の女性のそれは、あばらに近いと言うか、若い娘に比べたら もう少し下の方に下がっている気がする。
が、彼女のトップは ちゃんと〈胸にある〉、そんなふうに見えた。
ガードルとか 何とかブラの成せる技なのか、はたまた体型維持の為に何かをしているのかは定かではないが、あの お尻に浮き出て見えた〈線〉は、ガードルとかでは無いだろう。
いったい〈主張〉の正体は何なんだろう?
そんな事を考えながら、見てもいないヤフーのページをスクロールしていた。
「ありがとうございました」
トイレから戻った彼女が、そう言いながら 前かがみでカーディガンに手を伸ばした。
スケベおやじの性 とでも言うのか、彼女の胸元に視線が吸い寄せられる。
が、残念なことに〈谷間〉までは確認する事が出来なかった。
「今日は?、どうなさったんですか?」
私の右隣に座った彼女が聞いてきた。
「これ なんですけどね」
と、手の平を上にして彼女の前に差し出した。
「あっ。え~っと、ガングリオン」
「…ですよね?」
「ご存知なんですか?」
「えぇ。」
「私も右手なんですけど。だんだん痺れる様になってきて。最近では 何もしてなくても ずっと」
「で、怖くなって検索してたら…」
「もしかしたら、そちらも?」
「いえ、私のは……」
彼女が言いかけた その時に
「ヤマネさぁん、ヤマネ ケンイチさぁん」
と、〈問診〉から呼び出された。
「ごめんなさい、お先に…」
軽く頭を下げて『ったく!、ろくな病院じゃね~な』
そんな事を頭の中で ぶつくさ言いながら〈問診〉に向かった。
問診を終えて〈診察室3〉の近くのソファーに座った。4人掛け位だろうか、問診の所とは違い こちらのには ちゃんと背もたれがあった。
ヤフーのトップニュースか何かで暇を潰していた。
「ヤマネさん、ヤマネさん」
『早ぇぇ。』と思いながら顔をあげると、看護士さんではなく 彼女だった。
「ヤマネさんは?、(診察室)3番ですか?」
「えぇ。」
「同じです、よかったぁ」
2人のやり取りを聞いていた同席の老夫婦の奥さんが
「…どうぞ」と、旦那さんの方に詰めてくれた。
「ありがとうございます」
そう言いながら彼女が、今度は私の左隣に座った。
その彼女が
「私、(名前)こう言います」
と、問診から返されたファイルを見せてくれた。
受け付け番号の上に〈田中裕美〉と漢字で書かれていた。
「田中…、ヒロミさん?」
「はい」
「何処にでも居る名前でしょ?」
ニコッと微笑んでいる。
「私は(名前)こうです」
と、〈山根健一〉と書かれた番号札をファイルごと 裕美さんにみせた。
「私は さっき(山根さんが)呼ばれた時に…」
「なので、私だけ(知ってる)っていうのは失礼かな?、って」
「ありがとうございます」
「個人情報が漏れて かえって良い事もあるんですね?」
少し照れた様に裕美さんが
「…ですね」
〈ファァン〉
診察室の表示板に 新しい番号が表示される時に そんなふうな音が鳴る。
それを指差した裕美さんが
「あれ(番号)、山根さんじゃ?」
「そうです、ようやくでましたね」
「すぐ呼ばれると良いですね?」
「でも、あれですか?、(ガングリオン)痛いですか?、今も」
「今はそうでも…」
「でも、(手首)曲げると、どうしても…」
「あと、重い物持てないし、ペットボトルはあけらんないしで…」
「ビールなんかも。あける時は左であけるんですけど、つい右手で持ってしまって、何回落としたか」
「…わかります、それ」
「私はこれです、いつも携帯してます」
と、バッグの持ち手ついたキーホルダーをはずした。
小さな虫メガネのレンズの無いやつ、そんなふうな物が出てきた。
「こっち(レンズの無い部分)でペットボトル、で、こっちの持つ所でプルトップ」
「便利ですよ、あけやすいし」
「100均でも売ってます」
「でも、私のは(親指の付け根)ここだけじゃないんで」
「この中にも有って…」
と、手の平を上にして 〈頭脳線?〉と〈運命線?〉が1つになる辺りを擦ってみせた。
「えっ?、そうなんですか?」
「手の中にも?、(見せてもらって)いいですか?」
と、裕美さんの左手が 私の右手を下から支えた。
そして右手で私の右手を フワッと優しく包みこむ様にしながら 裕美さんが私の右手を引き寄せた。
ドキドキしていた。
年甲斐もなくドキドキしていた。
「…このへん、ですか?」
中指で、『この辺にもある』と言ったあたりを擦りだした。
「痛っ!」
たいして痛くもなかったが、大袈裟に痛いふりをして裕美さんの手を跳ねのけた私の右手が 裕美さんの右の胸に当たった。
「あっ、ごめんなさい。ホントごめんなさい」
「いえっ、私の方こそ(ゴメンなさい)」
「痛かったですよね?」
「痛かったですよね?、これから診察なのに ホントにゴメンなさい」
裕美さんはそう言いながら、自分の胸にかかえながら、優しく ゆっくりと擦ったり、『ふーっ、ふーっ』と吹いたりしてくれていた。
ドキドキしていた。
〈脈〉のあたりに触られようものなら、すぐにバレてしまいそうなくらいドキドキしていた。
そのドキドキは すぐに股間に伝り ムクムクと頭を持ち上げはじめた。
「大丈夫です」
「もう大丈夫ですから」
「ありがとうございます」
「ホントに?」
「ホントに大丈夫ですか?」
「ゴメンなさいね、私ったら…」
周りの人達には どう映ったのだろう?
いい歳した男女が 中学生か何かの様にジャレあって、人目も憚らずに。
そんな事は意に介さない様に 裕美さんは まだ私の手を擦ってくれている。
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